Interview

T字路s 類い稀なる歌声で人生の悲喜交々を描く新作で見せた日常への愛おしい眼差し。

T字路s 類い稀なる歌声で人生の悲喜交々を描く新作で見せた日常への愛おしい眼差し。

男性、女性という性を限定しない歌をつくりたくなるのは性格と声のせい。

伊東さんが男女に関係なく、人が普遍的に抱く心情や葛藤を歌にするようになったきっかけはあったんですか?

伊東 私、ラブソングをつくるのが苦手なので、男性、女性という性を限定しない歌をつくりたくなるんだと思うんですよね。二十歳くらいから自分でオリジナルをつくってきましたが、いわゆるラブソングは一度もつくったことがなくて、声が強いからメッセージソングも違う。聴いてきた音楽の影響というより自分の性格が大きいのかな?

伊東さんのハスキーで気迫に満ちた独特の声とも関係しているのかと?

伊東 ああ、私の声のせいもあるかもしれないです。ちょっと距離を置いたような言葉を選んできたのは、確かに自分の声に合わせていたのかもしれない。

自分の個性や声にフィットする音楽性や表現を模索してきた?

伊東 そうですね。時間をかけて試行錯誤を繰り返しながら、それがだんだん合致してきたんでしょうね。

篠田 妙ちゃんはそれこそ本気のロックを極めてもおかしくない声なんだけど、そっちに行かなかったことが俺は良かったと思ってる。でないと、T字路sはなかったと思います。

UKレゲエの重鎮、トランぺット奏者のエディ“タンタン”ソーントンと共演したロックステディ・ナンバー、その名も「Eddie」は?

篠田 タンタンとは僕のバンド、COOL WISE MANでは何度も共演したことがあったので、昨年の1月にキティー・デイジー&ルイスで来日した時に時間をもらってレコーディングしたんです。

伊東 前日は私の手料理をたらふく食べていただいて(笑)。歌詞はタンタンのことを思い浮かべて書きました。

〈風の匂いのシャツ すり減った靴〉と、御年82歳のトランペッターの人生に思いを馳せて。

伊東 もう80代なのに、今も世界中を旅して演奏を続けているんですよ。

篠田 とにかくタンタンの人柄が大好きで、動機は「一緒に録りたい!」ただそれだけでしたね。彼はバッキングに徹することもできるんだけど、今回、好きに吹いてもらったら、彼の人間性や人生が溢れ出るものになって。

伊東 タンタンを見ていると、いくつになっても音楽は続けてゆけると感じる。憧れの存在ですね。

「泪橋」をつくった10年前は周りは敵だらけみたいな気がしていました。

T字路sのライブには欠かせない、今や代表曲と言ってもいい「泪橋」を、今回、新たに録音したのは?

伊東 「泪橋」はT字路sの前のバンドのときにつくった10年くらい前の曲なんですけど、今だに歌うたびに気持ちが入っちゃう曲なんです。それを今回は一発録りで、ホントにライブで目の前にお客さんがいるつもりでレコーディングしたかった。

「泪橋」をつくった10年前は違いましたか?

伊東 今より尖っていたというか、周りは敵だらけみたいな気がしていました(笑)。随分肩肘張っていましたね。

歌詞に出て来る〈目指す地はサリバン、ベセル〉は、1969年にアメリカで開催されたウッドストック・フェスティバルのことですよね?

伊東 そうです。曲をつくった頃は70年代ロックが大好きで、恰好もベルボトムに裸足で、レスポール持ってライブしていたんですよ(笑)。

篠田 歌も巻き舌で歌っていたよね。

伊東 そう。歌い方も違っていた。でも、洋楽に憧れていても、当時から日本語の歌詞しか書けなかったんです。

「泪橋」といえば、漫画「あしたのジョー」を思い出す人も。

伊東 私も「あしたのジョー」で知って、調べてみたら江戸時代に処刑場に向かう罪人がこの世との別れの場だったと。

サビの〈風は吹くだろう 心は流れをさまようだろう どこに居ても道はあるだろう〉は、いつ聴いても心を鷲掴みされますね。

篠田 昔はいきがっていたこともあったけど、今は妙ちゃんの歌はさらにドスが効いて迫力が増して、演奏も冷静にできないんですよ。

伊東 そう。いつまでたっても気持ちが入りすぎてサラッとできない。

篠田 レコーディングだから落ち着いて録ろうかとも思ったんだけど、ライブ以上に力を込めて、フラフラになりながら録りました。大きく言うと、「泪橋」は、T字路sのテーマそのものでもある曲ですね。

酒場ライブで見て来た人間模様から生まれた「レモンサワー」

「遠くはなれて」は一転して、歌い方も含めて可愛い気のあるフォーク調の歌が新鮮です。

伊東 これは唯一メロと歌詞が一緒に出てきた曲で、1時間くらいで出来たんです。だから、自分でつくったというより頂きものという感じがします。

篠田 妙ちゃんの歌は力強さが魅力ではあるけど、こういう歌詞と曲が自然と生まれてきたのはT字路sの幅を拡げてくれましたね。

伊東 遠く離れて暮らす友が幸せでいてくれたらいいな、またいつか会えるといいな、と。

素の伊東さんが見えてくるような?

