
2017年末にオリジナルメンバーのLISAが復帰し、LISA、VERBAL、☆Taku Takahashiによる“m-flo”が15年ぶりに再始動。昨年3月リリースの「the tripod e.p.2」に続く新作「mortal portal e.p.」には、最新鋭のダンスミュージックを独創的なポップスへと昇華させてきたm-floの現在のモードが刻まれている。今年7月7日にメジャーデビュー20周年を迎える3人に、リユニオン後の活動、新作の制作などについて聞いた。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 持田薫
日本のカルチャーや音楽が好きでいてくれる人が実際にいるんだから、そこに行くのは大事なことだなと(☆Taku)

まずは再始動後の活動について聞かせてください。2018年7月に全米最大のジャパン・ポップ・カルチャーの祭典Anime Expoに出演。m-floプレゼンツのフェス形式のイベントでしたが、手ごたえはどうでした?
☆Taku Takahashi 中田ヤスタカくん、YUC’e、PKCZ®などにも出てもらったんですけど、すごく良かったですね。会場に来てくれたお客さんもほとんどが現地の人だったんですよ。白人、アフリカ系、ヨーロッパ系、アジア系など、本当にいろんな人が集まってくれて。
LISA これぞアメリカという雰囲気でした。
☆Taku そうだよね。m-floの曲をみんな日本語で歌ってくれて。待っててくれてたんだなって、嬉しかったですね。
m-floの「been so long」がゲーム「ビートマニア」に収録されたことをきっかけに、アメリカでの認知度が高まったそうですね。
☆Taku そうですね。確かに浸透はしてるんだけど、実際にアメリカでライブをやってみて、「もっと行かないとダメだな」と思いましたね。
LISA ☆Takuが「いまはチャンスだから、(アメリカに)行こうぜ」とプッシュしてくれたのは大きかったですね。私は10代の頃からずっとUSの音楽を聴いてきたし、“ザ・ビルボード・ガール”という感じだったので、アメリカでライブをやるのは夢でもあって。当日はすごく緊張したけど、そういうチャンスを与えてもらえたのは感謝ですね。いま☆Takuが言ったように、オーディエンスが一緒に歌ってくれたのも本当に嬉しくて。みんなすごく温かかったし、初めて行ったにも関わらずホーム感があったんです。めちゃくちゃウェルカムな雰囲気でしたね。
アメリカのマネをするのではなくて、日本の文化をそのまま武器にすればいいとも思うし(VERBAL)

今年4月にはハワイで行われた「Kawaii kon」、5月にはシカゴのフェス「Anime Central」も出演。海外での活動は再結成後のm-floにとって重要なファクターになっています。
☆Taku まだまだですけどね。もともと「海外でやろうよ」と言ってたのは、じつはVERBALなんです。“LOVES”(毎回異なるゲストボーカルを迎えて楽曲を制作する”m-flo loves Who?”シリーズ/2003年〜2008年)の時期もそういう話をしてたんですけど、当時、僕が飛行機恐怖症で。
VERBAL そうだ、昔は飛行機に乗れなかったんだよね。
☆Taku いまは「一か月に何回乗ってるんだろう?」という感じですけどね。m-floを待ってくれている人がいるんだったらなるべく行きたいし、これが最後のチャンスかもしれないなって。
LISA え、そんなに?
