
「死にたいけど、殺されるのはイヤ。」
集団安楽死を求めて集まった見知らぬ十二人の未成年たち。しかしそこには、十三人目の先客がいた……。『天地明察』などの作家・冲方丁の直木賞候補にもなった原作を、「トリック」シリーズなどの堤幸彦監督が映画化した密室サスペンス・エンターテインメント『十二人の死にたい子どもたち』がついに本日公開。
エンタメステーションでは、本作に出演する6名のキャストを取材。今回は、事件のキーパーソンとなる7番アンリ役の杉咲 花と4番リョウコ(秋川莉胡)役の橋本環奈に、互いの印象や現場での様子、また作品に絡めて、「何かあっても人が生きていける理由」という難しいテーマまで語ってもらった。
取材・文 / 望月ふみ 撮影 / 冨田 望
全く想像がつかなかった映像化。完成したのは、今までなかった作品。

原作や脚本を読んだときの印象と、自分が演じた役柄に感じたことを教えてください。
杉咲 正直、どんな風に映像として出来上がるのかが全く想像がつきませんでした。十二人が最初から最後まで限られた空間で出続けながら、ずっと誰かが喋っている。私はこういうのを今まで観たことがないし、読んでいくうちにどんどん話に引き込まれていきました。ただ、最初は難しくて。原作を読んでいたので、私自身は脚本も理解はできるんですけど、難しい謎解きものでもあるので、映画で初めて観る方々に飽きられちゃうと嫌だな、そうならないためにはどうすればいいだろうとは考えました。
杉咲さんは7番のアンリを演じました。
杉咲 純粋の塊のような人だと感じました。純粋でまっすぐな思いが、傍から見ると屈折して映ってしまうのですが、すごく興味深い人物だと思いました。だからといって共感できるわけではないのですが、気持ちは理解できました。観ている方々には取っ付きにくいトゲトゲした、只者じゃない感じのキャラクターだと思ってもらうようなビジュアルにもなっているし、背負っている過去も軽いものではないので、そこをどれだけ自分の中に落とし込んで、最後のシンジロウ(新田真剣佑)と対峙するシーンにまで持っていけるか、挑戦だと思いました。
橋本さんはこの作品をやると決まっていかがでしたか。
橋本 私も、もともと原作を読んでいたのでこの複雑なプロットを映像化できるのかな? とは思いました。これにあった病院を探すのは大変だろうし(笑)。すごく綿密に計算されたストーリーなので、映像化するにあたって、それをいかに観客に分かりやすく伝えられるかという面もあれば、謎を読み解いてほしいという気持ちもある。どういう風に作られていくんだろうと楽しみでした。あとやっぱり、これだけのキャスト、しかも同世代の人たちとのお芝居ですから。学園ものとかじゃなくて、ひとつの空間でみんなのエネルギーで新たなものが生まれる感じは、こういう映画じゃないとなかなか出せない。今までなかった作品になるだろうと思いましたし、出来上がった今でも思います。

橋本さんは4番のリョウコ役です。
橋本 最初、本編の中でも帽子とマスクで顔を隠してるんです。ポスターを見ても、ちょっとひとり違っているし。リョウコは秋川莉胡という芸名で活動している女優ですが、自分と共通する部分はあんまりなくて。
考え方とか?
橋本 はい。リョウコは秋川莉胡が大人に利用されて、大人に作られた存在だと思っていて、自分とは違う人間で、それを消し去りたいという思いが強いですが、私は大人に利用されている感じもない(笑)。でも女優というお仕事は特殊だと思うので、秋川莉胡としてのリョウコと、普通でいるリョウコとの葛藤の違いというのは、繊細に演じたいと思いました。
公開前の宣伝期間で、4番のリョウコは最後まで橋本さんが演じるということが隠されていましたね。
橋本 あれは本当に止めてほしかったです(笑)。なんだかラスボスみたいな感じで(苦笑)。ただ、SNSとかでもすごく盛り上がっていただいたので、それは嬉しかったです。
その時にしか出せない空気感。十二人のエネルギーと緊張感漂う40分の超長回し1カット

同世代の役者さんたちだけで、相当な長回しをしたと。なかなかない現場だったと思いますが、実際に体験して、女優としてついた体力、筋肉といったものはありました?
橋本 確かに特殊ではありましたね。
杉咲 忍耐力はついたかなと思います(苦笑)。本当に40分回し続けていたので。
橋本 でもそんなにやってたんだと思いました。
杉咲 確かに。

そこまで長いとは感じていなかった?
橋本 いや、めちゃくちゃ長かったですよ(苦笑)。でも数字にしてみると改めてすごい。
杉咲 ずっと回り続けてはいるんだけど、セリフごとに白味(カメラ移動の時間)があったりするんです。
橋本 あれ、超大変だった。
杉咲 1番サトシですって自己紹介しながら、自分の番にたどり着くまでに何度も白味が入って。緊張感を保ちつつ、もどかしさもありつつ。
橋本 分かる!
杉咲 ただ、何回戦もかけて同じことを繰り返すより、1回勝負みたいな感じでやるほうが、自分には向いているので、心地いい時間だったかなとは、今は思います。
橋本 すごかったですよ。思い出そうとしてもあまり思い出せないくらい(苦笑)。出来上がりを観て思ったのは、同じ空間でずっと時間が流れているのに、長く感じないし、全然飽きないんですよね。乗り物的なアグレッシブルさがあるというか。観ている自分たちも一緒の乗り物に乗っている感じ。それから、撮っている間は、目に見えないエネルギー感をビシバシと感じていました。1回で長時間かけて撮ったことは大変でしたけど、そのときにしか出せない空気感を取りこぼしていないと思います。

ビシバシ来ていたというのは、互いに食われないぞみたいな?
橋本 そうではなく、相乗効果ですね。戦うとかではなく。もともとキャラクター自身の個性が強いものを、演じるひとりひとりが色んなアプローチで演じていることに対して、学ぶことが大きかったです。
そのビシバシ光線を自分に吸収していった感じですか?
橋本 お芝居を見ているという受け身側でいると、付いていけなくなる感じはあったかなと思います。
杉咲 そうだね。