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藤田 玲&中村優一らが暴力の渦に飲まれて人間のダークサイドをさらけ出す。舞台『私に会いに来て』絶賛上演中!

藤田 玲&中村優一らが暴力の渦に飲まれて人間のダークサイドをさらけ出す。舞台『私に会いに来て』絶賛上演中!

韓国で実際に起こった未解決連続殺人事件をモチーフにした舞台『私に会いに来て』。1996年に韓国で初演され、20年以上にわたり公演を続けている大ヒット舞台の日本版が9月13日(金)より新国立劇場 小劇場にて上演中だ。
上演台本訳は後藤温子、『戦国BASARA』シリーズ、『BRAVE10』シリーズなどで知られるヨリコ ジュンが演出・映像を手がける。キャストは、藤田 玲、中村優一、兒玉 遥、西葉瑞希、グァンス、栗原英雄と若手から演技派まで揃った少数精鋭の舞台となっている。
そんな舞台のゲネプロと囲み取材が初日前に行われた。

取材・文・撮影 / 竹下力


人間の真実を暴き出そうとする野心的な作品

これは“夢魔”の舞台である。目覚めると自らの汗でびしょ濡れになったシーツを握りしめながら、仰向けのままひたすら恐怖におののいている。何を見たのかはっきり覚えていないのに、とつてもなくリアルな怖さを感じている。そんな感覚に陥る舞台だった。

舞台『私に会いに来て』 エンタメステーション舞台レポート

効果的なシーンのリフレイン、印象的なひとコマを繰り返すことで非現実性が舞台に忍び込み、観客の現実を剥ぎ取っていく。その一方で、暗転と薄暗い照明を巧みに使い、人を殴るときにあえて音を入れない生々しい芝居と凄まじい量の会話と、印象的な映像で舞台のリアリティを保証していく。本当に起こっていることなのにどこか夢見心地な気分にさせ、リアルとリアルではない境界線が曖昧になっていけばいくほど、人間という存在の核心が浮き上がってくるようだ。ここで描かれるのは、他者の暗黒面に触れたいという人間の飽くなき欲望。人間の大事な心の襞が少しずつめくられて、覗き見てはいけないようなものを凝視しているスリルや痛みに満ちている。

舞台『私に会いに来て』 エンタメステーション舞台レポート

物語は韓国で起きた連続殺人事件を解決しようと奔走する刑事たちや、事件に迫ろうとするジャーナリストと刑事の攻防、そこに差し込むほのかな恋愛模様が描かれたラブサスペンス。とはいえ、人間のむき出しのエゴとエゴがぶつかり合う壮絶なドラマでもある。

舞台は仮面をつけたヴァイオリン奏者Annaのクラシックの優雅な調べに乗せて、車椅子に乗ったキム・セゴン課長(栗原英雄)と車椅子を押すパク・ヨンオク記者(兒玉 遥)が登場するところから始まる。キム・セゴンの苦悶の表情を観ていると、彼にただ事ではないことが起こったとわかる。そんな彼に優しく語りかけるパク・ヨンオク。そして彼らに柔らかい光が差し込み始め、やがて暗闇に沈んでいく……心にシコリを残す、巨大な謎が提示される圧巻のオープニング。

舞台『私に会いに来て』 エンタメステーション舞台レポート

舞台が暗転し過去に遡ると、そこは華城(ファソン)特別捜査本部の事務室になる。刑事たちは、すでに数人の女性が暴行され殺害された猟奇殺人事件の解決の糸口を見つけようと躍起になっている。出入りの記者のパク・ヨンオクは勝手に刑事の机の中をカメラで撮影し、キム・インジュン刑事(藤田 玲)に「盗撮するな」と怒られ、衝突している。そこに新しく赴任してきたキム・セゴンや、コーヒーを配達しているカフェ店員ミスキム(西葉瑞希)なども絡み、ドタバタな様子が描かれていくのだが、チョ・ナンホ刑事(中村優一)が登場すると様相は一変する。なんと殺人事件の犯人を逮捕したというのだ。

