黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 25

Interview

ゲームプロデュースの最先端 齊藤陽介氏(下)スクエニファン以外にリーチしたかった

ゲームプロデュースの最先端 齊藤陽介氏(下)スクエニファン以外にリーチしたかった

やっぱり新しいことをやりたいですね

そうですよね。今後はどういったことをやりたいと思われているのでしょうか。

齊藤 そろそろもう何もしなくていいんじゃないかなと。何もしなくもいいぐらいは、ちゃんと会社には貢献してきたんじゃないかと思っているんですけどね、ハッハッハ。

でも、まだまだ会社人生はありますよね。

齊藤 そうなんですよね。だからホントに何かやるとしても、やっぱり新しいことをやりたいですね。

ご自身でご自身の作ったものを超えるようなことを常にやられていますよね。何か成功の秘訣のようなものがあるのでしょうか。

齊藤 あんまりそれは意識していないですけどね。方法論とかもあんまりなくて、あくまで結果論でしかないんで、成功の秘訣とか聞かれても分からないです、それは。

逆に、失敗したと思っているものはあるんですか?

齊藤 なんか悪くてもトントンなんですよね。だから、そのへんに関してはあんまり……実写ゲームは1作ぐらいで止めておけばよかったなとは思いますけど。

『ユーラシア』(注31)に始まるシリーズですね。

注31:1998年にプレイステーション向けに発売された『ユーラシアエクスプレス殺人事件』のこと。修学旅行中の女子校生たちが乗る列車内で起きた殺人事件の謎を解いていく実写のミステリーアドベンチャーで榎本加奈子、深田恭子、加藤あい、新山千春などが出演していた。

齊藤 はい、『ユーラシア』で終わらせておけばよかったなあと。でも、3本作れって言われていまして、それで『øSTORY(ラブストーリー)』(注32)と『the FEAR』(注33)をやったんです。

注32:幽霊になってしまった青年が天使に導かれて真実の愛を探していく恋愛をテーマにした2000年発売のプレイステーション2向けの実写ゲーム。出演者は平山あや(当時は平山綾)、佐藤江梨子、眞鍋かをり、山川恵里佳など。

注33:番組撮影のため怪しげな洋館に入り込んだ出演者やクルーたちが怪異に襲われる、2001年発売のプレイステーション2向けホラーアドベンチャー。出演者は加藤夏希、福井裕佳梨など。

実写ゲームって正直やりたくなかったんです

でも、『ユーラシア』は当時としてはすごい画期的だったと記憶しています。すごくチャレンジブルで実績もちゃんと上げられましたよね。

齊藤 じつは、実写ゲームって正直やりたくなかったんです。自分が面白いと思える、琴線に触れるような実写ゲームって、それまでなかったですから。それで、ヤだなと思っていたんですけど、自分が楽しいと思えるものだったらいいんじゃないかと考えまして。じゃあ自分が楽しいと思えるものは何かっていったら、そりゃかわいい女の子が出ていることだろうって。でも、かわいい女の子をただ見れるだけのものを作ってもしょうがないですよね。そこで出てきたのが、テレビとか映画の演出だったらあんまりやっちゃいけないとされている「カメラ目線」で、つまり女の子がこっちを見て話しかけてきたらメッチャ楽しいよねっていうところだけで作ったんです。

今考えると、すごいキャスティングでしたよね。

齊藤 そうですよね。深田恭子ちゃんなんか当時まだ15歳ぐらいでしたからね。でも、あれは運が良かったんですよ。これから仕事を始める何人かの中から選んだ子が、たまたま深田恭子ちゃんであったり、加藤あいちゃんであったりと。

それは、齊藤さんの目が確かだったからという気もします。

齊藤 どうですかね。ただ、女の子のチョイスの邪魔になるので、芸能プロダクション1社と組むのだけはやめておこうというのはありました。

選択肢が狭くなると?

齊藤 当時のスクウェアさんが出した『アナザー・マインド』(注34)はホリプロさん1社とやっていましたが、そのほうが楽といえば楽なんですよね。ただ、それだとチョイスが狭くなると思ったので、大変ではあったんですけど複数社とやりたいという話をしたんです。

注34:女子高生・瞳の意識の中で目覚めた記憶喪失の青年が、彼女の周囲で巻き起こる不可解な事件を解決していくサスペンステイストの実写ゲーム。主演は松下恵で、そのほかのキャストは山下真司、伊藤かずえ、筧利夫など。

でも、よく制御できましたね。

齊藤 キャスティング会社さんに契約してもらったんですが、色々と大変でした。

そうでしたか。そのあとの2作はご自身としてはちょっと、という感じだったんですか?

