大人気タイトル『ソードアート・オンライン』の最新TVシリーズ『アリシゼーション』が話題を集めている。本作の劇伴を担当するのは、数々の有名作品を手がけてきた音楽作家・梶浦由記。『SAO』シリーズの作品世界を彩り続けてきた梶浦サウンドは、どのような背景から生み出されているのか? 前シリーズまでとは趣を異にしたハードなファンタジー世界を構築する、音作りのこだわりについて話を聞いた。
取材 / 冨田明宏 文 / 寺田龍太
アスナの立ち位置で見ているようなハラハラ感
全4クールという長期間放映される作品ですが、現在音楽はどのあたりまで制作されていますか?
梶浦由記 今年(2018年)の春先に前半部分を録ってしまいまして、今作っているのは2クール目ですね。4クールといっても、始まっちゃうと早いですけど、毎週楽しみに視聴しています。原作で読む時とアニメで見る時の印象って、やっぱりこんなに変わるんだなと。今回の《アリシゼーション》編はアスナの立ち位置で見るような感覚というか、状況が分からないキリト君を私たちが外から見ている。アニメになると思った以上にハラハラして面白いですね。
「アリシゼーション」は原作の巻数も多く、どこか閉塞的な空気があるストーリーです。
梶浦 すごくハードな作品ですよね。今まではひょうきんな曲や可愛らしい曲も多かったのですが、今回は音楽もハードファンタジー寄りになっていきました。いつ死ぬか分からない状況でも、以前のシリーズならそれを和らげる要素がありましたが、今回は救いや安心感がないような重い状況がずっと続いて、第1話からジェットコースターのように展開がものすごく早い。見る側としてもどんどんのめりこんでいきますよね。今までの『SAO』とはちょっと違うな、と認識し直しながら作っています。
梶浦さんは一貫して『SAO』シリーズの音楽を手がけ続けられてきています。
梶浦 基本的に『SAO』シリーズの劇伴って、今までの楽曲も使い続けることが前提なので、今までに十分曲数を作ったようなタイプの曲の発注は来ないんですよね。今回は外側の現実世界の曲はほとんど作らず、完全にアリシゼーションの世界の曲だけを作っています。
劇伴を制作するにあたって、制作サイドとの打ち合わせは?
梶浦 もちろんさせていただきましたが、「原作読んでいただきましたよね。じゃあそれでよろしく」みたいな感じがありまして(笑)。こういうふうに、という相談はそんなに受けなかった気がします。
今までの信頼関係あってこそというか。
梶浦 長く続いているシリーズの音楽を担当させていただくのは本当に光栄で、重く受け止めてやらなきゃというところがありますね。
ユージオの寂しさを表現したハープの音色
弦やコーラスが印象的な音作りですが、アレンジで何か意識されたところはありますか?
梶浦 ユージオが非常にキーになる人物なので、まずはユージオの音楽をどうしようかなと考えました。強いけど繊細なところもあって、人間味のあるキャラクターですよね。キリト君よりも私たちに近い立ち位置で、彼に思い入れをして見ていくようなところがある。ある意味ではユージオがヒロインのような立ち位置で、ハープを使って少し悲しい綺麗な音楽をあてています。ハープって実はすごく寂しい音ですよね。キラキラしているけど金属的じゃなくて、あくまで弾くほうのキラキラした感じ。
メロディにハープを使うことで彼の存在感を立たせている。
梶浦 彼のあの穏やかさは、何かを達観した諦めに近いものがありますよね。彼にとってはあれが本当の人生だと考えると、実はとてもつらい話から始まっている。そこから成長して変わっていくところはありますが、まずはその寂しさを表現してあげたいなと。ワトソンがいてこそホームズが魅力的に見えるように、ユージオがいてこそキリトの格好良さも際立つというか、物語を魅力的にするキャラクターですね。
また、迷った時にはユージオの視点に立って考えてみることで、音楽を作りやすくなったところもあります。今までの『SAO』のキャラクターはゲームユーザーですが、ユージオにとってはゲームじゃない。だからユージオ視点で書くと怖さを出しやすいんですよね。
組曲のように壮大な展開を見せる楽曲たち
他に今回のシリーズで特徴的だと思われたポイントは?
梶浦 すごく面白いと思ったのは、ゲームの中の時間の流れが現実とは違うという設定ですね。これめちゃくちゃやりたい、と思って(笑)。2年間遊んで帰ってきたら1日しか経ってないなんて最高ですよね。どれだけ曲作れるんだろうと。締切に追われている人間にとっては福音のような世界ですね。
ご自身ではゲームをプレイされる時間はありますか?
