Interview

かわいい絵柄からは想像できなかった…“闇が深すぎ”アニメ『星合の空』 普通じゃない魅力を増幅させた音楽世界を訪ねて

かわいい絵柄からは想像できなかった…“闇が深すぎ”アニメ『星合の空』 普通じゃない魅力を増幅させた音楽世界を訪ねて

さまざまな痛みと悩みを抱えた14歳の多感な少年たちが、ソフトテニス部の活動を通じて心を寄せ合い、成長していく。TVアニメ『星合の空』は、親から子への虐待やモンスターペアレントを持つ子どもの苦悩、LGBT問題など、これまでスポーツアニメでは真正面から触れられることのなかったリアルな問題に踏み込む意欲作だ。

本作の劇伴音楽を担当したのは、ジャズ、ロック、ポストロック的感性を、テクニカルでエモーショナルなグルーヴ感と叙情的な旋律とアンサンブルで聴かせる京都発のインストゥルメンタルバンド・jizue(ジズー)。彼らの音楽は、これまでのアニメ音楽にはない新鮮さを『星合の空』に提供。作品自体の個性と相まって、耳と心にしっかりと残るサウンドと映像のコラボレーションを果たした。劇伴制作は初めてだというjizue。劇伴の全楽曲の作曲者でありギタリストの井上典政、そしてピアニストの片木希依のふたりに制作秘話を聞いた。

取材・文 / 阿部美香 構成 / 柳 雄大


驚くべき展開の連続に…「これ、どういうお話になるの!?」

Ⓒ赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

まず、実際に『星合の空』のアニメーションをご覧になったご感想はいかがでしょうか?

井上典政 曲を作る前に、スタッフさんから「だいたいこういう作品になります」という話は聞かせてもらって自分なりに想像していたものがあったんですけど、それをはるかに超える“闇”というか……。

片木希依 そう、主人公の桂木眞己くんのお父さんとか……闇が深い。

井上 エピソードがそれぞれ、すごく嫌なところをついてくる。そこがすごいと思いました。「アニメってこういう世界観もアリなんや!」と、毎週続きがすごく気になりますよね。

片木 私も作品のキービジュアルを見せていただいたときは、美しい作品だなという第一印象でした。でも、井上くんが京都に持って帰ってきた、サウンドトラック制作用に監督さんたちが1曲ずつのイメージを書かれたオーダーシートを見せてもらったら、けっこうザワつく心情を表現する言葉が多くて。「これ、どういうお話になるんやろう?」と思うようになりました。そして放送を観たら、さらにショックなことが多くて驚きました。

Ⓒ赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

印象的なシーンはどこでした?

井上 一番嫌やったシーン……嫌なシーンからで申し訳ないですけど(笑)、雨野 樹くんが赤ちゃんの時に背中にお湯をかけられていた回想シーンですね。育児放棄や子供の虐待事件がニュースにもなっている時代に、リアルなところをついてくるなと、悲しくなりました。

あとは、部内で前衛・後衛のペアを新しく決めるところ。眞己くんの天才を、エピソードを通して表現しているところが好きです。キャラクターみんな可愛いのもいいですね。

Ⓒ赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

片木 私が一番印象的だったのは、やっぱり第1話の最後。眞己くんがソフトテニス部に入る代わりに、「じゃあお金くれる?」って言ったことですね。「え? このドラマ何?」って。陰な部分があるお話を匂わせてはいたけど、「振り切ったな!」と。そんなに攻めるんや!という心意気を感じました。

井上 1話ごとに必ず、「おっと!」と思わせるシーンがありますからね、『星合の空』は。

片木 キャラクターそれぞれが、何かしら家庭や自分に問題を抱えているというのも、今の時代のドラマだなって思います。

jizue

今回は、そもそもどんなキッカケで『星合の空』のサントラを担当されることになったんですか? アニメの劇伴をバンドが担当すること自体が珍しいと思いますし、jizueさんにとっても劇伴制作は初めてですよね。

井上 じつは『星合の空』の音楽スタッフの方が、あるカレー屋さんで食事をしていたとき、たまたまjizueの音楽が流れていたらしく。それを気に入っていただけて、『星合の空』にどうだろうか、と監督さんに話を持っていってくれたのが始まりなんです。運命的な出会いでした(笑)。

片木 という話を、井上くんから聞いて、私たちメンバーもびっくりで。

井上 以前からずっと、映像と絡めた作品づくりをやりたい思いは強かったんです。なので映像に自分たちの音楽を乗せていただけるのはとても光栄で。即、「やらせてください!」と返事させてもらいました。

ちなみに、お二人はアニメはよくご覧になるんですか?