舞台『私に会いに来て』 エンタメステーション舞台レポート

再び舞台は転換し、今度は取調室へ。捕まっているのは、イ・ヨンチョル(グァンス)という容疑者。そしてそこで行われていたのは、尋問とは名ばかりの陰惨な暴力だった。そうして洗いざらい白状させてみるが、イ・ヨンチョルの言っていることは支離滅裂で、犯罪の影も見当たらない。やがて、彼が犯人だとは立証できずに、警察も仕方なく保釈をするのだが、そこでまた新たな殺人事件が起きてしまう……。

舞台『私に会いに来て』 エンタメステーション舞台レポート

この舞台の面白さは、捜査本部、取調室、ミスキムの勤めているカフェを中心に、犯人らしき人物が見つかったのにそれが違うとわかり落胆する刑事たち、そんな彼らを尻目に新たに起きる犯行、巻き起こる暴力、ますます深まる謎、そして新たに見つかる容疑者、とモルモットの回し車みたいに円環を描いて物語が進んでいくことだ。執拗なまでに救いのないシーンを繰り返すことで悲劇性を増していく。もちろん、ウィットに富んだ台詞もあるし、ユーモアもあって笑えるのだけれど、それ以上に訴えてくる凄惨な現実がそこにある。刑事たちは犯人を探そうと様々な証拠を探し、状況を合理的に定義づけようとするが、すべてが破綻、収拾のつかない救いのない光景が広がっていく。

それぞれのキャラクターの造形は緻密に描かれリアルだ。キム・インジュン刑事は仕事現場にラジオを持ち込みヘッドホンをして、他者の介入をシャットダウンして犯行の状況をプロファイリングしていく無骨な性格。一方、チョ・ナンホ刑事は暴力でしか物事を解決できない性分で、頭よりも手が先に出てしまうやさぐれもの。パク・ヨンオク記者は事件を暴こうとするばかりに、ジャーナリズムの名の下なら何をしても許されると解釈して暴走する。そして、詩人でもあるキム・インジュン刑事に憧れるミスキムの純情過ぎる姿……とにかくそれぞれのキャラクターは偏執狂的で、性格が過剰に描かれている。その中で唯一普通の人といえるのは、キム・セゴン課長だろうか。物語が過剰になり過ぎて舞台で起こっている出来事がハレーションを起こして嘘に見えないように中和剤としてうまく働いている。ひとりひとりのキャラクターにしっかりした意味があるのも見どころだ。

舞台『私に会いに来て』 エンタメステーション舞台レポート

さらに、演劇的な要素として刮目すべきは、何人も出てくる容疑者をグァンスがひとりで演じ分けることだ。グァンスは丁寧に何役もこなしていて、それぞれに個性があった。また、彼が何役も演じることで、結局のところ殺人事件の犯人が誰なのかわからないという茫漠な気持ちを抱かせることができ、物語のミステリアスな要素を強めていた。

舞台『私に会いに来て』 エンタメステーション舞台レポート

そして当時の時代背景を映しだす、チョ・ナンホ刑事の容疑者に対する理不尽な暴力と罵詈雑言には思わず怒りを覚えた。それだけ中村の演技が迫真に迫っていたのだ。この暴力的な取り調べ風景は、そのまま日本にも当てはめることができるだろうし、表には見えない世界共通の光景だと思い知らされた。人は暴力を手にしたときに悪魔になる。なのに、中村の鋭い眼光が見せる、異形のものとして屹立する恐ろしい佇まいが妖艶だったことにも注目したい。暴力は突き詰めればエロティックにさえ見えるのだ。そこに人間が惹かれてしまうのは我々の持つ根源的な“業”なのかもしれない。

舞台『私に会いに来て』 エンタメステーション舞台レポート

そしてひときわ際立っていたのがキム・インジュン刑事を演じる藤田 玲の芝居だ。ひたすら黙っていたと思ったら急に弁が立ち、思うがままに行動していたら、ふと思案にくれたりと、感情の起伏の激しい、ひと筋縄ではいかないキャラクターを素晴らしく演じきっていた。彼の一挙手一投足に目が奪われる身体性にも惹きつけられた。キム・インジュン刑事が愛という存在に目覚めたときの胸の疼きは痛いほど伝わってきたし、藤田は人間の持つポジティブさ、ネガティブさを余すことなく体現していて、キム・インジュン刑事はどこにでもいる人間そのものだったと思う。

