Interview

作曲の過程までアニメ化、「尋常ではない手間がかかっている」─『キャロル&チューズデイ』プロデューサーが語る、全世界配信に向ける覚悟

作曲の過程までアニメ化、「尋常ではない手間がかかっている」─『キャロル&チューズデイ』プロデューサーが語る、全世界配信に向ける覚悟

本作では「曲が生まれていく過程」も描きたいと思っていました

主人公にあたるキャロル&チューズデイは、その「エバーグリーンなもの」を象徴する存在なのですね。彼女たちの音楽の方向性は、どんな風に考えていったのでしょう?

『キャロル&チューズデイ』の世界ではAIで作曲することが一般的になっていますが、彼女たちはNordのキーボードとGibsonのHummingbirdを使って、生楽器で音楽を作っています。

また、特に第1クールは2人がデビューに向かっていくまでのお話なので、2人はまだドラムやベース、エレキギターを入れた複雑な曲が作れるほどのスキルは持ち合わせていない状態です。ですから、初期の楽曲は基本的にはアコギとキーボードを中心に、そこにプラスアルファ程度の要素が加わった曲という縛りを設けて制作していただきました。

たしかに、2人の楽曲にはまだ活動をはじめたばかりのピュアさを感じますね。

この作品では、声優さんも、歌を担当していただく2人についても、物語の最初の部分から順番にアフレコ/レコーディングを進めています。ですから、1話の作中でキャロルとチューズデイが出会って作曲する音楽シーンの歌唱は、実際にキャロルの歌を担当するナイ・ブリックスと、チューズデイの歌を担当するセレイナ・アンが、本当に初めて出会って歌唱した音源なんです。それが、1話の終盤に登場する「The Loneliest Girl」の音楽シーンでした。

あのシーンではまだ“後に「The Loneliest Girl」になる曲を演奏している”という状態ですが、通常の音楽アニメでは既に完成している曲を披露することが多いのに対して、『キャロル&チューズデイ』では「曲が生まれていく過程」も描きたいと、渡辺監督の思いがありまして。ですから、あの場面では実際に、楽曲を担当してもらったベニー・シングスに「曲が生まれていく途中の曲」を発注しています。

そもそも音楽はパッとできるものではなく、ミュージシャンが悩んで苦しんで、その結果生み出されるものですよね。その過程を、どうしても演奏シーンを通して表現したいと考えていたのだと思います。これはアニメーションにとっても音楽にとってもチャレンジングなシーンでした。

あの1話の音楽シーンは、約2分弱の間、セリフがひとつもないんですよね。そのピリッとした空気の中で、キャロルがコードを弾きはじめ、チューズデイがフレーズを当てて音を探して、ハミングがはじまり、2人の歌声が重なっていきます。2人が初めて向き合って作り上げたあのシーンは、とても素敵なものになったと感じています。

僕もあの演奏シーンで、作品の世界にぐっと引き込まれた感覚がありました。

演奏シーンに関しては最初に実写でも撮影しているので、ナイとセレイナが実際にあの位置で歌っていますし、演奏部分を担当したミュージシャンの方々にも、実際に鍵盤やフレットを正確に押さえてもらっています。

楽曲のレコーディングにボンズ制作チームも呼んで、レコーディングと同時並行で口の動きや顔の表情、体の揺れ、演奏者の手元までを実写で撮影し、その映像を組み合わせてVコン(ビデオコンテ)を作り、それを元にアニメーターの方々がデジタル作画でアニメーションにしているので、1カット1カット、なかなか尋常ではない手間がかかっています。

特に1話の「The Loneliest Girl」の演奏シーンの時点では、まだ2人がお互いに「これでいいのかな?」「これで合っているのかな?」と手探りでレコーディングを進めている雰囲気も含めて忠実に再現出来ているので、その工程は作品に魅力的なリアリティを加えてくれたと感じます。

もちろん、声優さんも1話からアフレコを進めていますので、今1話を観返してみると、キャロルの声を担当する島袋美由利さんとチューズデイの声を担当する市ノ瀬加那さんの関係も、まだどこかよそよそしい部分があるんです。そこから話数を重ねていく中で、お互いの関係性が深まったり、フレッシュな2人が成長していくような雰囲気が生まれているので、それもすごくよかったと感じています。

キャロル 役・島袋美由利さんと
チューズデイ 役・市ノ瀬加那さんの対談インタビューはこちら
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2019.06.12

「実写で撮影したものをベースにして、それを手描きで描き起こしていく」という作業は非常に手間のかかるものだと思います。それでもその制作方法で進めていることについては、どんな理由があってのことなのでしょうか?

ボンズの南社長がよく言われていますが、昨今、特に海外ではフルCGのアニメ作品も増えている中で、なぜ手描きにこだわって描くのかというと、手描きの作画には、どこかいびつなところがあって、そのいびつさが人間味を加えてくれると。

そもそも、人の動作や表情は直線でパキっとしているものではないですから、微妙な感情の変化を手描ききの作画で表現することによって、今作はより暖かさを感じる作画になっているので、さすがボンズさんだなと毎回驚かされます。その映像と音楽をシンクロ作業自体が、この作品にとっては作中でキャロルとチューズデイが2人で曲を作っていくのと同じような、共同制作の大変さと楽しさに繋がっています。

様々なポジションの人間が自由に発言したアイディアが積み重なって、作品がよりよくなっていく

作品のOP/EDテーマとなっているキャロル&チューズデイの楽曲「Kiss Me」と「Hold Me Now」の制作過程についても教えていただけますか?