梶浦 以前は結構やっていましたが、最近はログインもできなくなっちゃって、すごく悔しい。老後はオンラインゲームに全てを賭けようと思っていて、その頃にはフルダイブできるようなオンラインゲームができているといいなと思います。
ゲーム好きの梶浦さんとしては『SAO』の世界観にも憧れがある。
梶浦 そうですね。ゲームの中の世界がユーザーにとっては大切なものであるという感覚はよくわかります。ちゃんと人間関係があるひとつの独立した世界で、その楽しさやちょっとした虚しさにはすごく共感できます。
楽曲制作にあたっては、メニュー表にあわせてミュージシャンの方と作っていくスタイルは、今回も変わりありませんか?
梶浦 そうですね。今回は長い曲が多くて、ある人物の楽曲を作るとなると「出会い、葛藤、戦い、勝利……」みたいな感じで、一曲ですべての展開を網羅するような曲が結構多い。ひとりの敵と何度も戦っていくというよりも、色んな敵、色んな人物が出てくる作品で、その人物の物語がひとつのシーンで完結する場合も多いので、その意味ではちょっとした組曲になるような曲が増えましたね。
はっきりとここで使いたい、という明確なイメージを持った楽曲が多い。
梶浦 そうなんです。私もそのつもりで結構偏らせて書くけれど、テレビですからその通りに使われるとも限らなかったりもして。思いがけないシーンに使われていたりすると、こう来たかと思って、それはそれでまた面白かったりもしますね。
ゲームミュージックの感覚では作れない
楽器の編成はいかがでしたか?
梶浦 弦の曲が思った以上に多くなりました。感情がたかぶるシーンが多いので、もうちょっとテンションを上げないと足りないな、という曲が出てきたんです。そこで人間味が出る楽器を使いたくなってしまい、木管なども含めて、どんどん生楽器が増えていきました。
ビートが強いデジタルの打ち込みで格好良く敵を倒すような曲は、思った以上にありませんでしたね。ゲームミュージックの感覚で作っちゃうと、全然気持ちが追いつかない。その意味でも、この作品はゲームじゃないんだなと作りながら思いました。
ギターの音も印象的に使われています。
梶浦 弦の重い曲にギターのバッキングを入れると、弦とリズムの間が埋まって、どんと腰が据わるんですよ。やりすぎると重くなりすぎるけど、今回は徹底的にそれをやろうと思っていて。シンセで作った曲にもギターをひと差し入れるだけで、良い意味でも悪い意味でもすごく人間味が出るんです。人間の弾く楽器って雄弁すぎるので、入れ過ぎちゃうのも怖いけど、匂い立つような存在感が出るのはありがたいですね。
全4クールでも密度の濃い物語を描ききるのは大変そうですが、原作ファン的にはこのままじっくりと描いていってほしいところですよね。
梶浦 ひたすらシリアス一本で、どうなるの、という感覚も強いけど、これから更にすごい展開がどんどん生まれてくるんだな、というワクワク感もすごいですよね。全4クール用意することで、導入から心理的にも丁寧に描かれていて、あらためて入り込めて面白いなと。先に脚本を読めるのもスタッフとして関わる時のお得なポイントですが、シナリオで読んだ時と実際に映像になった時とでは、また印象が変わるんです。本当に一ファンとして思い入れが違う感じで、自分でも今後がすごく楽しみですね。
TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』
放送中
TOKYO MX 毎週土曜24:00~
とちぎテレビ 毎週土曜24:00~
群馬テレビ 毎週土曜24:00~
BS11 毎週土曜24:00~
MBS 毎週土曜27:08~
テレビ愛知 毎週月曜26:05~
【配信情報】
AbemaTV:毎週土曜24:00~(地上波同時配信)
*放送開始日・放送日時は編成の都合等により変更となる場合がございます。 予めご了承ください。
【STAFF】
原作:川原礫(「電撃文庫」刊)
原作イラスト・キャラクターデザイン原案:abec
監督:小野学
キャラクターデザイン:足立慎吾/鈴木 豪/西口智也
助監督:佐久間貴史
総作画監督:鈴木豪/西口智也
プロップデザイン:早川麻美/伊藤公規
モンスターデザイン:河野敏弥
アクション作画監督:菅野芳弘/竹内哲也
美術監督:小川友佳子/渡辺佳人
美術設定:森岡賢一/谷内優穂
色彩設計:中野尚美
撮影監督:脇顯太朗/林 賢太
モーショングラフィックス:大城丈宗
CG監督:雲藤隆太
編集:近藤勇二
音響監督:岩浪美和
効果:小山恭正
音響制作:ソニルード
音楽:梶浦由記
プロデュース:EGG FIRM/ストレートエッジ
制作:A-1 Pictures
製作:SAO-A Project
【CAST】
キリト(桐ヶ谷和人):松岡禎丞
アスナ(結城明日奈):戸松遥
アリス:茅野愛衣
ユージオ:島﨑信長
【主題歌】
OPテーマ:LiSA「ADAMAS」
EDテーマ:藍井エイル「アイリス」
©2017 川原礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
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