Interview

若手俳優の中でめきめき頭角を現してきている笠松将。映画『ラ』に込めた想いと役者としての覚醒

若手俳優の中でめきめき頭角を現してきている笠松将。映画『ラ』に込めた想いと役者としての覚醒

役作り…音はすごく大事にしています

なるほど。もちろん脚本には物語の結末まで書かれていますが、いったんカメラが回ったらその“未来”を頭から消し去るイメージですか?

はい。なのでテイクを重ねる場合には、1回ごとけっこう芝居が変わることがあります。毎テイク、きっちり同じ芝居をするのは苦手で。最初はそれがコンプレックスだったんですけど、あるとき「毎回変わっても、別にいいや」と開き直ったら、自由に演じられるようになりました。

その人らしさを表現するために、他にも何か大事にしていることはありますか?

役作りとか、大それたことは何もしてないんですけど……ただ、音はすごく大事にしてると思います。台詞の読み方とかテクニカルな部分じゃなくて。むしろ音色だったり音程だったり。あとは気持ちのいいリズムとかテンポ。

言葉というよろいは、より純粋なサウンドの部分?

そうです! 言葉ではうまく説明できないけど、何となく惹かれる歌手とか、小さなエピソードをすごく面白く聞かせちゃう芸人さんって、いるでしょう。それってたぶん、音なんですよね。もちろん逆パターンもあって、理由はないのに何かイラつくとか、どうも会話が噛み合わないのも、やっぱり音の要素が大きいと思う。なので演じるときはまず、「その人の持ってる音って、どんなだろう?」ってことを考えます。

面白いですね。その音って、どうやって見つけるんですか?

現場で探すことが多いですね。人の声って、やっぱり周囲との関係性のなかで際立つものなので。だから出演者が多い作品ではわりと苦労します。バンドのアレンジと似ていて、「こことここの音域は埋まってるから、この辺りかな」って感じで、空いたスペースを探さなきゃいけない。逆に言うと、音が一度パッとはまれば、あとはそんなに意識しなくても大丈夫です。

ちなみに今回、“黒やん”の音はどんな感じですか?

ピアノの鍵盤でいうと白い方じゃなく黒い方だと思います。「♪ドレミファソラシド」っていい感じできてたのが、微妙にズレちゃって。思わず「ん?」ってつまずく感じ(笑)。

なるほど(笑)。本作のタイトルになっている「ラ」の音は、国際標準化機構で定められた基準周波数。オーケストラのチューニングにも用いられ、全世界共通の赤ちゃんの産声でもある「始まりの音」を意味しています。そこにも繋がるかもしれませんね。

(笑)。かもしれませんね。とにかく、半音ズレてる男なんです。

映画『ラ』より © 2018映画『ラ』製作委員会

慎平役の桜田通さんとは、今回が初共演ですか?

3年前、『orange-オレンジ-』という作品でご一緒しました。僕は台詞もない端役だったんですけど、桜田さんはそのときからすごく仲良くしてくれたんです。ロケ地から東京に戻ってからも一緒にゴハン食べたり、相談に乗ってもらいました。歳は近いけれど尊敬してる先輩なので、今回しっかり共演できて本当に嬉しかった。現場でも、大事なシーン前に僕が緊張してたりビビってたりすると何気なく声をかけてくれて、すごく助けられました。

クライマックスで、慎平と“黒やん”がついに感情をぶつけ合うシーンが圧巻でした。演じてみた感想はいかがでしたか?

今回、長回しの撮影が多かったんです。あの最後のシークエンスは、台本では7〜8ページあるやりとりをカットを割らずに一気に撮っています。なので、やる前は正直怖かったです。でもカメラが回ったら白紙になれたというか……土砂降りのなか思いきり取っ組み合ったりして。高橋監督が「OK!」って言った瞬間、ものすごい達成感がありました。桜田さんとひと言も喋らずに、焚き火の前でブルブル震えいたんですけど。お互い「俺たち、やったぜ」という意識はびんびん感じてたんじゃないかと。

あらためて振り返ってみて、“黒やん”はどういう人物だと思います?

