今回言いたいのは、1つの物語を感じてもらえてもらえるような作品を作るということ
「恋ワズライ」はレゲエです。ライブでの自身のパーカッションプレイや前作での『TAKE YOU TO THE SKY HIGH』のサルサアレンジなど、ラテンと角松さんは違和感なくすんなりと聴けます。
いわゆる誰もが一聴してレゲエだ、と感じるようなレゲエは、今回が初めてですよ。レゲエは奥が深くて、裏打ちやハネてるだけがレゲエじゃないし、もっと深いものなのです。民族的な文化でもあるから、簡単に手を出せるモノじゃないんですけど。これまでで僕自身レゲエ的なトラック作りをしたのは『Fankacoustics』収録の「真夜中模様」という曲くらいですかね。レゲエの重要なグルーヴメソッドを採用している曲はあるんです。ところが今回みたいにシンプルにレゲエ的だと思われるようなトラックを作ったのは初めてです。
なぜでレゲエにしたのですか?
40年以上ポップスをやってきて自分の年齢的に楽しめるようになったのと、あとは詞をもらったときに“軽快な感じにしてくれ”と言われて、レゲエがひらめいたからです。詞のテーマとしては電車のホームでたたずんでいる女の子を見ながら、ドキドキしている男の子の心情なのですけど。それをちょっとレゲエにして軽快に伝えられたらなと思って。しかしメロディを構築していったら、ものすごく難しいメロディラインになっちゃって。面倒臭い歌になっちゃいましたね、聴いているとポップに聴こえますけど(笑)。
タイトル曲「東京少年少女」も展開が複雑な楽曲です。
「to be or not to be」的な感じですね。サビのメロディはすぐ自分の中でキャッチーなものにして歌いやすいようにしたのですが、サビに行く前の展開、Aメロに関しては5パターンぐらい考えましたね。

「TOSHIKI KADOMATSU Performance 2018“BREATH from THE SEASON”」より
何パターンも試したのはなぜですか?
ミュージカルトラックというのは、舞台作家が詞を書いて、これにメロディをつけてくれというのが定石です。僕はそれをしたくはないので、何を言いたいかだけ聞いて、あとはこっちが歌いやすいように変えさせてもらった。でも、変えさせてもらうのだけど、それでも向こうの言いたいことは外せないから、彼の言葉を使って組み替えるわけです。にしても、僕の言葉ではないので難しいわけです。
そこが今回の歌詞先行でのミュージカルトラックの難しさですね。
音楽ありきで詞を表現しようとする我々は、言葉を自分が歌いやすい音に乗せて歌うわけですから、聴き手にスムーズに入ります。
しかしミュージカルトラックの多くは作家や演出家の表現したい世界ありきで音楽を使用しているので、音楽単体として聴いた場合、非常に不自然な場合も多いのです。
KOUTAさんのイメージする物語を音源化する上で注意したことは?
僕もKOUTAさんの言葉を活かしていくためにはどうやってメロディをつけたらいいだろうかって。でもそっちに寄せすぎるとCDを最初に聴いた人が角松作品として違和感を感じてしまうのではないかという側面がたくさんあったんです。例えば、サビの“その靴を踏みしめて”という歌詞なのですが、KOUTAさんの元の詞は“そのローファーを踏みしめて”になっていた。その方がミュージカルライクなのでしょうけど、僕はスタイリッシュではないなと思って、“靴”っていったほうがメロディに乗っかりやすいし、万人にイメージが伝わり、とてもスムーズなメロディに構成ができるようになります。そういう加筆・変更を随所で施して本作の曲が出来あがっているわけです。実はAメロ部分がもっと長くて、そうとう切りました。どうしても乗っからない、これは歌えないとか、歌うとちょっと曲としてスタイリッシュじゃない、でも絶対にKOUTAさんは伝えたいのだろうなっていうところは「to be or not to be」の中で表現しているような、「台詞」として使用している箇所もあります。

「TOSHIKI KADOMATSU Performance 2018“BREATH from THE SEASON”」より
アタマでラップが入っているのも印象的です。
最初に曲想を考えた時、 勇壮なリズムで導入した後、若者がラップをする姿が浮かびました。それもイメージとしてはマオリ族の民族舞踊のハカのような感じ。
ラグビーのニュージーランド代表のオールブラックスなどがやる試合前の踊りですね?