伊東 そういえば、エンジニアの内田(直之)さんも、衣装を着てヒールを履いている私じゃなくて、「居酒屋で飲んでいるときに近い」って言っていました。

カリプソ風の「レモンサワー」はダメ可愛い酔っ払いの歌。これは酒場でライブを重ね、様々な人間模様を見て来たT字路sならではの曲ですね。

伊東 まさに。最初は「焼酎」というタイトルだったんですけど、私が甲類が好きだというのと(笑)、レモンサワーをあの娘に例えた方がどっちにも捉えることができるなと思って。

篠田 曲調も最初はブルースっぽい感じだったんですけど、この歌詞には明るさと軽さがないと生きないなと思って。

日本全国の飲食店で働く女子必聴の歌ですよ。

篠田 そうですね(笑)。酒場ライブは最近、ご無沙汰しちゃってるんですが。

伊東 そこで叩き上げて来た旅芸人という意識もあるので、またやりたいとは思っております。 

ささやかな暮らしの中の小さい幸福を歌った「さんぽみち」

「さんぽみち」は、新境地ですね。散歩に出かけて、〈パチンコ打とうか〉〈ラーメンでも食べようか〉と逡巡する庶民のささやかな暮らしの中の小さい幸福感がたまらない。

伊東 この曲は最後の最後に煮詰まって、「もう10曲でいくか」と諦めかけていたとき、散歩に行って出来た歌詞なんです。下高井戸の商店街や永福町にある大宮八幡に散歩に出かけて、歌に出て来る釣り堀も和田堀公園の中にあるんです。

篠田 あの釣り堀で飲むレモンサワーが最高なんですよ(笑)。日常の風景にパチンコや煮物や釣り堀が出て来るところがうちらなんでしょうね(笑)

伊東 パチンコは千円のお金にも事欠いていた頃に止めましたけど(笑)、「続・T字路sのテーマ」みたいな意識もあってパチンコは入れたんです。

憂歌団と通じるものもありますね。

篠田 ああ。うちら、勝手に大阪出身だと思われている節もありますからね。大阪では西成でもライブをしましたが、やはりすごく盛り上がりました。

T字路sの音楽は、J-ポップ以降、途絶えがちだった大人が聴いて沁みる日本の大衆音楽の血が受け継がれているように思えます。

伊東 それはずっと目指しているところでもあります。例えば阿久悠さんのつくる詞は、聴き終えると3分間の歌でも映画を1本観たような気持ちになるじゃないですか。映像や情景が浮かぶような世界は大事にしていきたい。

篠田 それを今のリアルさで音楽にしていきたいんです。うちらがブルースを好きなのはヒップな音楽のスタイルだからで、懐古主義ではないんです。

伊東 そうだね。今日の歌を歌いたいんです。今の人の生活に響くような歌を。

その他のT字路sの作品はこちらへ。

ライブ情報

T字路s「PIT VIPER BLUES Release Tour」

3月28日(木) 大阪 梅田CLUB QUATTRO
3月29日(金) 愛知 名古屋CLUB QUATTRO
4月4日(木)宮城 仙台MACANA
4月5日(金)北海道 札幌BESSIE HALL
4月11日(木)福岡 the voodoo lounge
4月12日(金)広島 広島CLUB QUATTRO
4月26日(金)東京 恵比寿LIQUIDROOM

T字路s

2010年5月に伊東妙子(Gt,Vo)、 篠田智仁(Ba / COOL WISE MAN)によリ結成。2016年に映画『下衆の愛』の主題歌「はきだめの愛」を提供、映画と共に話題を集める。2017年には初のオリジナル・フルアルバム『T字路s』をリリース。 同年開催されたフジロックフェスティバルなど数々のイベントに出演。NHK Eテレ「シャキーン!」へ楽曲、演奏、歌唱の提供や、2018年の夏にそごう・西武で開催された「お買い物ブギWEEKS」のスペシャルサポーターを務め、笠置シヅ子の「買物ブギー」の歌詞をアレンジしてカバーした「買い物ブギ ~西武・そごう2018ver.~」が話題に。ブルース/フォーク/ロックンロールを咀嚼した音楽性と人生の悲喜交交を人間臭く表現した楽曲が幅広い支持を集めている。

オフシャルサイト
http://tjiros.net/

フォトギャラリー
< 1 2