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『ジョーカー』『デッドプール』など過激な“R指定”映画はなぜ大ヒットするのか?

『ジョーカー』『デッドプール』など過激な“R指定”映画はなぜ大ヒットするのか?

2019年の秋、映画『ジョーカー』が“R指定作品”の世界興収記録を塗り替えた。本作は日本でもR15指定で上映されたが、熱狂的な支持が集まり大ヒットを記録。近年、“R指定作品”が連続して成功をおさめているが、なぜ“R指定作品”から多くのヒットが生まれているのだろうか? 知っているようで知らない、“R指定”についておさらいしながら、その理由について考えてみた。

R指定の“R”って何の略?

そもそもR指定のRとは何か。”Rating=等級わけ”の略である。映画やコミックなどは広く公開されるので、その内容が過激だったりした場合に事前にレイティングを行って、鑑賞が望ましくない年齢へのアクセスを防ぐことができる。

この制度は日本だけでなく世界の様々な国と地域で行われているが、採用される対象やレイティングの段階、判断基準は違う。多くの場合に判断基準になるのは性的な表現、暴力、好ましくない言葉、反社会的行為にまつわる表現などで、それぞれ審査している団体も違うのだ。

日本国内の映画館で上映されている作品を審査している映倫(映画倫理委員会)は1949年に前進となる団体が設立された業界内組織で、ビデオや衛星放送、ゲームのレイティングを審査する団体は別に存在する。

日本の映画の場合は、

G:全年齢が鑑賞可能
P12:12歳未満(小学生以下)は成人保護者の助言や指導が適当
R15+:15歳未満の入場・鑑賞禁止
R18+:18歳未満の入場・鑑賞禁止

の4段階に分けられている。一方、アメリカの映画界にも似たような業界団体MPAA(アメリカ映画協会)があり、

G:全年齢が鑑賞可能
PG:全年齢が鑑賞可能だが、保護者に検討を促す
PG-13:13歳未満は成人保護者の注意が必要
R:17歳未満の鑑賞は保護者の同伴が必要
NC-17:17歳以下の鑑賞禁止

の5段階に作品を分けている。アメリカの場合は劇中のセリフなどにも厳しく、日本とも基準が違うため、日本では全年齢鑑賞可能だった、アニメーション映画『君の名は。』はアメリカ公開時にはPG指定になった。また、相手をののしる時に使う”Fワード”が映画の中に2回出てくると、その映画はR指定になる。

©2016「君の名は。」製作委員会

国や地域が違えば、過激と感じる内容や未成年に対して助言や注意が必要だと感じる行為も違うため、多くの映画が公開されるエリアごとのレイティングを受けて公開されることが多い。

レイティングを想定しながら製作し、マーケットの規模を見極める!

この制度は過激なものや恐怖シーン、過剰な性描写をすすんで観たくない人、自分の子どもには見せたくない人にとっては有効なシステムだと言えるし、映画を製作する側にとっても公開後に無用なトラブルを防ぐ一種の保険になっている側面もあるのだ。

しかし、公開する映画に”R”がつけられてしまうのは、対象になる観客がある程度、限られてしまうことになる。絶対にない話ではあるけれど、幼児向け番組を映画化したのに気合が入りすぎて過剰なアクションを盛り込んだ結果、映画が”R15+”に指定されてしまうと、メインターゲットにしている幼児は鑑賞することが不可能になる。

結果としてどの国でもG(全年齢)向けの映画が最も市場が広く、表現が過激になるほど、(ヒットするかどうかは公開してみないとわからないが)マーケットは小さくなっていく。

一方で映画の作り手とスタジオは最初の段階で、これから製作する映画はどのレイティングで公開されるのか、その結果としてどの程度の規模のマーケットを見込めるのかを計算する場合がある。

もちろん、脚本家や監督からすれば、物語やキャラクターに忠実にセリフや展開を決めたいので、悪党が出てくれば悪い言葉も使うことになるし、大規模なアクションシーンがあれば過激な描写も登場する。一途な恋愛を描いた結果、性描写が必要な場合もあるだろう。しかし、脚本に”腕がちぎれて飛んでいく”と書けば、セリフの中に”Fワード”が入っていれば、それはマーケットが小さくなる=資金回収のチャンスが減ってしまうということになる。資金を投じているスタジオとしては可能であれば観客層は広い方がいいため、何らかの”指定”がつくよりも前の段階、つまり脚本を書いたり、撮影・編集する段階であらかじめレイティングを見越して創作するのだ。

R指定映画が大ヒットする理由は“完成度”にあり!

その結果、ハリウッドの大作映画はスタジオが監督やプロデューサーを説得・介入して、 R(親が同伴でも鑑賞不可)ではなくPG(親の助言があれば鑑賞可能)の範囲におさめるように映画を完成させることが多い。大作ともなれば投じた資金も莫大で、倫理観も様々な国をマーケットにしているからだ。

しかし近年はこの“R指定映画”から次々とヒットが生まれている。ここ数年で最も大きな注目を集めたのは、マーベルの人気ヒーローを実写化した『デッドプール』だ。最強に強くて、フザけて過激なことばかり言いまくるデッドプールをPG指定の範囲内で描くのは不可能に等しい。そこで製作者たちは作品の世界観を優先して映画を製作。過激で下品で激烈だけど愛すべきヒーローが描かれることになり、アメリカでは想定通りR指定になったが、映画は大ヒット! 『LOGAN/ローガン』『IT/イット “”それ””が見えたら、終わり。』『テッド』なども同じくR指定だが興行的な成功をおさめている。

『デッドプール』 ©2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

ちなみに日本でも意外とR指定の作品は多く、『アイアムアヒーロー』や『アウトレイジ』『バトル・ロワイアル』『告白』などはR15指定だが、いずれも大ヒットを記録している。また近年でも、「第42回 日本アカデミー賞」作品賞にもノミネートされた『孤狼の血』や、本編の半分以上が濡れ場という松坂桃李主演の『娼年』、菅田将暉が「第41回 日本アカデミー賞」主演男優賞を受賞した『あゝ、荒野』も“R指定作品”である。

ポイントはR指定であっても、その映画の完成度が高く、観客を魅了することができれば、マーケットが多少小さくても、結果的にヒットすることが証明されたことだ。出資者やスタジオはR指定になっても、内容次第では監督の意図した通りの映画が作られることを支持するため、ムダな”手加減”や、内容に合ってないユルい描写のない映画の製作に乗り出せる機会が増えたのではないだろうか。

ちなみに時代によって、レイティングの段階や基準は少しずつ変化しており、観客それぞれに暴力表現や性描写に対する考え方も違う。今後も世界の様々な場所で”R”をめぐる議論は続くが、その一方で、次はどんな完成度の高い“R指定映画”が誕生するのだろうかと期待せずにはいられない。