Interview

「アニメに3DCG」はもう当たり前…しかし“獣”ものはイケるのか? 『宝石の国』から『BEASTARS』へ、オレンジ・井野元代表が語った本気度

「アニメに3DCG」はもう当たり前…しかし“獣”ものはイケるのか? 『宝石の国』から『BEASTARS』へ、オレンジ・井野元代表が語った本気度

肉食獣と草食獣が共存する世界で、種の垣根を越えて繰り広げられる、青春群像コミック『BEASTARS』(原作:板垣巴留/週刊少年チャンピオン連載中)。「マンガ大賞2018」大賞をはじめ、さまざまな漫画賞を総なめにしている本作が2019年10月よりTVアニメとなって放送中だ。

その制作を担当しているのは、フルCGアニメ『宝石の国』(2017年)でファンと業界の度肝を抜いたCGアニメーション制作会社・オレンジ。『ゾイド -ZOIDS-』(1999年)や、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002年)、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ(2007年~)など、アニメの3DCG表現を開拓してきたスタジオだ。その後も多くの作品で培ってきたCG技術を、初の単独元請け作品となる『宝石の国』で大きく開花させ、さらなる真価が問われる第2弾作品『BEASTARS』。そこにどのように取り組んでいるのか? 同社代表であり、本作においてもCGチーフディレクターを務める井野元英二氏に聞いた。

取材・文 / 山下達也(ジアスワークス) 構成 / 柳 雄大


動物キャラを描く難しさをCGでクリア。「CGだから…」という前置きはいらなくなりつつある?

まずはどのようなきっかけで、『BEASTARS』の制作にオレンジが参加することになったのかを教えてください。

井野元英二 もともとは東宝さんと『宝石の国』のアニメでご一緒したのがきっかけですね。その後、とある機会に東宝のプロデューサーさんから『BEASTARS』をアニメ化したいというお話をお伺いしました。

井野元さんはその時『BEASTARS』の原作をご存じでしたか?

井野元 はい、原作を読んでいたので内容については把握していました。ですので面白いとは思いましたが、同時に、動物を主人公にしたアニメを従来の作画でしっかり動かすのは難しいんじゃないかとも思いましたね。

それはどういう意味でしょうか?

井野元 まず、長らくそういうアニメがほとんどなかったということもあり、業界に動物のキャラを安定して描ける人がほとんどいません。そうすると人間のキャラよりも、アニメーター個々の作画のブレが大きくなるため、作画監督の負担がものすごく大きくなってしまうんです。毎週放送しなければならないTVアニメでそれはかなり厳しいですよね。

つまり、原理的に作画ブレのないCGの方が動物を主人公にしたアニメに向いているということですね?

井野元 そうですね。また、動物を主人公にしたCGアニメが海外で多く制作されており、視聴者が見慣れているというのもあるように思っています。なにより、私個人がやりたかったので、そういう方向に話の流れを持っていきました(笑)。

『BEASTARS』の制作スタッフが発表になった際、『宝石の国』のオレンジが担当すると知って喜んだ人は多いと思います。

井野元 そう思っていただけたのならうれしいですね。とは言え、我々としてはフル3DCG制作だからということで、何か違うものを見るような目で観てほしくありません。「CGアニメだから……」という前置きをせず、自然に見てもらえることが理想です。

かつてはCG作品というだけで拒否反応を示すアニメファンも多かったのですが、今ではそういう人もあまり見かけなくなりましたね。

井野元 はい。実は『宝石の国』の先行試写会のアンケートでは「CGということで不安だったけど、面白かった」という意見をたくさんいただきました。当時は、それはそれでうれしかったのですが、今回の『BEASTARS』では、その「CGということで」という前置きをする方が大きく減りました。確実に、観ている皆さんの意識が変わってきているのを感じています。

今回の『BEASTARS』では、どういった体制で作られているのでしょうか?

井野元 全体としては外部スタッフを含めず70名以上……規模的には『宝石の国』とほとんど同じですね。作り方についても『宝石の国』のやり方がとても上手くいったので、それを踏襲しつつ、適宜アップデートするかたちで制作しています。

「フェイシャルキャプチャー」で全てのキャラクターが生き生きと輝きだす

今回、『BEASTARS』で、より自然なCGアニメーションを実現するために導入した新技術などがありましたら教えてください。

井野元 『宝石の国』の時にはオレンジとして初めて全編でモーションキャプチャーを導入しましたが、今回は新たに人間の実際の表情を撮影してCGモデルに適用する「フェイシャルキャプチャー」という技術を導入しています。これは、ほかの会社でもまだほとんどやっていないんじゃないでしょうか。

たしかに国内のTVアニメではほとんど聞いたことがありませんね。

井野元 どちらかというとゲーム業界などで、CGにリアルさを出すために使われていることが多いようです。

なるほど。ちなみに、その表情はどなたの表情をキャプチャーしているんでしょうか?