この2曲も、もともとは作品中のシーンのための楽曲として発注したものでした。そうした放送開始時点までに上がってきた楽曲の中から、OP/EDに合うものを監督が選んだ形です。この作品ではストーリー制作と楽曲制作が同時進行で進んでいるので、毎回「ここに行こう」と思ったところに落ち着くのではなく、渡辺監督を中心に様々なポジションのスタッフが自由に発言したアイディアが積み重なって、作品がよりよくなっていくのを感じています。本当に、バンドで曲を作るのと同じような感覚ですね。

たとえば「Kiss Me」ですと、「if we could change this world」という歌詞の部分でキャロルとチューズデイの歌声が合わさるなど、歌割りや歌詞にも工夫を感じます。この辺りについても、みなさんで相談して進めていった部分はあったのでしょうか?

監督のイメージを様々なコンポーザーに伝え、そこからはガチガチに指定するのではなく、それぞれの感性で自由に制作して頂いています。そうして上がってきたものが、ストーリーや音楽シーンにガチッとはまる奇跡が、何度も起きているんです。

上がった楽曲を監督が聴いて、歌詞や音楽の雰囲気に合わせて、当初予定していたストーリーから変更することもあり、作品に携わる方々がお互いに影響を与え合いながら、様々な奇跡が生まれているところです。

音楽アニメ作品だからこそできる表現もありますね。

たしかに、敢えて台詞や演技で心情を伝えず、音楽シーンで歌声やパフォーマンスでキャラクターの心情を表現するというのは、今作品だからこそ出来る表現だと思います。

そもそも、音楽や人の感情には、数値化できない何かがあると思うんです。監督もおっしゃっていますが、「人が生み出すものには、心を震わせるものがある」ということ。これはキャロルとチューズデイが作品の中に生まれたひとつの理由でもありますし、今後ストーリーが進んでいく中でも、そんな2人の音楽に魅せられた人々が徐々に集まって、1話の冒頭で語られる「奇跡の7分間」に向かっていきます。

たとえば、70~80年代なら「Imagine」や「We Are the World」もそうですが、社会に何かひずみが生まれたときに、その傷を癒すために名曲が生まれてくるということがありますよね。ですが、その際になぜその曲に魅力を感じるのかは、言葉では説明しきれない部分があります。『キャロル&チューズデイ』の物語には、そうした言葉には言い表せない「奇跡」がたくさん起きていて、作品が進むにつれて、音楽以外の要素も含めて今の時代を考えられるようなものになっていくと思っています。

後編はこちら
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2019.07.06

TVアニメ『キャロル&チューズデイ』

放送中

フジテレビ「+Ultra」 毎週(水)24:55~
テレビ西日本 毎週(水)25:55~
東海テレビ 毎週(土)25:55~
北海道文化放送 毎週(日)25:15~
関西テレビ 毎週(火)25:55~
BSフジ 毎週(水)24:00~
NETFLIX 毎週(木)配信(日本先行)

【スタッフ】
原作:BONES・渡辺信一郎
総監督:渡辺信一郎
監督:堀 元宣
キャラクター原案:窪之内英策
キャラクターデザイン:斎藤恒徳
メインアニメーター:伊藤嘉之、紺野直幸
世界観デザイン:ロマン・トマ、ブリュネ・スタニスラス
美術監督:河野羚
色彩設計:垣田由紀子
撮影監督:池上真崇
3DCGディレクター:三宅拓馬
編集:坂本久美子
音楽:Mocky
音響効果:倉橋静男
MIXエンジニア:薮原正史
音楽制作:フライングドッグ
アニメーション制作:ボンズ

【キャスト】
キャロル:島袋美由利
チューズデイ:市ノ瀬加那
ガス:大塚明夫
ロディ:入野自由
アンジェラ:上坂すみれ
タオ:神谷浩史
アーティガン:宮野真守
ダリア:堀内賢雄
ヴァレリー:宮寺智子
スペンサー:櫻井孝宏
クリスタル:坂本真綾
スキップ:安元洋貴
ヨシュア:梶裕貴

シンガーボイス
ナイ・ブリックス(キャロル)
セレイナ・アン(チューズデイ)
アリサ(アンジェラ)
ローレン・ダイソン(クリスタル)
サンダーキャット(スキップ)

【参加コンポーザー】
Mocky / Nulbarich / Benny Sings / Lido / JEN WOOD / 津野米咲(赤い公園) / Evan “Kidd” Bogart / Tim Rice-Oxley(Keane) / Eirik Glambek Bøe(Kings of Convenience) / Flying Lotus / Thundercat / G.RINA / Maika Loubté /☆Taku Takahashi(m-flo) / Alison Wonderland / Mark Redito / Taylor McFerrin / Madison McFerrin / D.A.N. / 梅林太郎 / cero / Steve Aoki / MOGUAI / ANDY PLATTS / Cornelius / ・・・and more

ライブ情報

『キャロル&チューズデイ』 LIVE ~The Loneliest Girl~

出演者:キャロル&チューズデイ(Vo.Nai Br.XX&Celeina Ann)

2019年8月11日(日) 原宿クエストホール
1.開場/開演 14:30/15:00
2.開場/開演 17:30/18:00
※2回公演

©ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会

TVアニメ『キャロル&チューズデイ』オフィシャルサイト

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