齊藤 でも、その2作もそれなりには。2作目の『øSTORY 』は佐藤江梨子ちゃんとか眞鍋かをりちゃんとかが、やっぱりこれから仕事を始めるタイミングで出演してくれましたし。佐藤江梨子ちゃんはまあまあ売れていたのかな。でも、眞鍋かをりちゃんはホントに初めての仕事が『øSTORY 』だったんですよ。3作目の『the FEAR』の加藤夏希ちゃんとは今でもお付き合いがありますし。だから、やって良かったっていう財産にはなっていると思います。

『NieR』はヨコオさんを大阪に行かせたところで目標は達成できている

すごいなあ、素晴らしいですね。齊藤さんが何かを作る上で一番大事にしているものはなんですか?

齊藤 先ほども言いましたが、自分が楽しいことです。で、一緒に作っている人たちも楽しいこと。仕事なんで辛いのは当たり前です。でも、その中で楽しいって思える部分がないと続かないですし、多分面白いものもできないです。まず、面白いものができるということがスタートラインで、それが売れるかどうかはこっちの仕事ですからね。面白いものを作るためには楽しい環境を作ることだと思っています。

なるほど、『NieR』もそうだったんでしょうね。

齊藤 『NieR』はヨコオ(タロウ)さん(注35)が、自分たちの作るものに対する信念をちゃんと持っているので、そこはやりやすかったですね。

注35:『ドラッグオンドラグーン』シリーズや『NieR』シリーズのディレクションを担当したことで知られるゲームクリエイター。現在は自身が立ち上げた株式会社ブッコロの代表取締役社長を務める。

ヨコオさんとシンガポールにて

プラチナゲームズさんとの開発はどうでしたか。ヨコオさんが大阪でかなり苦労されたという話も読んだんですけど。

齊藤 ヨコオさんを大阪に行かせたところで私の目標は達成できているんで。やっぱりヨコオさんがこっち(東京)にいて月イチで行くとか電話会議するとかだと、あそこまでのコミュニケーションは取れなかったと思うんです。それで、立ち上げのときにヨコオさんに単身赴任で大阪に行く覚悟があるんだったら、オレも頑張るからっていう話をしたんですけど、そうしたらヨコオさんが「行く」と即答してくれたんです。ただ、プラチナゲームズってご存知のとおり職人肌な会社で、ちょっと独特じゃないですか(笑)。

独特ですよね、我が強いと言いますか。

齊藤 ええ。ヨコオさんも我が強いので、ハマるかハマらないか半分半分でしたね。でも、半年間プリプロダクションみたいなのをやったら意外や意外で、がっつりハマったんです。

それはプロデューサー冥利につきますよね。

齊藤 座組的にはそうですね。あと、吉田明彦さん(注36)。実はウチにいたときには一緒に仕事をしたことがなかったんですよ。もちろん面識はありましたけどね。まだウチにいたら吉田さんは『FF』で手一杯で、『NieR』の仕事とかできなかったかもしれないです。

注36:『伝説のオウガバトル』、『タクティクスオウガ』、『NieR:Automata』、『ブレイブリーデフォルト』など、数々の名作のキャラクターデザインなどを手がけたことして知られるクリエイター、デザイナー。現在はCygamesの子会社である株式会社CyDesignationの取締役を務める。

やっぱり、すごいプロデューサーですね。

齊藤 でも、吉田明彦さんはホントにダメ元でした。ヨコオさんとプラチナゲームズが「キャラクターデザインは誰がいい?」っていう話をしていたときも、当たり前ですけど吉田さんの名前なんて挙がってこなかったですからね。で、齊藤から吉田さんでいこうとスタッフに話しを振りました。ダメ元覚悟で。

そもそも無理だと思われていたわけですね。

齊藤 そうです、そうです。でも、キライじゃなければってヨコオさんがプラチナゲームズのメンバーに言ってみたら、「キライなんてとんでもない!」、「大好きです!」みたいな話で。だったら、断られたら断られたでしょうがないから、とにかく一度Cygames(サイゲームス)に話をしに行ってみようっていうことになったんです。それで、ダメ元でヨコオさんとふたりで行ったら、社長の渡邊耕一さんも『NieR』は好きだって言ってくれまして、そこからですね。

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