そう、ラグビーの試合前にやるでしょ。お互いに戦意を表しながらも敬意を表する踊りなんですよ、ハカって。
そういうイメージのラップを入れたいと思ったんです。
最後の「It’s So Far Away」は、角松さんの作詞/作曲の壮大なバラードです。こちらは曲先ですか?
そうです。いつもどおりの作り方です。小此木まりさんの歌声のファンといっても過言ではないので自分の思い入れとしてデュエットソングを作りました。チアキや梨絵もそうですが、彼女たちのようにハイトーンが耳につかない高い声が出せる人が好きなんですよ。さらにいえば、ハイトーンをなるべくファルセットに逃げない人。アンジェラ・ボフィルとかポーリン・ウィルソンみたいな声が好みなんです。
歌詞のテーマは何ですか?
「東京少年少女」のテーマは、大人が悪いとか、権力が悪いとか、よくありがちなバイアスの部分が強いので、この曲には大人世代と若者世代が最終的にノーサイドになって欲しいという僕なりの想いを込めているんです。「東京少年少女」の冒頭にハカ的なものを使用したかったのもそういう意図からです。「東京少年少女」という物語を別の側面から聴いた場合、親から子へのメッセージにも聴こえるようにしているということです。また、さらに別の側面からみたら、恋人同士の想いだったり、初恋の人へのオマージュだったり、マルチエンディング的に感じてもらえるようにしていますね。そういう意味ではエンディングロールであることは間違いないですね。

「TOSHIKI KADOMATSU Performance 2018“BREATH from THE SEASON”」より
今回の「東京少年少女」は、架空のミュージカルトラックという実験作です。
今回の目標は、1つの物語を感じてもらえてもらえるような作品を作るということでした。その物語というのは、僕が作った物語では面白くないから、他の人が作った物語をまだ完成前に僕が先に音楽にして、僕が聞いた話を僕なりに音にしてみましたというコンセプトアルバムなのです。
さて、これまで角松さんの将来的な目標への布石として点を打ってきた今までのアルバム達ですが、今回もその点となりますが、将来的なビジョンはどう考えていますか?
目標として長年のやりたかったことは、先にも述べた音楽ライブを主軸にした総合エンターテイメント的なものです。その計画に向けて今までのアルバムはその布石にあたる点。今はその一つ一つの点を線で結ぶための研鑽の時期です。そういう意味で今作は、三段跳びで例えるとステップに当たる大きなポイントです。でもジャンプする前に40周年の横浜アリーナを成功させなければならないので、その目標はその先の実現に向けていければいいと思っています。この1年2年含めて、僕がやることの中で、いろいろ見えてくるモノもあるんじゃないかと。2020年のオリンピックイヤーは世の中がザワザワしているから静かに粛々と角松敏生スタンダードを中心に展開して(笑)五輪終了後、秋ぐらいから40周年に向けてファンと盛り上がって温度を上げていこうと考えています。
気が早いですが、来年の次作は何を考えていますか?