☆Taku それくらいの気持ちはあるよ。いま(海外の音楽マーケットの)制空権はK-POPに握られてるじゃないですか。張り合うわけではないけど、日本のカルチャーや音楽が好きでいてくれる人が実際にいるんだから、そこに行くのは大事なことだなと。「再結成後は海外にできるだけ行こう」と話したわけではないけど、自然とそうなってますね。
VERBAL 日本の文化が大好きな外国人が、一斉にお祝いしてくれてるような状態なんですよ。そこに日本の企業が参入していないのはもったいないなって。実際にアメリカに行って、現地の盛り上がりを体験すると、「これぞ突破口だな」と思うので。アメリカのマネをするのではなくて、日本の文化をそのまま武器にすればいいとも思うし。
海外のトレンドに寄せないほうがいい、と。
☆Taku アーティストによって違うでしょうけど、m-floの場合は寄せないほうがいいでしょうね。
新作「mortal portal e.p.」の制作も同じスタンスですか? つまり、いまの海外のトレンドとは距離を置いて、自分たちがやりたいことを具現化するっていう。
☆Taku どうだろう? トレンドみたいなものも入ってるとは思いますけどね。好きな音楽はたくさんあるし、それが自然に反映されるので。
なるほど。制作はグアムで行われたとか。
☆Taku はい。去年の11月くらいに行ったのかな。なかなか新曲がまとまらなくて、「キャンプしようか」ということになって。最初は山中湖が候補だったんだけど、LISAさんが「海がいい」って。
LISA (笑)。
☆Taku 「遮断したい」というのもあったんですよね。
みんなでグアムに行くくらいのことをしないと、なかなか集中して制作できないですから(LISA)

みなさん、それぞれの活動もあるので、制作だけに集中できる状況を作るのは重要ですよね。
LISA そうそう。私としては、VERBALを独占したいという気持ちもありました。☆Takuもそうだけど、ふたりとも本当に忙しいので。みんなでグアムに行くくらいのことをしないと、なかなか集中して制作できないですから。
VERBAL 朝からビール飲んでたけどね。
☆Taku そうだね(笑)。
VERBAL Airbnbで2階建ての一軒家を借りて、みんなで和気あいあいして(笑)。プールも付いてたから、いつかやりたかった“浮き輪に横たわってビールを飲む”というのをやりました(笑)。
☆Taku Spotifyで音楽を聴きながらね。
みんなの祖先がつながったというか(笑)、3人の感覚がピタッと合ったし、すごくスピリチュアルな感じでしたね(LISA)
楽しそう(笑)。そのリラックスしたムードは制作にも反映されている?
☆Taku そうだと思いますよ。EPに入っている「STRSTRK」は、グアムでデモを作ったんですよ。それぞれの部屋で作業していて、僕が「STRSTRK」のトラックをスピーカーで聴いてたら、ふたりともピンと来たみたいで。
VERBAL ☆Takuの部屋からカッコいいトラックが聴こえてきて、「何それ?」って。
LISA 作業する手が止まりましたね。やばい!って。
☆Taku “What da 〇〇〇〇”って言ってたよね(笑)。
(笑)“クソやばい”と。トラップ以降のビートとチルな雰囲気が共存している、ハイブリッドなサウンドだなと。
LISA カッコいいですよね。そのときから「STRSTRK」という言葉も入っていて、それもいいなって。みんなの祖先がつながったというか(笑)、3人の感覚がピタッと合ったし、すごくスピリチュアルな感じでしたね。
音楽の神様と向き合ってました(☆Taku)

1曲目の「EKTO」は、ピアノの繊細なフレーズからはじまるトラック、切ない恋愛感情を描いた歌詞が印象的なナンバー。この曲はSatoru Kurihara さん(Jazzin’ park)、JUN さんとのコライトですね。
☆Taku LISAにトラックを送ったら、「すごくいいけど、いまはちょっとメロディを考えられない」って言われて。
LISA “トラック・ラッシュ”だったんですよ。☆Takuからどんどんトラックが送られてきて、どれもすごくいいんだけど、私が追い付けなくなって。で、「ちょっと待って!」って。あの時期の☆Takuはすごかったよね。
☆Taku 音楽の神様と向き合ってました。
LISA 「いいね!」って、どんどん引き出すのが私たちの役目なんですけど、あのときはどうしても☆Takuのペースに追いつかなくて。「EKTO」もすごくいい曲になりましたからね。
さらに快楽的なアッパーチューン「MARS DRIVE」(舞台「八王子ゾンビーズ」主題歌)も収録され、バラエティに富んだ作品になっています。前作「the tripod e.p.2」のリリース時に☆Takuさんは「m-floのノスタルジックなところと新しいところを両方入れたい」とコメントしていましが、それは本作も同様ですか?
☆Taku 確かに前作はそういう感じだったんですけど、今回は“ノー・モア・ノスタルジア”かもしれないですね。ノスタルジーを感じるところがあってもいいんだけど、基本的には今やりたいこと、次にやりたいことに向かっていくのがm-floなので。そのスタンス自体はノスタルジックかもしれないですけどね。
フッと“異次元”“パラレルユニバース”というアイデアを思いついて(VERBAL)
なるほど。「mortal portal」というタイトルについては?
