「『仮面ライダー』は見とけ」といった父との恐怖感と緊張感
もうちょっと後ですよね。
三上 『仮面ライダー』が小学校1年生のときです(注6)。ウチの親父は厳しくてテレビなんか見せてくれなかったんですけど、そのときは2階にいる僕を呼んで「これ見とけ」って言ってきたんですよ。それが『仮面ライダー』の第1話ですよ。
注6:藤岡弘、が本郷猛を演じた初代『仮面ライダー』は1971年に放映が開始された。
なんで『仮面ライダー』は大丈夫だったんですかね。
三上 分かんないです。親父が新しいもの好きだったからかもしれませんね。普段はテレビを見ていたら殴られましたから。幼稚園の頃からずっとそうです。だから、『仮面ライダー』を見とけって言われたときは「なんで?」ってなりました。
見られてどう思われましたか。やっぱり面白かったですか?
三上 いや、まだ小学1年生でしたから、内容なんか全然分かってないです。それに、親父と一緒にテレビを見る恐怖感、緊張感がただただすごくて。
おじいちゃんはハダカのまま線路の中まで親父を追っかけた(笑)
そんなにお父様は厳しかったのですか。
三上 そうです。ウチはゴハンも親父とは別だったんですよ。親父は稼ぎ頭だから一番いいモノを食って、僕たちはすごく庶民的な料理。その頃の僕らのごちそうって前の日の親父の残りモンでしたからね。
厳しいご家庭だったんですね。お父様は何かご商売をされていたんですか?
三上 サラ金と不動産をやっていましたね。
ウチの親父が言うにはおじいちゃんの癇癪がすごかったらしいです。今の言葉で言うと「キレる」ですね。おじいちゃんが風呂に入っているときにブチギレちゃったことがあったそうで、親父は捕まったらボコボコにされると思って逃げたらしいんですよ。で、歩いて10分足らずのところに岩国駅があるんですけど、そこまで逃げて駅の線路の中に入り込んだそうです。ここまで逃げたら、もう追ってこないだろうって。ところが、おじいちゃんはハダカのまま線路の中まで親父を追っかけてきたらしくて(笑)。
はぁ~~すごい話ですねえ~。でも、お父様も厳しかったわけですよね。

三上 そうです。親父は車で通勤していたんですけど、帰ってきたら僕らが車庫入れの誘導をしなきゃいけなくて、遅れたら殴られるんです。クラクションが鳴らされたら、もうキレてるっていう。「ビビビーッ」ってきたら「ああ、今日は殴られる」みたいな。
もうその段階で、ですか。
三上 親父の車の吹かし方があるんですよ。ウチは男兄弟3人なんですけどリビングで待機していて、その音が聞こえてきたら「あ、帰ってきた」ってダッシュで行くと。で、オーライ、オーライってやるわけです。
厳しいですねえ。
三上 日産のグロリアってあったじゃないですか。あの車に乗り換えたとき、親父が車庫入れのとき、ミラーをカベにちょっとこすっちゃったことがあったんですよ。「もうちょっと右、右」って言ってるのに、聞こえなかったのか、そのままバックしちゃって。その瞬間、「殺される!」と思って、うしろの勝手口から飛び出して、塀を乗り換えて逃げました。捕まったら半殺しですから、ハハハハ。
半殺しですか……(苦笑)。
三上 兄貴たちとよく言っていましたよ。「これ見つかったら半殺しにされる」って。ホントに殺されることはないですけど、かなり殴られたり蹴られたりするんでね。ウチってちょっと構造が変わっていて、3階なんだけど2.5階建てみたいになっているんです。駐車場の部分が1階で、その上が3階になるんですよね。で、ほかの部分が2階になっているっていう。
インターホンの押し方で機嫌がちょっと分かるんですよ
2階と3階が段差になっているみたいな。
三上 そう。それで、3階が寝室になっていて、いつも親父はそこに居座っているんですけど、その寝室にインターホンのブザーを設置していて、「ビーッ」って押して2階にいる僕らを呼ぶんです。で、押し方でもう機嫌がちょっと分かるんですよ。
押し方で!
三上 「ブッ、ブーッ!」とかいう感じだったら、「あ、もうちょっとイラついてるわ」みたいな。で、すぐ行かないと、また殴られるんで階段ダッシュです。一番イヤだったのは歯磨きをしている最中に呼ばれたときですね。いまだになんで怒られたか分からないんですけど、クチュクチュ、ペッってしていたら絶対殴られると思って、口の中に歯磨き粉が残ったままダッシュで行ったんです。そうしたら、いきなり「歯ァ、食いしばれ!」って言われてパーン、パーンですよ。
ええ~~!?
三上 しかも、1回呼ばれると親父の「行ってよし」が出るまで、そこを動けないんですよ。そのときも親父の側で1時間ぐらい、ずうっと立ちっぱなしです。それで、やっと「行ってよし」が出たんですけど、口の中は歯磨き粉でネバネバするし、ペッて吐いたら血も混じっているしで、ほんとタイミング悪かったです。あれは強烈に覚えていますね。
…………(絶句)。
三上 で、僕は中学から剣道を始めまして、家に素振り用の竹刀を置いていたんですよ。その頃になると親父もちょっと年が行って、殴ったりすると手が痛いみたいなことをたまに言うようになりまして、その素振り用の竹刀で僕を殴るようになったんです。自分がシバかれる用の竹刀を自分で置いとくって、こんなバカなことはないじゃないですか。だから、椅子に乗って一番上の棚に隠したんですね。そこで、また親父がバーッて僕の部屋に入って来たんですけど、いつも立て掛けている竹刀がないことに気づいて「竹刀出せ」みたいな。「ええ~?」ってなりましたけど、椅子を持ってきて棚から取り出し、「はい」って竹刀を渡して、結局それでバーンって。
木刀が当る瞬間にカラダをよじるんですよ…痛そうなフリをしながらね
……何かいろいろ話が強烈すぎて……。
三上 でも、殴られること自体が日常でしたからね。2、3日に1回ぐらいのペースだったんで、そんなに大したことだとは思っていなかったです。ただ、木刀のときはさすがに緊張が走りましたね。木刀って重たいんで筋力を鍛えようと思って、家でもアレで練習していた時期があったんですよ。
木刀で殴られたらヘタしたら骨とか折れますよね。
三上 だから背中で受けるんですよ。親父が木刀を振りかぶったとき、こうくるなっていうのを予測して、当たる瞬間にカラダをよじるんですよ。「アアーッ!」とか言って痛そうなフリをしながらね。

そうすると、ちょっとは痛みが軽くなるんですか?
三上 なります、なります。でも、右と左のどっちから殴りかかってくるか、ムチャクチャ分かりにくいんです。受け方を間違えるとダメージが全然違うんで、どっちからくるかがすごい大事なんです。