黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 26

Interview

稀代のゲームプロデューサー「シブサワ・コウ」襟川陽一氏(下)次の世代へのメッセージ

稀代のゲームプロデューサー「シブサワ・コウ」襟川陽一氏(下)次の世代へのメッセージ

テクモとの合併と、知られざる『仁王』開発エピソードを語る

社員がさらに増える要因のひとつにもなったテクモさんとの合併ですが、異なるカルチャーを持つ会社同士がひとつになるというのは、いろいろご苦労があったと思います。

襟川 当然、歴史が違いますし、会社の運営の仕方もゲームの開発の仕方も管理の仕方も違うわけです。ただ、違うのは当たり前だと思っていましたし、時間をかけて融合していけば、いずれひとつの形にまとまるだろうなという考えが基本にありました。

なるほど。

襟川 逆に急いで強制すると、せっかくの優秀なクリエイターたちが、やる気をなくしてしまいますので、そこは非常に気を使いましたね。面白いゲームを作りたいという気持ちを持って、それぞれの会社に入ってきているわけですから、その気持ちは大切にしながら、ふたつの会社がひとつの会社になれるように時間をかけて段階的にゆっくり行いました。その象徴と言えるのが『仁王』(注20)です。

昨年の2月に発売して全世界で200万本売れたのですが、『仁王』はコーエーだけではできなかったですし、テクモだけでもできなかった。まさしくコーエーとテクモの経営統合によるシナジー効果によってできあがったタイトルなんですね。この成功体験によって、今までできなかったことが、さらにできるようになったんです。『ドラゴンクエストヒーローズ』のシリーズであるとか、『ゼルダ無双』のシリーズであるとか、両者のノウハウを融合させることによって、新しい面白さを作っていくというのが次々に成功していますので、今はもう「コーエーテクモ」という、ひとつの会社だという一体感を持ってやっています。開発方式もそれぞれ分かれていましたが、今は同じ開発方式でやっていこうとなっていますし、ゲームエンジンも同じものを使うことで非常に開発が効率化されています。

注20:群雄割拠の戦国時代末期を舞台に異国の侍・ウィリアムが異形の妖怪たちと戦いを繰り広げるアクションRPG。2017年2月9日にプレイステーション4向けに発売。

『仁王』はけっこう難産といいますか、最初の発表からローンチまで、ちょっと時間がかかったタイトルだったと思うのですが、そうしたコーエーとテクモのすり合わせの部分も影響したのでしょうか。

襟川 それは、まったくコーエー側の事情でして(苦笑)。最初はロールプレイングゲームとして作っていたんですが、テスト版を作ってみたら今ひとつで、自分としては納得できるものではなかったんですね。戦場の合戦部分であるとか、そういったところをロールプレイングゲームで作るのはなかなか難しくて。もっとそこを極めれば別の展開があったかもしれませんが、そのときはいったん置いておいて、しばらく休止して、また新しいアイディアが出てくるまで待とうということになったんです。

そういう事情だったんですね。

襟川 ええ。で、10年前にテクモと経営統合した際、Team NINJA(注21)の早矢仕(洋介)君(注22)に…今当社の専務をやっていますけど。彼に『仁王』を再開したいから一肌脱いでくれって話をしまして。早矢仕君も一生懸命作ってくれたんですけれども、どうも『NINJA GAIDEN』風になっちゃってですね(笑)。これだったら『NINJA GAIDEN』を作ったほうがいいんじゃないかとなって、そこでまた中止になったんです。それが5年ぐらい前に、またもう1回スタートしようということになりまして。会社のいろいろな知恵者のアイディアを集めた結果、出てきたのが「戦国死にゲー」だったんですね。で、そのプロトタイプを作ってやってみたら、えっらい面白くて、「これだ!」となったんです。

39才のとき ニュービジネス協議会からアントレプレナー大賞を…

注21:コーエーテクモゲームスの開発チーム。旧テクモ時代からアクションゲームの開発に定評があり、『DEAD OR ALIVE』シリーズや『NINJA GAIDEN』シリーズなどを生み出したことで知られる。

注22: Team NINJAのブランド長とコーエーテクモゲームス専務執行役員を務める。代表作は『DEAD OR ALIVE 5』など。

なるほど、なるほど。それで時間がかかったわけですね。

襟川 そうですね。ですから、『仁王』はTeam NINJAが存在したからこそ実現できたわけです。

まさにコーエーとテクモの合体による産物ということですね。

襟川 そうですね。コーエーは歴史に関するゲームは経験豊富ですが、アクションはやっぱりテクモの方が圧倒的にノウハウがあります。彼らの作るアクションは非常にキレがあって、やっていて気持ちが良いんですね。手触り感っていうんですかね、すごく気持ち良くサクサクっと動いてくれるんです。

2019年はeスポーツ元年と捉えてのチャレンジする

今年はeスポーツにもコーエーテクモとしてチャレンジしていかれるんですよね。

襟川 そうですね。2019年は当社にとってのeスポーツ元年みたいな年になります。

やはり『DEAD OR ALIVE』(以下『DOA』)シリーズで?

襟川 『DEAD OR ALIVE 6』が3月1日に発売されましたが、すでに『5』でもいろいろな大会を行っています。昨年の11月に開催した『DOAフェスティバル』(注23)でもトーナメントの大会を行ったんですけど、会場に900人ぐらいの方がお見えになって、もう手に汗握りました。私も決勝戦を見ていましたが、5セットマッチで両者2セットずつ取り合ってですね。最終セットも両方とも同じぐらい体力ゲージが減っちゃいまして、どちらもあと1回打たれたらダメっていうところで最後の一打が入ったんです。それで優勝が決まったので、もう会場はヤンヤヤンヤです。本当に素晴らしい大会でした。

注23:『DEAD OR ALIVE』シリーズのファン感謝イベント。2018年11月18日に御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターにて開催された。

すごい大会だったんですね。今年はワールドツアーも行うとのことですが。

襟川 ええ、すでにアメリカではやっているんですけど、それをもっと世界レベルで広げていこうと。大会の回数も増やして、賞金額ももっと大きくして。億とまではいかないですけど、千万円単位ぐらいの金額にはしなくちゃいけないと思っています。

楽しみですね。また新しい柱ができる感じがします。

襟川 そうですね。『DEAD OR ALIVE 5 Last Round』は全世界で基本無料版の配信サービスを行っているんですけれども、それが今1000万ダウンロードを超えてるんですね。つまり、世界には『DOA』のプレイヤーが1000万人以上いるわけです。そこに新作の『6』を提供して、さらに競技性を増した形で楽しんでいただきたいと思っています。

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