マンスリーWebマンガ時評  vol. 1

Review

いま読むべき、縦スクロールマンガ3選

いま読むべき、縦スクロールマンガ3選

ウェブ発マンガのヒット作・映像化作品が多数生まれています。
スマホでマンガを楽しむ読者も増えた中、韓国・中国では主流の縦スクロールマンガ「ウェブトゥーン」の存在も見逃せません。
これからますます注目度が高まるウェブ発マンガの世界を、毎月のテーマごとにレビューする連載の第1回です。

文 / 飯田一史


コミコン来日作家が描く、韓国の『あしたのジョー』!?

『シャーク』(原作:雲、絵:WOOSUB、協力:正拳 / Toyou’s Dream) ピッコマにて配信

2019年11月22、23日に開催された海外コミックの祭典「東京コミコン2019」にて絵を担当するWOOSUBが来日し、ライブペインティングを披露した『シャーク』。

渋谷 聡は、中学時代に凶悪なボクサーである同級生・尾崎ヒロキに奴隷にされ、自殺未遂にまで追い込まれたが一念発起して名門私立高校に入学、晴れて平和な日々が送れると思ったところに、なんと尾崎が転校してくる。再び悪夢の日々になることを恐れた聡は、ペンで尾崎をメッタ刺しにし、少年刑務所に送られるが――死ななかった尾崎は「出てきたらお前を殺してやる」と聡に告げる。
聡は来たるべき再戦に備え、獄中で出会った兵藤 真に弟子入り。兵藤は総合格闘技の世界チャンピオンだったが、試合後、自宅に帰ると強盗に妻と母が殺されているところに出くわし、その場で強盗三人を撲殺し、やはり刑務所入りしていた。

ひ弱だった聡は世界チャンプ仕込みのトレーニングと刑務所内の数々の猛者との戦いを経て徐々に成長し、そしてついに出所の日を迎える。
物語はそこでは終わらず、ともに強さを求める尾崎と聡の因縁、尾崎が所属する反社会的組織の狂った面々に目を付けられ狙われる聡と元クラスメイトの由香、刑務所内で拳を交わし合う中で生まれた奇妙な友情のその後、そして最強の男・兵藤が出所後に目指す高みを描いていく。

相手の頭をつかんで地面に叩きつける、または飛び回し蹴りで足を振り下ろすといった上下の動きをダイナミックに描くが、これは縦スクロールならではの表現だ。

刑務所内での友情と運命的な出会い、そしてその後を描いた格闘マンガといえば高森朝雄(梶原一騎)原作、ちばてつや画の『あしたのジョー』である(奇しくも本作でもコークスクリューブローが必殺技のひとつになる)。精神のギリギリの部分まで切り込んでいくところも含め、個人的には“韓国の『あしたのジョー』”と呼びたいくらいの作品だ。

ピッコマ『シャーク』配信ページ(毎週火曜日更新)
https://piccoma.com/web/product/2880

いまリアルタイムで読むべき“メイクをマスターしたら人生変わった”マンガ

『女神降臨』(作:yaongyi / LINE Webtoon) LINEマンガにて配信

『女神降臨』は「LINEマンガ」の「毎日無料」タブ月間読者数ランキングで12ヶ月連続1位を記録するほどの人気作。2019年11月には紙のコミックス第1巻が発売された(1話から8話まで収録)。

地味で化粧をしたことがない主人公の谷川麗奈が、春休みの間にメイクの達人になり、中学時代の人間関係を断ち切って高校デビューに成功する。
ところが麗奈は学校からの帰宅後、家や近所を出歩くときは別人のようなすっぴん姿で過ごし、夜な夜なこっそり愛読しているホラーマンガなどを調達に行く。

そこで出会ったいけすかないイケメンは、実は同じ学校に通う神田 俊。
化粧しないとブスだとバラされたくない麗奈は、レンタルマンガショップで出会った女と学校ですれ違う自分が同一人物だと悟られないように必死で振る舞うが……という内容のラブコメだ。

この作品の魅力のひとつは、インスタでインフルエンサーの投稿を見ているかのような登場人物達のメイクやファッション、決めゴマの絵の美麗さだ。

ストーリーが進行するにつれ、麗奈は神田だけでなく、彼の親友でともにアイドルを目指していた苦労人の悠とも接近していくが、実は陰のある過去や事情を背負っている彼らの姿も胸を打つ。

メイクやファッション、小ネタなど、いまを生きる人たちがリアルタイムで読んでこそのよさ、おもしろさにあふれる作品なので、ぜひLINEマンガでの連載最新話まで追いついてほしい。

LINEマンガ『女神降臨』配信ページ(毎週土曜日更新)
https://manga.line.me/product/periodic?id=Z0000209

韓国フェミニズムの流れを汲んだ、百合ヒューマンドラマ

『彼女の沈清』(作:seri/biwan / WISDOMHOUSE PUBLISHING) comicoにて配信

チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』が10万部以上のベストセラーになり、「韓国・フェミニズム・日本」特集をした文芸誌「文藝」が創刊以来86年ぶりの3刷になるなど、日本でも韓国フェミニズムに関する注目が高まっている。

小説以外でも当然フェミニズム的な視点から描かれた作品はある。この『彼女の沈清』もそうだ。
本作は韓国の民話『沈清伝』を再解釈したものだが、原作を知っている必要はまったくない。

瑠璃国の大臣夫人(後妻)となった若き「奥様」が川で溺れたところを物乞いの沈清に助けられ、彼女を屋敷の下女として迎え入れたことから物語は始まる。
主人公のひとりは「奥様」「夫人」と呼ばれるだけで、名前がない。この世界では女性は「沈清」のような通称以外の名前を持たない。ここに女性の社会的地位の低さが象徴されている。
病死した母と盲目の父を持つ沈清は、汚い格好の物乞いの存在を必要とする寺の偉い坊主に利用され、奥様からもらったきれいな服を着ていると「心が汚れた」と罵られる。奥様は小さい頃から自分を殺し、男性を立てていれば遇されるという処世術を身に付け、声をあげずに生きることを選んできた。

裕福な家の夫人となったおしとやかな奥様と口が悪くて手が早い物乞いの沈清は、一見すると正反対だ。だがふたりはともに男性優位社会で抑圧され、男性であれば許される発言や行動でも、女性がすると途端に攻撃されるという理不尽と戦って生きる同志なのである。

しかしふたりの関係は、実は奥様が川で溺れる原因となった龍の怒りを鎮めるために、処女の生け贄を必要としていたことを隠して、奥様が沈清に近づいたことに始まっていた(龍の怒りは、龍の子どもと言われるスッポンを奥様の兄が捕獲したことが原因であり、ここでも男の横暴のとばっちりを女性が背負わされる、という構図になっている)。
その日は迫り、沈清は真実を知る――。

いわゆる百合ものでもあるが、女性同士が手を取り合わざるをえない必然を描いた百合である。

『彼女の沈清』comico配信ページ(毎週水曜日更新)
https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=27281

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