Interview

TVアニメ『BEASTARS』が獲得した独特の面白さ、その秘密は「各話200カット制限」にあり? 情熱とアイデアに満ちた制作陣の声から見えたもの

TVアニメ『BEASTARS』が獲得した独特の面白さ、その秘密は「各話200カット制限」にあり? 情熱とアイデアに満ちた制作陣の声から見えたもの

肉食獣と草食獣が共存する世界で、種の垣根を越えて繰り広げられる、青春群像コミック『BEASTARS』(原作:板垣巴留/週刊少年チャンピオン連載中)。「マンガ大賞2018」大賞をはじめ、さまざまな漫画賞を総なめにしている本作が2019年10月よりTVアニメとなって放送中だ。

今回、話を聞いたのは、『BEASTARS』で監督を務める松見真一氏。近年、アニメーション制作会社・オレンジの出世作『宝石の国』(2017年)の演出も務めた人物が、『BEASTARS』にどのような情熱を注いでいるのかを語ってくれた。また、あわせて本作制作を担当するオレンジ所属のプロデューサー2人(和氣澄賢氏、キム ヒョンテ氏)にも、本作制作の経緯などを聞く。

取材・文 / 山下達也(ジアスワークス)
構成 / 柳 雄大


『BEASTARS』は“動物”なのに“ヒューマン”ドラマなのが魅力的

まずは『BEASTARS』という作品をアニメ化することになった経緯についてお聞かせください。

和氣 実は『BEASTARS』がさまざまな賞を受賞し、世間の注目を集めはじめるずっと前から、この作品をオレンジで映像化したいと思っていました。というのも、私はオレンジに来る以前はスタジオ地図におりまして、細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バケモノの子』(2015年)といった、動物モノの作品をやっていたんです。その際、上手に動物を描けるアニメーターの確保に大変苦労したのですが、3DCGならば、それら動物をモチーフにしたキャラクターでも、しっかりとアニメーションさせることができるのではと考えました。

当時『宝石の国』を作っていく中で、オレンジの技術的課題も明らかになってきていて……。具体的には「髪の毛の表現」と「骨格を意識した表情」で。そう考えたとき、『BEASTARS』という作品は、今、我々が抱えている課題に挑戦させてくれる、極めて理想的な原作なのではないか、と。もちろん、原作の大ファンだったからというのがなにより大きな理由ではあるのですが。

松見監督は『BEASTARS』という作品のテーマ、面白さはどういったところにあるとお考えですか?

松見 原作で作られた「世界観」こそが、『BEASTARS』最大のテーマだと思っています。分かりやすく言えば、登場するキャラクターは“動物”なのに、“ヒューマン”ドラマであるというところですね。

もちろん人間も動物の一種なのですが、人間と他の動物と大きく異なっているのが、自然的な存在でありながら、自然から離脱……ある意味では対立しているところ。そうして自然を克服して、他の動物を支配しながら生きているのが今の人間です。その結果として、自分の内なる動物性、つまり食べることであったり、性のことであったりはどんどん隠蔽されていき、目に見えにくくなっています。ただ、それによって人間社会が成立している面もあるんです。

なるほど。

松見 ところが人間社会では今、世界的な人口増などにって、そうしたものが崩れつつあります。たとえば、これからは皆が肉食をしていたら食料が足りなくなると言われていますよね。食べられる人と食べられない人が出てきてしまう。それに対し、肉食をやめれば全員が食べられるじゃないかという指摘もあったり……。

また、大人と青少年の関係性。大人が社会とどう接していくか、若者たちがどう生きていけばいいのか、そういったテーマも描かれています。つまり『BEASTARS』は、人間の基本的な、根源的なテーマを描いていると解釈することができるわけです。それをあえて“動物”のキャラクターでやることで浮き彫りにしているんですね。

なぜ、動物でやると浮き彫りになるんですか?

松見 人間でやると、人間としての属性が一杯ついてきてしまい、結果、本質が遠くなってしまうんです。ところがそれを動物に置き換えるだけで、そうした不要な属性を外して、本質同士、食とか性とかの問題を生でぶつけ合わせることができるようになる。『BEASTARS』という作品には、そういう面白さがあると思っています。

キム 私も監督と同じ考えです。『BEASTARS』は、それぞれのキャラクターが抱える本能から逃げられないことに対する葛藤や、そうした本能のぶつかり合いがすごく面白いと思っております。

アニメ化することで原作をもっと“リアル”にできるのではないかと考えた

そういった面白さのある『BEASTARS』という作品をアニメ化する意義についてはどのようにお考えですか? 松見さんも参加していた『宝石の国』では、派手なアクションシーンをアニメとしての見どころにできたと思うのですが、『BEASTARS』にはそうした派手さはないですよね。第一印象として、アニメとの相性がさほど良いとも思っていませんでした。