最後までスタートが切れなかった人、ですかね。ずっと過去に囚われたままで、今を一生懸命に生きられない。負けたくないから戦うことをしない。どこかでひと言「慎平ごめん」と言えてたら、また違う人生があったと思うんですよ。でもできなかった。『ラ』というタイトル通り、この映画は「始まり」についての物語なんです。だから観てくださった方がそれぞれ自分のなかの“黒やん”を感じてくださったら嬉しいです。そして「やっぱり自分はそうじゃない生き方がいいな」と思ったのなら、最高ですね。

『デイアンドナイト』『ラ』と重要な作品が2つ続いて、俳優として次のフェイズに進めたという実感はありますか?

いえ、それは全然です。今はまだ一つひとつオーディションで役を勝ち取って、演じるのに必死という感じです。ただこの2本を通じて作品への向き合い方は確実に変わった気がします。特に『デイアンドナイト』の現場では、事務所の先輩でもある田中哲司さんに言っていただいた言葉は、仕事に対する考え方が根本的に変わるほど影響を受けました。

へええ、どんなアドバイスだったんですか?

撮影の合間にお話ししていたとき、哲司さんがふと僕に「笠松君さ、俳優って何をする仕事だと思う?」と聞かれたんですね。最初は意味がわからずに、焦って「えーと、人に感動を与えるとか、ですか?」と適当なことを口走った記憶があるんですけど(笑)。哲司さんは「あ、それもいいよね」と言ってくださって。で、「僕はね、俳優の仕事は台詞を言うことだと思うんだ」と。

おお、なるほど。

「台詞を言うのが仕事だから、現場で台詞を飛ばしちゃだめなんだ」「台詞さえ飛ばなければ、どんな状況でもある程度のことはできるからね」って。

名バイプレーヤーの田中さんが仰ると、凄みがありますね。

そうなんです。シンプルだけど、何周もしてすごく深い。すごいことを教えてくださってるんだなと、しびれました。当たり前だけど、台詞が完璧に入ってれば、そのぶん自由に演じられる。実際、絶対そうするって心に決めてからは、オーディションの勝率も変わってきました。ここぞというときは勝ちきれるようになってきた気がします。

3月18日から5夜連続で放送されたドラマ『平成物語』(フジテレビ)では、多数のオーディションを勝ち抜きヒロイン・山崎紘菜さんの相手役を務めました。また今年9月には松本穂香さん、板尾創路さん、浜野謙太さんと共演した『おいしい家族』(ふくだももこ監督)の公開も控えています。

『平成物語』は同世代のスタッフと作り上げ、背伸びをしないで現場にいることができました。『おいしい家族』はいろんなジャンルの怪獣や妖怪たちが寄り添った家庭劇みたいな感じでしょうか(笑)。まだ完成を観れてないのですが、撮影の記憶もよみがえるでしょうし、とても楽しみにしています。

フォトギャラリー

映画『ラ』

4月5日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開中

監督・脚本・編集:高橋朋広
出演:桜田通、福田麻由子、笠松将、佐津川愛美、ダンカン、西田尚美
配給:アークエンタテインメント
©2018映画『ラ』製作委員会

オフィシャルサイト
http://movie-la.com/

笠松将

1992年11月4日生まれ。愛知県出身。
近年、映画『デメキン』(2017年/山口義高監督)『響-HIBIKI-』(2018年/月川翔監督)『さかな』(2018年/神徳幸治監督)などの映画出演に加え、ドラマ『プラージュ~訳ありばかりのシェアハウス』(WOWOW)『ウチの夫は仕事ができない』(日本テレビ)『黄昏流星群~人生折り返し、恋をした~』(フジテレビ)など、多数のドラマにも出演。2019年も、ドラマ『平成物語 ~なんでもないけれど、かけがえのない瞬間~』(フジテレビ)、映画『デイアンドナイト』(藤井道人監督)に出演。映画『ラ』(高橋朋広監督)が4月5日公開、『おいしい家族』(ふくだももこ監督/9月20日公開)も待機中。

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