井野元 基本的には、本作でCGリードアーティストを勤めている都田崇之(オレンジ所属)がやっています。彼が一番、本作のCGのことをよく理解していますから(注:『宝石の国』のモーションキャプチャーも、同様の理由で専門の役者を使わず、社内のアニメーターが動きを付けていた)。もし、キャラクターの表情の演技でこれまでと違うものを感じていただけたのだとしたら、まさにそれが功を奏しているということですね。

たしかにそう言われてみると、『BEASTARS』のキャラクターはとても表情が豊かなように感じます。これはフェイシャルキャプチャーのおかげだったんですね。……でも、すごく素朴な疑問なんですが、このアニメの登場人物はみな動物の顔をしていますよね? 人間の表情を動物の顔に適用することなんてできるんですか?

井野元 私も当初はそこがネックになるだろうなと思っていました。ただ、フェイシャルキャプチャーのシステムを提供しているメーカーさんの作例にリアルな動物のCGに表情を付けているものがありまして、よそがやっているのなら、ウチもやれるだろうと思ったわけです(笑)。

そして、実際にできた、と。企業秘密もあると思うのですが、具体的にどんなことをやっているのか、そのノウハウを教えていただけませんか?

井野元 本来、フェイシャルキャプチャーというのは、モーションキャプチャーがそうであるように、リアルな動きをCGに取り込むための技術です。ところが、今回我々がやろうとしているのは、マンガ的な表情を、リアルな表情の動きから再現するということで。つまり、どこかで「嘘」を挿入しなければなりません。

そこで『BEASTARS』では、松見真一監督が、キャラクターデザインの大津 直さんに発注した表情集をリスト化して、それを人間の表情に紐付けるというやり方でキャプチャーデータに連動するようにしました。

つまり、人間が笑った顔をしたら、それがスイッチになって、CGのキャラクターも笑った顔になる、と。しかも、その表情はしっかりと『BEASTARS』のそれぞれのキャラクターの表情になるわけですよね。 これは「発明」と言ってもいいんじゃないですか!?

井野元 もちろん、意図しない動作をすることもあるのですが、それで思った以上にキャラクターの感情を豊かに表現できるということが分かりました。とは言え、当初はやはり苦戦しましたし、制作初期にはかなりの試行錯誤を繰り返しています。最終的にこれで行けるという確信を得るまでは数ヶ月かかっているんですよ。

今回、そこまでしてフェイシャルキャプチャーにこだわった理由を教えてください。

井野元 本作では、キャラクターの感情の揺れ動きをしっかりと表現し、それを視聴者にじっくりと味わっていただくため、1話あたりのカット数をかなり抑えています。実はこれは『宝石の国』からやっていることなんですが、『宝石の国』では1話=200カットくらいだったのが、『BEASTARS』ではさらにカット数が減り、1話=約160カットという回も。最近のアニメには、1話=300カットというものも少なくないので、これはかなり抑えた数字になります。

カット数が減るということは、それだけ1カットあたりの尺が長くなりますね。

井野元 はい。そうしたロング尺のシーンで映像を成立させるには、喋っていない背景のキャラクターも含めた、演技の細かい作り込みが重要になってきます。カットがパッパッと切りかわっていくと気がつかないようなところにも目がいってしまいますからね。ただ、だからといってサブキャラにまで手作業でチマチマと細かく表情を付けていくのは現実的ではありません。なにより、リアルな、感情移入できる顔の芝居を求めていくと、必然的に実際の表情を取り込むフェイシャルキャプチャーに行き着くんです。

それは映像的にも大きな見どころになりそうですね。

井野元 そうですね。そういう意味で全てのシーンが見どころということになるのですが、個人的には特に2話後半のレゴシとハルの園芸部部室でのやり取りが気に入っています。お互いが会話しているようで会話になっていないシーンなのですが、2人の心情を、カットを切り替えることなく、画面を左右に分割して同時進行で描いているのが面白い。どちらに注目すべきかを視聴者に委ねているんです。画面を分割するシーンはほかにもあるのですが、このシーンでは中央に実線を入れず、境界を曖昧にしているのもポイントです。

