横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 23

Column

脚本・演出・俳優のバランスが絶妙! 舞台『血界戦線』が証明した2.5次元舞台の面白さ

脚本・演出・俳優のバランスが絶妙! 舞台『血界戦線』が証明した2.5次元舞台の面白さ
今月の1本:舞台『血界戦線』

ライター・横川良明がふれた作品の中から、心に残った1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。今月は舞台『血界戦線』をピックアップ。脚本・演出・俳優と三拍子揃った王道2.5次元舞台の魅力を語り尽くします。

文 / 横川良明


舞台ならではの表現で、『血界戦線』の世界を完全移植!

舞台は、かつて紐育(ニューヨーク)と呼ばれた街、「ヘルサレムズ・ロット」。濃い霧の向こうに広がる「異世界」と現世を繋ぐこの地は、さまざまな思惑を持った者たちが跋扈する、「地球上で最も剣呑な緊張地帯」へと生まれ変わった。

『血界戦線』は、混沌とした街の均衡を守るべく人知れず活動を続ける「秘密結社・ライブラ」と、異界の住人「血界の眷属(ブラッドブリード)」との戦いを描いたダークファンタジーだ。

今回の舞台では、Dr.ガミモヅ(佐々木喜英)とのバトルをクライマックスに、人気の高いエピソードを選りすぐって再構築。最後は、レオナルド・ウォッチ──通称レオ(百瀬朔)と「ライブラ」の仲間たちとの絆に胸が熱くなる約2時間45分(休憩あり)だった。

『血界戦線』の魅力と言えば、「血界の眷属(ブラッドブリード)」とのバトルシーン。超常現象級のスケールをアナログな舞台でどう変換するか。演出の西田大輔、そしてアクション監督の栗田政明の手腕に期待をもって本番に臨んだけれど、文字どおり血の湧くような面白さ。

たとえば、ギリカ(中野紗耶可)ならリボンを使い、まるで新体操のような動きで「ライブラ」の面々を翻弄。そのアクロバティックなパフォーマンスはこれまでの2.5次元舞台で見てきたアクションとはまたひと味違う華麗さがあり、長老(エルダー)級と称されるギリカの強さに説得力を持たせた。

さらに、Dr.ガミモヅの身体から生えた鎌のような腕は、白装束をまとった4人のアンサンブルが同じく爪のような武器を両腕に装着し、たゆたうように舞うことで表現。その不気味さを強く印象づけた。

「ライブラ」のメンバーたちの技もキマっている。技の名乗りを上げるときに技名がデカデカと打ち出されるアニメでもおなじみの演出は舞台でも健在。特に壮麗だったのは、スティーブン・A・スターフェイズ(久保田秀敏)による「絶対零度の小針(アグハデルセロアブソルート)」だ。敵たちが氷漬けになった瞬間、紙吹雪が舞い上がる。それが、氷の結晶のようで、ぞくりと肌が粟立つ。返り討ちにあった敵たちは、スティーブンが極秘に雇った私設部隊によって“処理”される。噴き上がるスモークに消えていく敵たち。穏やかな口調の裏に隠したスティーブンの冷酷非道な一面に、観ているこちらまで指先が冷たくなるクールな演出だった。

遊び心たっぷりの演技で“猪野広樹のザップ”を確立

俳優たちもアニメをベースにしながら、それぞれの個性をプラスして、立体的なキャラクター造形に成功していた。特に、クラウス・V・ラインヘルツ役の岩永洋昭とスティーブン役の久保田秀敏は、アニメでCVを務めた小山力也、宮本充にリスペクトを払い、声色というよりも話し方そのものをエッセンスとして取り入れ、“そこにクラウスがいる”“そこにスティーブンがいる”と歓喜の声をあげたくなるような存在感。岩永洋昭はここ最近、2.5次元作品が続いているが、その体格の良さ、声の良さを活かし、もはやこういった貫禄のある役どころは岩永の専売特許と形容したくなる頼もしい演技を見せている。

また、ミシェーラ・ウォッチ役の斉藤瑞季も、アニメでCVを務めた水樹奈々の雰囲気をたたえつつ、ミシェーラの可憐さと気丈さを体現。特に、アニメでは目に特殊な色を入れることで、ミシェーラの目が不自由なことを表現したが、舞台ではそれはできない。しかし、目線だけでしっかりとミシェーラの目が見えないことが観客に伝わってきたのは、彼女の演技力のなせるワザだろう。