来年の初夏のツアーを盛り上げるのにちょうどいいのは、今のところセルフカバーアルバム第2弾の『REBIRTH 2』とかね。公言として「かな?」ぐらいですけど(笑)。レコード会社さんからも6、7年ぐらい前から希望されていますし、リメイクアレンジのアイディアもいっぱいあるのですよ。とにかく、今年のツアーを盛り上げて来年以降の動きがどういった形になっていくのかを楽しみにしていきたいし、あと多くの方々、殊には角松ファンのみなさんが退屈するようなことはするつもりはありませんので期待していてください。
ライブ情報
TOSHIKI KADOMATSU Performance 2019 “Tokyo Boys & Girls”
5月11日(土) 浜松市浜北文化センター大ホール
5月17日(金) レザンホール(塩尻市文化会館)大ホール
5月21日(火) 戸田市文化会館
5月24日(金) カナモトホール(札幌市民ホール)
5月26日(日) 新潟県民会館
6月1日(土) 日本特殊陶業市民会館フォレストホール
6月2日(日) オリックス劇場
6月8日(土) NTTクレドホール
6月9日(日) 倉敷市芸文館
6月12日(水) 神奈川県民ホール大ホール
6月16日(日) 東京エレクトロンホール宮城
6月22日(土) 福岡市民会館
6月28日(金) 中野サンプラザ
6月29日(土) 中野サンプラザ
角松敏生(かどまつとしき)
1960年 東京都出身
1981年6月、シングル・アルバム同時リリースでデビュー。以後、彼の生み出す心地よいサウンドは多くの人々の共感を呼び、時代や世代を越えて支持されるシンガーとしての道を歩き始める。また、他アーティストのプロデュースをいち早く手掛け始め、特に1983年リリースの 杏里「悲しみがとまらない」、1988年リリースの 中山美穂 「You’re My Only Shinin’ Star」はどちらも角松敏生プロデュース作品としてチャート第1位を記録、今だスタンダードとして歌い継がれている。
1993年までコンスタントに新作をリリース、いずれの作品もチャートの上位を占める。年間で最高100本近いコンサート・ツアーを敢行、同時に杏里、中山美穂、らのプロデュース作も上位に送り込んだ角松だったが、当時の音楽シーンへの疑問などに行き詰まった彼は、この年の1月27日、日本武道館でのライヴを最後に自らのアーティスト活動を『凍結』してしまう。しかしこの“凍結期間”は、逆に「プロデュース活動」をさらに多忙にさせるといった結果となり依頼が殺到し、プロデューサーとしての手腕を存分に発揮した。また、1997年にNHK“みんなのうた”としてリリースされたAGHARTA(アガルタ :角松敏生が結成した謎の覆面バンド )のシングル「 ILE AIYE(イレアイエ)~WAになっておどろう」は社会現象ともいえる反響を集め大ヒット。1998年2月の閉会式では自らAGHARTA のメインヴォーカルとしてその大舞台に立ち、今や国民的唱歌「WAになっておどろう」が披露され、この映像は全世界に向けて映し出された。
『凍結』から約5年、角松敏生は遂に自身の活動を『解凍』することを宣言。1998年5月18日、活動を休止した同じ日本武道館のステージに再びその姿を現した。その「He is Back」コンサートのチケットは発売直後にソールド・アウトとなる。翌年リリースしたアルバム『TIME TUNNEL』はチャート初登場第3位を記録し、変わらぬ支持の大きさを実証してみせた。
その後2作連続TOP10入りを果たしたシングル「君のためにできること」、「Startin‘/月のように星のように」、沖縄・アイヌと音楽の旅を続けた『INCARNATIO』、再びスティーヴ・ガッドを起用した角松サウンドの集大成アルバム『Prayer』、大人の遊び心に溢れた『Summer 4 Rhythm』『Citylights Dandy』など、作品ごとに新しいコンセプトで挑むアルバムやライヴDVDなど、コンスタントにリリースを重ねている。またリリースに平行して、20周年、25周年、30周年のアリーナクラスの記念ライヴや全都道府県ツアー、大型ホールからライヴハウスまで、様々な形態で精力的にコンサートを行い、 2012年春、30周年を記念したリメイク・ベストアルバム「REBIRTH 1」をリリース。 2014年3月角松の幅広い音楽性が1曲に組み込まれた「プログレッシブ・ポップ」アルバム「THE MOMENT」が話題となった。
2016年デビュー35周年を迎え、記念ライヴを横浜アリーナにて開催し、大盛況の内、幕を閉じた。リミックスアルバム『SEA BREEZE 2016』リメイクアルバム『SEA IS A LADY 2017』はオリコン初登場4位を獲得。この作品は第32回日本ゴールドディスク大賞『インストゥルメンタル・アルバム・オブ・ザ・イヤー』受賞した。
その妥協を許さないスタンスとクオリティで常に音楽シーンの最前線で活動をしている。
また2002年と2005年には映画音楽、そして自身が役者として芝居の殿堂でもある下北沢・本多劇場のステージに主役として立つとともに音楽、映像監督を同時に務めるなど、新たなチャレンジも行っている。
2019年…デビュー40周年へと向かう今、制作、ライブとますます精力的に活動を続けている。
オフィシャルサイト
http://www.toshiki-kadomatsu.jp/