まずはレゴシに注目し、2回目はハルに……みたいな楽しみ方もできそうですね。

井野元 はい。繰り返し観ていただけるとうれしいですね。このアイデアは松見監督のものなのですが、とてもユニークで珍しい表現だと思っています。

期待のかかる“きわどいシーン”にも逃げずに取り組んでいます

これは原作ファンの多くが思っていることだと思うのですが、『BEASTARS』という作品をアニメ化するにあたって、原作者・板垣巴留先生の絵柄をCGで再現するのは大変だったんじゃないですか?

井野元 たしかに、板垣先生のあのダイナミックで味のある描線をCGで再現するのはかなり難しい取り組みでしたね。ただ、それはキャラクターデザインの大津 直さんが彼なりの解釈で「翻訳」してくださったので何とか成立させることができました。ちなみに大津さんはかなりリアル指向の方なので、CGとの相性はすごく良いんですよ。

ちなみに本作については、一般的なキャラクターデザインでは用意しないような極端な俯瞰やアオリの画も描いてもらっています。CGは全てを細かく作り込む必要があり、そうした画も必要になるためです。

最終的にどうなったか、CGでもちゃんとレゴシやルイが再現できているのかは、ぜひ本編映像で確認してもらいたいですね。では、最後に視聴者に向けてメッセージをお願いいたします。

井野元 『BEASTARS』はご存じの通り、原作の力がとても強い作品です。ファンの皆さんとしては、それがどうなってしまうのか心配になるかもしれませんが、今まさにオレンジの全力、これ以上出せないくらいの本気をもって、この作品に取り組んでいます。もちろん、私としても強い手応えを感じています。

この先、原作ではかなりきわどいシーンが待っていますが、そうしたシーンも一切逃げずに作っています。そのあたりも含めて、アニメ『BEASTARS』を楽しんでご覧になっていただければうれしいです。お楽しみに!

TVアニメ『BEASTARS』

放送中

フジテレビ「+Ultra」:毎週水曜日24:55~
関西テレビ:毎週木曜日25:55~
東海テレビ:毎週土曜日25:55~
テレビ西日本:毎週水曜日25:55~
北海道文化放送:毎週日曜日25:15~
BSフジ:毎週水曜日24:00~
※放送時間は予告なく変更になる可能性があります。
※詳細は各局HPをご確認ください。

NETFLIXにて毎週木曜日配信(日本先行)

【イントロダクション】
肉食獣と草食獣が共存する世界。
食肉が重罪とされるなか、全寮制の名門高校・チェリートン学園では生徒が食い殺される“食殺事件”が起きる。
不安の渦巻く校内で、演劇部の変わり者・ハイイロオオカミのレゴシは『大きい身体』と『鋭い牙』とは裏腹に静かに生活していた。
しかし小さなうさぎの女子生徒・ハルとの出会いが、そんなレゴシの心を揺り動かす。
「彼女を求める気持ちは、恋なのか? 食欲なのか?」
彼が本当に出会ったもの、それは自分自身の本能だった――。

【スタッフ】
原作:板垣巴留(秋田書店「週刊少年チャンピオン」連載)
監督:松見真一
脚本:樋口七海
キャラクターデザイン:大津 直 
CGチーフディレクター:井野元英二
美術監督:春日美波 
色彩設計:橋本 賢
撮影監督:古性史織 蔡伯崙
編集:植松淳一 
音楽:神前 暁(MONACA)
制作:オレンジ

【キャスト】
レゴシ:小林親弘
ハル:千本木彩花
ルイ:小野友樹
ジュノ:種﨑敦美
ジャック:榎木淳弥
ミグノ:内田雄馬
コロ:大塚剛央
ダラム:小林直人
ボス:下妻由幸
カイ:岡本信彦
サヌ:落合福嗣
ビル:虎島貴明
エルス:渡部紗弓
ドーム:室 元気
キビ:井口祐一
シイラ:原 優子
アオバ:兼政郁人
エレン:大内 茜
ミズチ:山村 響
レゴム:あんどうさくら
ゴウヒン:大塚明夫
市長:星野充昭
オグマ:堀内賢雄

©板垣巴留(秋田書店)/BEASTARS製作委員会

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