『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』特集  vol. 3

Interview

劇場版3部作がファン絶賛の好スタート。『PSYCHO-PASS サイコパス』塩谷直義監督に訊く新プロジェクトの狙い、2Dアクションアニメへの尋常ならざるこだわり

劇場版3部作がファン絶賛の好スタート。『PSYCHO-PASS サイコパス』塩谷直義監督に訊く新プロジェクトの狙い、2Dアクションアニメへの尋常ならざるこだわり

『SS』で徹底的にこだわった格闘アクションシーンのリアリティ

では、劇場公開中の『Case.1 罪と罰』を改めて振り返りたいと思います。まず霜月と宜野座にスポットを当てた大きな理由は何でしたか?

塩谷 最終的に「罪と罰」というサブタイトルでも表現したことではありますが、シビュラシステムという絶対的存在が支配する世界で、何をもってして「罪」なのか?「罰」なのか? を描きたかったんですね。それは誰にかかっているのかと。

また、劇中の時間軸としても、二期の物語以降、ちょうど今あの二人を描くべきタイミングだなと思ったんです。霜月も宜野座も、過去、自分の周りに起きた事件や親子関係から、潜在犯に対して拒否する壁を作っていた。霜月のほうは、それがちょっと継続し続けていて、宜野座はある程度、彼自身が成長する過程で、自分なりの解釈を持ち、執行官としての今の立ち位置にいる。

宜野座からすると、ある意味、霜月は昔の自分を見ているような存在なんですね。だからこそ、チームとしてだけではなく彼女を支えてあげたいと思う。同時に霜月も彼女なりに成長し、潜在犯に対して言葉にはしなくても、見えてきた何かがあると、僕は霜月の内面に植え付けてきました。そこは2015年の劇場版でも描いてはいたんですが……あまりにも出番が少なかった(苦笑)。だから『SS』で、ちゃんと行動や言葉として表現したかったですね。

『Case.1 罪と罰』より

宜野座については、何を一番表現したかったですか?

塩谷 宜野座は正直、今までちょっと損をしてきた役回りなんですよね。一期は常守朱、狡噛慎也と槙島聖護を取り巻く話。二期は朱の話。劇場版は狡噛と朱の話。どの物語でも宜野座は常に主役の近くにいるので、彼と父親・征陸との関係性や、監視官から執行官に落ちて成長していく過程も、皆さんは感じられてきたと思うんです。でも、しっかり宜野座に軸を置いた話というのはなかった。

また、宜野座と狡噛の関係性に、彼視点でスポットを当てたかったです。劇中で、宜野座が子どもと話すシーンがありますが、本人がいないからこそ例え話として内面を吐露できることがある。それを踏まえた上で、今回は宜野座のバトルシーンを大きくフィーチャーしました。なぜ宜野座を戦わせたかというと、それは一係から狡噛がいなくなったからなんです。宜野座は、自分がそこを補うポジションなんだと思っている。だから、『Case.1 罪と罰』で何度も倒れたり、傷つきながらも立ち上がり、戦っているんです。そしてピンチの時に、狡噛の存在を思い出す。そういう彼の中の内面を描きたかったんです。

その宜野座のアクションシーンは、じつに見ごたえがありました。宜野座と松来ロジオン(CV:小山力也)との死闘はもちろん、豪雪地帯でのアクションには見惚れてしまいました。

塩谷 もともとアクションを描くのが好きだということもあるんですが、今作ならではの猛吹雪のシチュエーションだからこそできるアクションを想定しました。映画らしく、画面の縦横をフルに使って、ヘリが落ちたり、ぶつかったりといったメカアクションもそうですね。『Case.2 First Guardian』も、ミリタリーアクションには力を入れさせてもらっています。今までTVシリーズでは、時間的な制約もあってできなかったので。

宜野座自身のアクションは格闘がメインでしたが、ひとつひとつの技にすごくリアリティがありました。

塩谷 宜野座たちの格闘アクションは、実際の格闘家の方、その技能を持った方にアクターとして来ていただき、アニメーターの目の前で実際に再現してもらい、複数台のカメラを使って360度どこからも死角がないようにビデオに録画し、手描きアニメーションの参考にしました。通常は脚本ができて、そこから絵コンテを起こしてカット割りをするのですが、今回は絵コンテ作業の前に格闘の実写撮影を行ったので、その段階で既にカット割りや内容を整理して作っています。

『Case.1 罪と罰』より

だからリアルなんですね。

塩谷 今作に関しては勢いだけのアクションにしたくなかったのが最大の理由です。アニメーションの見応えのあるアクションに、ちゃんと説得力と重さを描く事が大事だと思っています。剣劇の殺陣(たて)とプロ同士の殺し合いは違うじゃないですか。剣を重ねるだけのアクションは、見せる殺陣にしかならない。今作に登場する彼らは刑事や軍人等、その道のプロです。そこを出来るだけ表現しないとただの嘘になってしまいます。

地に足のついた人間ドラマと共にあるアクションには、キャラクターの心情や想いがこもった「緊迫感」が存在します。真に緊迫したシーンを置きたいなら、やはり格闘のプロが醸し出すものを知っておきたいんです。ドラマ上のシチュエーションで実際どういう技を使うか? かなり難しい注文をつけさせていただきましたが、それをアクターの皆さんにアドバイスをいただきつつ、素晴らしいアクションの構成を作っていただきました。このシーンの最後は「二人が顔を重ね、お互い見つめつつ、首締めで決めて欲しい」という無茶な要望をしたりして……(苦笑)。

正直、予算的にも贅沢してしまったんですけど(笑)、そうすることでアクションに嘘がなくなる。もちろん、アニメーションとしては、そこに見映えやケレン味を加えての嘘はつくんですが、ゼロからの嘘ではない。格闘ファンの方が観ても納得のいくアクションシーンになったのではないかと思います。また、そのリアルなアクションを表現できるアニメーターが参加してくださっていたから、作ることができました。アクターの皆さん、アニメーターの皆さんには感謝しかありません。

ちなみに、『PSYCHO-PASS サイコパス』のアクションといえば、狡噛慎也も相当の使い手です。『Case.3 恩讐の彼方に__』も、格闘アクションはフィーチャーされますか?

塩谷 はい、もちろんです。狡噛編(『Case.3 恩讐の彼方に__』)も、同じようにアクションリファレンス撮影をしました。狡噛編の冒頭とラストアクションは、リファレンス映像を編集して、それを元に絵コンテにしています。そうする事でより編集した撮影ムービーを、担当アニメーターがその映像を細かく参考にできるように作りました。

演出さんや各セクションの方に、カロリーの高いアクションシーンの作業内容も先に想定してもらえましたし、各カットのテンポやカメラの画角などもイメージしやすくなったので効率は良かったと思います。ただしお金はかかるんですが(笑)……でも結果的にゴールがスタッフと共有できるので、迷う事がなくなり作業効率は上がると思いました。

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