井上 僕は正直、アニメをそれほど観るほうではないんですね。世代的にみんなが観ている、『ドラゴンボール』とか『ONE PIECE』を観てきたくらいです。

片木 私は、アニメでいえば菅野よう子さんの音楽がめちゃ好きなんですよ。『坂道のアポロン』とか、他のアニメも「音楽がいいな~」と思うと菅野よう子さんの作品であることがすごく多いんです。なので、自分が音楽でアニメに関われるのは、めっちゃ嬉しいですね。

音楽的には複雑なことをやっていても、アニメとうまく調和しているのがすごい!

Ⓒ赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

劇伴を作るにあたって、監督の赤根和樹さんや音響監督の明田川 仁さんと打ち合わせをされたと思いますが、全体的にはどんなオーダーがあったんですか?

井上 オーダーシート以外、音楽性に対する注文というのは、ほぼなかったですね。逆にあまり考えすぎなくてもいいと監督さんから言われました。jizueとしてのバンドの色を出してもらっていいから、やりたいように作ってくれと。それがとてもありがたかったです。

jizueさんは、バンド音楽の中でも変拍子が特徴的だったり、いわゆるポスト・ジャズロックと呼ばれるようなジャンルの音楽性が強い。音楽シーンの中では、ちょっとマニアックで難しい音楽ですよね。普通、アニメの劇伴というとストリングスが中心であったり、音楽を題材にしたアニメ以外でバンドサウンドが使われること自体も珍しいので、『星合の空』の劇伴は、じつに新鮮に感じます。『星合の空』ファンの方の声は、どのように届いていますか?

井上 たぶんjizueのことを知らない人、ふだんインストを聞かない人たちが、僕らの曲に反応してくださっているというのは、ちょくちょく耳にしますし、すごくありがたいです。「jizueみたいな音楽でも、アニメファンの方に受け入れてもらえるんや」と。たしかに音楽的にはけっこう難しいことをやってるので、聴きにくい音楽かもしれないんですけど、それがアニメと合わさると、いい感じで調和されるのかもしれないですね。

片木 それで思い出したんですけど、『NARUTO -ナルト-』のエンディングテーマ(「Wind」)をAkeboshiさんがやっていて、あれがたしか5拍子の曲なんですね。私たちも変拍子を推しにしているので、変拍子のちょっと違和感があるようなバンドの音が、アニメにハマるというのは、すごく嬉しいことだなと思ってました。

Ⓒ赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

むしろ、定石をよく知っている音楽ファンより、アニメファンのほうが音楽そのものを素直に受けとることができるのかもしれないですね。アニソンには、一般的なJ-POPよりアグレッシブな楽曲がたくさんありますから(笑)。

井上 なるほど、そういうことかもしれないですね。

片木 だとしたら、初めてのサウンドトラックがアニメで本当に良かった(笑)。

井上 あと実際に『星合の空』を観ていると、「上手に音楽を使わはるな」という印象がすごいですね。「この曲をここで使うんや!」とか「想像していたのと真逆のシーンで使うんや!」という曲もたくさんあるし、しかもそれがすごく場面とマッチしているのに驚きます。

哀しいシーンで使われる想定で作った曲が、明るい場面に登場したり?

井上 そうですね。逆に「このシーンのほうが、僕の曲がいい曲に聴こえる」と思うこともあって(笑)。音量感も場面場面で丁寧に考えられていて、音響監督さん、監督さんの力ってすごいなと。

片木 曲の一部を抜いて使われることもありますしね。「そことそこを繋ぐんや!」みたいな。でも全然違和感なく1曲に聴こえる。マジカルなことがいっぱい起きてるんですよね。

ピアニストには絶対に思いつかない!? 特徴的な“16分音符の高速アルペジオ”

『TVアニメ「星合の空」ORIGINAL SOUNDTRACK』にはjizueさんの楽曲が38曲収録されています。とくに印象的な曲はどれですか?

井上 一番時間をかけたのは、「W -星合の空-」ですね。

ソフトテニスの試合シーンでよく使われている曲ですね。曲調としては、jizue本来の楽曲に一番近い。

井上 はい。もともとこの曲は、オーダーシート上は試合の展開に合わせた4つか5つの短い曲に分かれていたんです。でも僕は、それを1曲に繋げて、試合の頭から終わりまでの流れとして作ってみたいと相談させてもらいました。そこか場面に応じて切り分けて使ってもらえたらいいなと。

約3分半という、劇伴としては長尺の曲になったのは、そういう理由だったんですね。どういう展開を考えられたんですか?