松見 原作を読んで、その内容を分析していくと、『BEASTARS』ってけっこう少女マンガ的なところがあるんですよね。そして少女マンガって、自分の内面の話じゃないですか? 漫画では、そういう内側の世界を、書かれているセリフやモノローグをもとに、読み手がそれぞれ自分で読み解いていくことになるんですが、アニメ化することで、それをもう少し“リアル”にできるんじゃないかな、と。

“リアル”とはどういう意味でしょうか。

松見 まずアニメでは、セリフやモノローグを生身の人間(声優)が声に出して表現しますよね。漫画では、自分の中で、全て自分自身で読み上げていたそれらの声を、実際の声にしていくことで、作品空間の広がり、深みみたいなものが、想像している以上に作られるのではないかと思っています。

先に行ったオレンジ・井野元代表へのインタビューでは、監督がキャラクターの心情の揺れ動きをじっくり見せるためにカット数を大幅に減らしているというお話がありましたが、やはりそういう意図が強くあるということなんですね。

松見 そうですね。通常のアニメではアクションとリアクションを繋いで会話を作っていきますが、そこで細かくカットを割っていくと、その繋がりが途切れてしまうんですよ。もちろん細かいカットを積み上げ、ぶつけ合っていくことで何かが見えるようになるというのもあるんですが、どうしても感情の流れが切れてしまうんですね。『BEASTARS』ではそれを避けたかったので、1カットを意図的にかなり長くしています。

キム 実はこの作品が始まる際、私としては『BEASTARS』では、カット数を各話220カットまでに抑えてもらおうと考えていました。以前、別の作品で250カットを上限に設定したことがあったのですが、今回はそれをさらに一歩先にすすめたいなと思いました。ところがそれを監督に伝えたところ、「いや、最大200カットでいきたい」と言われて驚きました(笑)。

1カットを長くすると、制作面ではどういった難しさが発生しますか?

松見 まず、なにより芝居をちゃんとしなくちゃいけなくなりますよね。細かくカットを割ると、そのあたりがごまかしやすくなるんですよ。アップにしたり、口だけ、手だけ見せたりとか、いろいろなテクニックがありますから(笑)。

逆にカットを切らないと、一連の芝居をきちんとしないといけないので、声を当てる役者さんもそれができないといけませんし、動かすアニメーターも流れをしっかり考える必要がでてきます。喋っていない時は止まっていていいかというとそんなことはありませんよね。相手の行動に反応しつつ、それがそのキャラクターの中でどのように変化して反応に表れるかとか、そういうことを考えていかないといけない難しさがあります。

なるほど……。そうした苦労が上手く結実しているシーンというと、例えば具体的にはどのあたりになりますか?

松見 全体的に気をつかっていることなので、具体的にどこと言われると困ってしまうのですが……(苦笑)。そうですね、例えば第2話後半の園芸部部室での、レゴシとハルのやり取りのところかな。

そこは、井野元さんも見どころだとおっしゃっていました!

松見 あのシーンは、画面を2つに分割して、ずっと2人の様子を見せているんです。ハルの方はその中で何度かカットが変わっているんですが、レゴシは割らずにひたすら煩悶するところを見せています。すごく長いシーンなので、担当アニメーターはかなり悩んだようですね。

やっぱり難しいんですね。

松見 よくあるパターンでカットを割っていけば簡単だと思うのですが、カットを切らずに丁寧にレゴシの心情の揺れ動きを描くのはかなり難しいですよ。ハルが服を脱いでいることに気がついた時も、すぐにびっくりさせるのではなく、まず、何が起こったのか理解できていないところから、1拍ためて「え? なに??」ってなる流れを芝居に入れていかねばなりませんから。それは、ハルの側も同じ。とにかく間が大事なんです。

そうした映像はどのようにして作るのですか?

松見 実はこの作品、『宝石の国』と同じく、プレスコ(プレスコアリング:音声の先行収録)で制作しています。つまり、演技の主導権は映像じゃなくて役者側にあるんです。もちろん、収録時にはラフコンテをもとにした簡易的な映像を用意してはいるのですが、実際の収録時は映像をほとんど見ずに芝居してもらうので、このシーンにおけるレゴシの心情は、まず声優の小林親弘さんが付けることになります。

アニメーターはその音声を基に映像を作っていくことになるんですね。

松見 そうですね。アニメーターからすると、どうしてここで息継ぎをするんだとか、セリフの強弱、緩急の意図を考えながら映像を作っていく必要があるので大変です。実際にやってみては直し、やっては直しで、作り込んでいきました。

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