今作は人間の真実を暴き出そうとする野心的な作品である。人間の内面に降り立つ物語は多種多様あれど、ここまで過剰に、ここまでリアルに描いた作品はほかに見当たらない。終演後の劇場で目にしたのは荒涼とした光景だ。すべてが明らかになれば、すべてが良き方向に向かうわけではない。何か良い行いをすれば、一方で何か悪いことが起きてしまう。そんな天秤の上でぐらつきながら帳尻を合わせるように人間は生きている。時代性とも密接にリンクした今作が、今、日本で上演されるのはとても意義のあることだと感じさせてくれる傑作だった。

韓国の作品に恥じないような日本バージョンを

このゲネプロの前には囲み取材が行われ、藤田 玲、中村優一、兒玉 遥、西葉瑞希、グァンス、栗原英雄が登壇した。

舞台『私に会いに来て』 エンタメステーション舞台レポート

まず初日前の気持ちを聞かれ、キム・インジュン刑事 役の藤田 玲は「みんなで助け合いながら稽古を詰めてきたので、韓国の作品に恥じないような日本バージョンをお届けできると思います」と自信をのぞかせた。

ミスキム 役の西葉瑞希は「とても重たい作品ではありますが、皆さんに観ていただきたいと思って稽古をしてきました」と笑顔で語り、パク・ヨンオク記者 役の兒玉 遥は「稽古場からみんなで丁寧につくり上げて、素晴らしい作品に仕上がったと思います。お客様に100パーセント満足していただける舞台です」と全力でアピール。さらにキム・セゴン課長 役の栗原英雄は「3週間、気力、体力、集中力を必要とする稽古でした。まもなく初日を迎えますが、これまでの稽古を大切にしながら淡々とお芝居をしたいと思います」と稽古を振り返りながら初日に向けて意気込んだ。

容疑者 役のグァンスは「韓国の舞台の出来栄えも見事ですが、日本版もヨリコさんの演出と演者の皆さんのお芝居で新しい世界観の詰まった作品になっていますので、僕も丁寧に演じて作品を届けたいと思います」とリメイク版にかける熱い想いを語った。また、韓国の作品に出演することについて韓国出身のグァンスは「高校生のときにこの作品を観て、一生忘れられない思い出になっています。日本版のリメイクに出演できることは光栄で、自分が大好きな作品の中で生きられることにワクワクしていますし、頑張りたいと思います」と気合いを込めた。

チョ・ナンホ刑事 役の中村優一は「公演日数が少なく、限られた公演数となっていて、終わったあとに面白さに気づいたら遅いので、とにかく来てください!」と訴え、会場から笑いを誘い、最後に藤田 玲が「舞台『私に会いに来て』は新国立劇場 小劇場で上演しておりますので、ぜひ“僕たちに会いに来て”ください」とタイトルにかけて挨拶をし、囲み取材を締め括った。

東京公演は9月16日(月・祝)に終了、大阪公演が9月19日(木)から20日(金)までサンケイホールブリーゼにて上演される。

舞台『私に会いに来て』

舞台『私に会いに来て』

東京公演:9月13日(金)~9月16日(月・祝)新国立劇場 小劇場
大阪公演:9月19日(木)〜9月20日(金)サンケイホールブリーゼ

原作:キム・グァンリム
演出・映像:ヨリコ ジュン
上演台本訳:後藤温子
主催:東映ビデオ、Guild、エイベックス・エンタテインメント

出演:
キム・インジュン刑事 役:藤田 玲

チョ・ナンホ刑事 役:中村優一
パク・ヨンオク記者 役:兒玉 遥
ミスキム 役:西葉瑞希

容疑者 役:グァンス

キム・セゴン課長 役:栗原英雄

大澤信児、高山猛久、田中 亮、畑中竜也、曾田彩乃、藤本かえで、髙石あかり
Anna(ヴァイオリン演奏)

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