サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 21

Column

“青春期”の意味を新たに問い直した『Young Love』

“青春期”の意味を新たに問い直した『Young Love』

2018年にデビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。


しばらくソロ活動が目立ったあとのバンドによるシングルは、“このメンバーならでこそ”を目指す。「マンピーのG★SPOT」(95年5月)は、まさにそんな楽曲だ。ここに聴かれるグルーヴは、冒頭から重機が突き進んでいくかのようなような迫力で、メンバー全員が拍子を合わせ、体を揺さぶる絵柄が浮かぶのだ。

曲調からして、“ライブで大活躍してくれる新曲”ということは折り込み済みだっただろう。その後のこの作品の、ステージにおけるスペクタクルな発展は、みなさんご存じの通りである。“マンピー”や“G★SPOT”という言葉は、場所によっては口に出すのを憚られるものでもある。しかしそれが野外の巨大なPAから放たれた時の解放感とカタルシスは、一度体験すればヤミツキになるタイプのものである。おそらく桑田は、当初、あくまで“ちょっとだけよ”という積もりでズラを被ったはずだ。しかし今や、サザンオールスターズの伝統芸能と言われるほど定着した。モノゴトというのは、やってみないと分からないものなのである。

約4年ぶりのアルバム『Young Love』がリリースされたのは、96年7月である。前作『世に万葉の花が咲くなり』は、重層的なアイデアが光る作品集だった。それに較べて今回は、シンプルで明快な聴き心地が目立つ。先行シングルの「あなただけを〜Summer Heartbreak〜」などは典型で、何よりバリトン・サックスの響きが開放的で心地よく、メロディも太いし安心して身を任すことが出来る。発売当時、桑田自身も「大好きな曲」と言っていた。

このアルバム。曲によっては「バンド・サウンドへの回帰」と評することも可能だろう。「Young Love (青春の終わりに)」や「汚れた台所(キッチン)」には、メンバーの等身大のアンサンブルが響いている。そういえば、2018年6月25日と翌日の『キックオフライブ2018「ちょっとエッチなラララのおじさん」』のNHKホールでも、「汚れた台所(キッチン)」は演奏されていた。バンドに再びエンジンを掛けようとする時、格好の楽曲なのだろう。

タイトルの“Young Love”について説明する。桑田がレコーディングの1年ほど前から自宅のメッセージ・ボードに書き記していた言葉だった。当初は深い意味などなかったが、やがて同名のアルバム・タイトル曲が出来上がると、「“青春期”はこの歌の主人公、さらに自分に、本当にあったのかな」と考え始めた。桑田はこの時、40歳を迎えており、それもあったろう。そしてこの曲は、「同世代へのエールというか、お互いの励ましでもある」と言っていた(『ワッツイン』96年9月号)

音楽が大好きでバンドをやってきた自分達と、素直に向かいつつ作り上げた曲達でもあった。メンバーそれぞれがロックの名作をパロってコスプレするジャケットは、そのままこのアルバムの中身を示唆するものでもある。

ちなみに「Young Love (青春の終わりに)」は、ビートルズが使っていたようなリッケンバッカーのギターも持ち出しつつ、当時の音(60年代前半)を再現する努力もしたという。ビートルズといえば、「胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ」で愛を捧げているのはジョージ・ハリソンだ。いっぽう、ビートルズとくればディランだが、「汚れた台所(キッチン)」がまさにそうだ。前作にも「ニッポンのヒール」という、ディランへのオマージュがあった。この2曲はともにメッセージ性がある。桑田が曲を作りディランが顔を出す場合というのは、モノ申すことがある場合が多いようだ。

「マリワナ伯爵」という過激なタイトルもあるが、これは“モノ申す”とは無縁の、単なる語呂から出てきたものだった。しかしこの曲は、音楽的には非常に意味のある作品で、サウンドは、いわゆる「ベイ・エリア・ファンク」と呼ばれるジャンルをシミュレーションしている。タワー・オブ・パワーやコールドブラッドなどの雰囲気があり、これはサザンオールスターズのメンバーが、若いころに憧れたサウンドのひとつだ。大好きなものにストレートに寄っていく、ということでは、シングルになった「太陽は罪な奴」もそうだろう。この曲ではモータウン・サウンドへのシンパシーを、ストレートに響かせている。

この時期のサザンオールスターズの作品で、津々浦々で聴かれたのは、シングル「愛の言霊(ことだま) 〜Spiritual Message〜」(96年5月)だが、非常に不思議な曲というか、娑婆と霊界行き来するような、厳かなようで面妖なような、独特の雰囲気があった。当時、この曲に関して桑田は、「アジアやニューヨーク、ヨーロッパの情報なども意識しつつアレンジした」(『ワッツイン』96年9月号)と言い、でも興味深いことに、逆にそれが日本人ならではの侘や寂の感覚を浮かび上がらせたのだ。このアルバムにおけるメンバー以外の功労者のひとりがサックスの山本拓夫であり、この曲もそうだが、「Moon Light Lover」のホーンも実にいい味を出している。

文 / 小貫信昭

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