LISA それはVERBALのアイデアですね。
VERBAL m-floはずっと“宇宙”や“未来”を描いてきたんだけど、そろそろ違うコンセプトが欲しいなと思って、ずっとブレストしてたんです。そのなかでフッと“異次元”“パラレルユニバース”というアイデアを思いついて。
2000年くらいに“宇宙”“未来”をテーマにしたときと同じような新鮮味があるというか。異次元って、まったく未知数な世界じゃないですか。そこを自由に行き来できたらおもしろいだろうなって。どこでもドアみたいな感じもあるかも。
☆Taku どこでもドアも異次元のテクノロジーだからね。パラレルユニバースに自由に行けるというのかな。たとえばLISAが総理大臣になっている世界とか。
LISA クレイジーだね(笑)。
☆Taku (笑)そういう閃きは重要なんですよ。「mortal portal」という言葉はVERBALが考えてくれたんだけど、それは適当に思い付いたわけではなくて、日ごろの考え方だったり、苦しみやぶつかり合いの蓄積じゃないかなって。……マジメか(笑)。
VERBAL (笑)コンテキスト(文脈)があったほうがいいですからね。m-floは1999年に「Mirrorball Satellite 2012」という曲を作ったんだけど、アッと言う間に2012年が過ぎてしまって。未来というテーマではなくて、自分達が刺激を感じる、他のコンセプトを見つけるべきだなと思ったんですよね。
「これがいまのm-floです」という姿勢を見せたかったんですよ(☆Taku)
“異次元”というテーマは、この先も継続するということですか?
☆Taku そうですね。アルバムという形になるのはまだちょっと先だと思うけど…。
LISA みんなでがんばろう。
VERBAL うん、がんばろう(笑)。
☆Taku もう一つは“メジャーデビュー20周年”ですよね。「20周年、イエーイ!」ではなくて、「これがいまのm-floです」という姿勢を見せたかったんですよ。「ここから新しいm-floと一緒におもしろいことをやりましょう」というか。そういう作品になったと思いますね、「mortal portal e.p.」は。
LISA 自分たちをプッシュしてくれる作品でもあるなって。制作中はハードなこともあったけど、そこにもすべて意味があったんだなと思えたし。今回のe.p.、めちゃくちゃ良くないですか?
めちゃくちゃカッコいいと思います、ホントに。☆Takuさんのモチベーションも高くて、“やりたいからやる”という純粋な意欲が感じられるのもいいなって。
☆Taku そう思ってもらえてよかったです。YouTubeに「どうしてこういう曲を作ったのか」というコメントがあると、「やりたいからだよ」って書き込んでるので(笑)。
LISA そんなことしてるの?
☆Taku うん(笑)。最近、時間があるとSNSで返事をするようにしてるから。プロのツイッタラーですよ(笑)。
その他のm-floの作品はこちらへ。
m-flo
98年にインターナショナルスクールの同級生だった☆TakuとVERBALの2人で活動をスタート。後に、ヴォーカルとしてLISAが加入し、m-floとして本格的に始動。同年にインディーズからリリースした「The Way We Were」は驚異的なセールスを記録。
99年7月に1stマキシシングル「the tripod e.p.」でメジャーデビュー、オリコン初登場でいきなり9位をマークした。その後も快進撃を続け、シングル12枚、オリジナルアルバム2枚をリリースし大ヒットをおさめた。2nd ALBUM「EXPO EXPO」に至っては80万枚のセールスを樹立し、日本の音楽シーンに強烈なインパクトを与えた。
02年にLISAがソロ活動に専念するため、惜しまれながら脱退を決断。
03年、VERBALと☆Takuの2人となったm-floは、さまざまなアーティストとコラボしていくという”Loves”シリーズで日本の音楽史に“featuring”という概念を定着させた。
05年には日本武道館でのワンマンライブを、07年には横浜アリーナ公演をかつてないほどのスケールで大成功させる。また”ROCK IN JAPAN FESTIVAL”や”SUMMER SONIC”などのステージにも登場するなど、アンダーグランドからオーバーグラウンドまで、縦横無尽な活動で、日本の音楽シーンに新たな風を吹き込んだ。
08年、41組とのコラボレーションを実現した”Loves”シリーズに終止符を打ち、新たな可能性を求め、プロデュースやリミックス、DJ、また自身のブランドや別ユニットなど個々の活動で活躍していた。
そして2017年。日本を代表する最強のトライポッド「m-flo」が15年振りにLISA・VERBAL・☆Taku Takahashiのオリジナルメンバーで完全復活!!
オフィシャルサイト
https://m-flo.com