一方、より高い自由度で役を自分のものにしてみせたのが、ザップ・レンフロ役の猪野広樹だ。もともとザップ自身が、スティーブンに「度し難い人間のクズ」と評されるような、いかようにでも遊べる懐の広さを持ったキャラクター。そんなクズを演じる猪野広樹は水を得た魚のよう。表情は多彩。動きは予測不能。いきなり挟まれる謎ダンス。おそらくアドリブであろう仕掛けをそこかしこに放り込み、ハイテンションな演技で“猪野広樹のザップ”を確立。ザップのような遊びが許されるキャラクターは、今や猪野広樹の十八番と言っていいかもしれない。

百瀬朔の熱演が、クライマックスの感動を生む

そんなキャラクターの良さを推進力にしながら、最後はストーリーの魅力でがっちりと観客の心を掴んだ。そこを担うのは、もちろんレオだ。「ハロー、ミシェーラ」というおなじみの挨拶と共に語られる本作は、レオとミシェーラ、ふたりの兄妹愛が大きな感動のポイントとなっている。

自分を守るために視力を失った妹。その妹のために、今度は兄が身を挺して立ちはだかる。「ライブラ」の一員とはいえ、レオは「神々の義眼」を有しているだけで、戦闘能力は凡人並み。どこにでもいる普通の青年だ。そんなレオがDr.ガミモヅに立ち向かう姿は、目を瞑りたくなるほど痛ましい。レオが斬りつけられるたびに、こちらの心臓にまで杭を打たれたような痛みが走り、ミシェーラの喉元に刃が突きつけられたときは、息が止まるような想いだった。

でも、普通のレオがあきらめずにもがくから、観客の心は震え立つ。特殊な能力なんか持っていなくても、大切な人を守るためなら、人は戦える。人は強くなれる。渾身の頭突きでDr.ガミモヅの「神々の義眼」を叩き割った瞬間が、今作最大のハイライト。暗雲によって支配された混沌の世界に、一陣の風が吹き抜けたような感動が刻まれた。

演じる百瀬朔のことは、これまで舞台「曇天に笑う」、舞台『弱虫ペダル』などで観てきたけれど、今回のレオがいちばんの当たり役だと思う。ザップとのやりとりはいい抜け感があって、緩急巧みな演技で笑いを生んだ。その一方、Dr.ガミモヅとの一騎打ちで見せたむき出しの感情は、まさに主人公を演じる俳優にとって必要不可欠な要素。決して大きくはない彼の身体から爆発する勇気と妹への愛が、物語の柱に。最後の「これが兄ちゃんの仲間です」に、こらえていた涙が溢れ出た。

バンドによる生演奏など挑戦的な試みも取り入れながら、膨大な原作の中から必要な部分を取捨選択したうえで、舞台だから楽しめる『血界戦線』へと昇華。絶妙なバランスの上で成立した、2.5次元の良さを堪能できる1本だ。

舞台『血界戦線』

東京公演:2019年11月2日(土)〜11月10日(日)天王洲 銀河劇場
大阪公演:2019年11月14日(木)〜11月17日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

原作:内藤泰弘『血界戦線』(集英社 ジャンプ コミックス刊)
脚本・演出:西田大輔

出演:
レオナルド・ウォッチ 役:百瀬朔
クラウス・V・ラインヘルツ 役:岩永洋昭
ザップ・レンフロ 役:猪野広樹
スティーブン・A・スターフェイズ 役:久保田秀敏
チェイン・皇 役:長尾寧音
ツェッド・オブライエン 役:伊藤澄也
K・K 役:安藤彩華
ギルベルト・F・アルトシュタイン 役:萩野崇
デルドロ・ブローディ&ドグ・ハマー 役:川上将大
ミシェーラ・ウォッチ 役:斉藤瑞季
偏執王アリギュラ 役:甲斐千尋
Dr.ガミモヅ 役:佐々木喜英
トビー・マクラクラン役・サックス:丹澤誠二
ドラム:KEN’ICHI
ピアノ:安島 萌
ウッドベース:玉木 勝

アンサンブル:
咲花莉帆 高士幸也 田嶋悠理 夛田将秀 中西智也 中庭ひなこ 中野紗耶可 西田直樹 星賢太

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@KekkaiStage)
オフィシャルBlog

©内藤泰弘/集英社 ©舞台『血界戦線』製作委員会

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発売日:2020年3月18日(水)
価格:Blu-ray ¥9,800(税別) DVD ¥8,800(税別)
発売元:株式会社マーベラス
販売元:東宝株式会社

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