井上 僕もステージにギターを担いで出ていった瞬間はそうなんですけど、まずはコートに立って試合が始まる前は、キャラクターはめちゃめちゃ緊張すると思うんですよ。その緊張感を、始めのピアノのタカタカタカというフレーズで表しています。そこからはガムシャラに戦って、点を取ったり取られたりする熱くなる感じがあるので、その感覚をサビでバーッと広げたいなと。

Ⓒ赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

その熱く盛り上がっていく曲調が、jizueのライブ感あふれるグルーヴィーな展開で表現したと。

片木 私もこの曲は、とてもjizueらしいと思いました。jizueの中にも、優しい曲から男臭い激しい曲までいろいろあるんですけど、一番激しいところに近しい強い曲になりましたね。これをアニメで流して大丈夫なのかと思うくらい(笑)。

『星合の空』をずっと観ていると、最初のピアノの16分音符の速いアルペジオを聴くだけで高揚しますよ。

片木 そうなんですよね。あのアルペジオは私たちの強みでもあって。jizueでは「タカタカフレーズ」って呼ばれているんです。でも、これってピアニストは絶対に思いつかないフレージングなんですよ。運指に無理があるから。ギタリストの井上くんが、打ち込みで作ってくるからこそのメロディーなので、いつも弾くのがめっちゃ大変です(笑)。

Ⓒ赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

他に好きな楽曲を挙げていただくと?

井上 僕は「ickle」が好きですね。日常シーンでよく使われています。アコースティックギターがメインなんですけど、jizueではアコギは普段ほぼ使わないので、何回も録り直しました(笑)。優しい曲にしたかったので、鍵盤もピアノが入るとちょっと冷たい印象になるのでエレピ(電子ピアノ)に替えました。

片木 私は、ピアノだけの「euphoria」という曲が好きです。jizueらしい綺麗で高いメロディーと、井上くんらしい変化のあるサウンドが合わさって、すごくいいなと。私が生ピアノで弾いた音源を、井上くんが打ち込みっぽく直している感じが面白いですね。

井上 「euphoria」はオーダーシートには「夕暮れ」というキーワードがあったんです。哀しいメロディーなんですけど、アニメ本編では温かいシーンで使われていて、逆にすごく優しい曲に聴こえたのが印象的ですね。アルバムの曲順として、最後から2曲目に配置したんですが、この曲からラストに収録されたエンディングテーマ(「籠の中の僕らは」/AIKI from bless4)に繋がる流れもすごく好きです。

Ⓒ赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

アルバム13曲目に収録された「sole male」はフリージャズ的なトランペットの響きが非常に印象的。他の楽曲とはまったく違うテイストが面白いですね。

井上 これは、オーダーシート的にはダークサイドのほうだったと思いますね。桂木眞己くんの闇のお父さん系の(笑)。

片木 お父さん、すぐ闇を運んでくるから!(笑)

井上 だからフリージャズ的な不安定さを採り入れたかった。これはもうトランペットの音しか絶対に合わへんなと。演奏してくださったのは、僕の大好きな、京都のミュージシャンに愛されているドクター長谷川さんという居酒屋の店主の方なんですけど。

片木 「京都大作戦」というフェスでは10-FEETのトランペットを吹いていたり、韻シストと一緒にやられていたり、京都のミュージシャンにすごく愛されてる方で。

井上 この曲の旋律も、僕が「こういうラインを吹いてください」と作ってからレコーディングしたんですが、すごいアドリブがどんどん出てきたので、そちらを残させてもらいました。さすがでした。

サウンドトラック38曲の曲名、実は……

Ⓒ赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

今回のサントラは、ジャズあり、ロックテイストあり、美しいピアノ曲、音像の面白いエレクトロなトラックありと、単独の音楽としてもとても聴き応えがありますし、映像と重ねて聴いても新しい感覚に浸れる。jizueのアルバムとしても、劇伴としても楽しめる1枚になっていると思います。

井上 そう言っていただけると嬉しいです。作曲、演奏はもちろんですけど、ミキシングにもかなりこだわらせてもらったので、『星合の空』を観て僕らの音楽がちょっとでも気になってくれたら、ぜひライブにも遊びに来てもらいたいですね。

ちなみに、今回のサントラ制作で一番苦労したことは何でしたか?

井上 ある意味、一番の苦労が……曲名ですね(笑)。僕らはインストバンドなので、歌詞がない。だからなおさら、意味のないタイトルはつけたくないんです。一度に38曲のタイトルを考えるのはさすがに大変でしたけど、せっかくなので、曲名に隠しメッセージを暗号にして入れさせてもらってます。

暗号ですか!? どこに仕込んであるんだろう?

片木 私も答えを教えてもらってないんですよ! でも、ほぼ全部英語の小文字で曲名がついてますけど、ところどころ大文字が混じっている曲がある。私はそれがカギだと思いますね。ちなみに、暗号を解読したらどんな気持ちになるの?

井上 楽しい気持ち、嬉しい気持ちになれるんじゃないかな。これは僕から皆さんに向けたメッセージなので、ぜひ解き明かしてもらえたら。このアルバムの発売の翌日が『星合の空』最終話になるんですが、実は僕らも結末を全く知らないんですよ。もうちょっと続いて欲しいな~と思いつつ、僕らもドキドキしながら観るので、皆さんもぜひ、一緒にドキドキしながら観ていただけると嬉しいです。

TVアニメ『星合の空』

放送中

TBS 毎週(木)深夜1時58分~
SBS 毎週(火)深夜2時25分~
BS-TBS 毎週(土)深夜2時00分~

©赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

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