Interview

瑛太 『殿、利息でござる!』に見る役者としての存在感

瑛太 『殿、利息でござる!』に見る役者としての存在感

『殿、利息でござる!』ムービーレビュー

文 / 村崎文香

©2016「殿、利息でござる!」製作委員会

©2016「殿、利息でござる!」製作委員会

ひとりで見る夢はただの夢
みんなで見る夢は現実になる

そんな、ジョン・レノンの言葉を思い出してしまう「現実」の物語。
この作品を観て、中村義洋という監督の目指すものがはっきり見えた気がした。

1970年生まれ、「ぴあフィルムフェスティバル」出身。共に脚本を手がけた鈴木謙一とは学生時代からの映画仲間。
多くの学生が音楽や映画に憧れ、寝食を忘れて明け暮れた時代。高度経済成長の波の中で、個の自由と経済によらない豊かさを模索した。

出世作『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007)、そして『フィッシュストーリー』(2009)で描かれる世界の不条理とそれに抗うピュアな魂、オフビートで詩的な映像がいつまでも胸底で響くのは、時代に反発しながらもそれを享受した責任が内側から刺すからだ。

その後、『ゴールデンスランバー』(2010)、『奇跡のリンゴ』(2013)、『白ゆき姫殺人事件』(2014)、『予告犯』(2015)など話題作をコンスタントに発表し続けているが、この作品にはこれまで以上の迸る想いが全編に息づいている。

©2016「殿、利息でござる!」製作委員会

©2016「殿、利息でござる!」製作委員会

「映画も文学も、芸術は人間の生き方に響くものであってほしい。みた人の価値観を変え、世の中を少しばかり良くしてみたい。そんなことを夢想する人に映画化してほしい。あなたに会えました」
原作の磯田氏が初めて中村監督に会ったときの言葉だが、監督は完成披露の舞台挨拶でこう返している。
「これだけ伝えたいことがある原作に巡り会えて、願ってもないキャストで、つくり手の欲をフルに出してやりたいことのできた映画はそうそうない」

40代も半ばを過ぎ、時代も環境もおそろしいスピードで変わっていくなかで、どうしても伝えたいことを注ぎ込んだ映画。その「想い」は、作品同様、ひとりからひとりへと伝わり、売れっ子の俳優陣を終結させ、さらには羽生結弦さえも動かした。

贅沢なのは、これだけの役者を揃えておいて、誰ひとり突出させていないことだ。
阿部サダヲは予想するほどハジけてないし、瑛太は流れる水のよう。妻夫木にいたっては微笑んでいるだけでほとんど動きがない。竹内結子も松田龍平も草笛光子も山?努も自らの役回りを期待通りに演じ、寺脇康文、きたろう、橋本一郎、中本賢、西村雅彦らオヤジ連もいい味を醸し出しながらも調和を崩さず、若手の千葉雄大も押さえた演技で自らを場になじませる。
それもそのはず、この作品のいちばんのテーマは「つつしみ」。
まちの存続のため、続いていくいのちのために、私財を投げうち、自らを律して、さらにそのことを決して人には語らない、そんな「つつしみ」を体現した男たちの物語を、それぞれの個性派男優が必要以上に自己主張せず、アンサンブルを楽しむように演じている。

一、 けんかや言い争いは、つつしむ。
一、“この計画”について口外することを、つつしむ。
一、寄付するときに、名前を出すことを、つつしむ。
一、道を歩く際も、つつしむ。
一、飲み会の席でも上座に座らず、つつしむ・・・。

字面だけ見たら前時代的でウンザリしそうな「つつしみの掟」が、映画を観終わったあとはじんわりと水のようにしみ込んでくる。
そして、ふと気づくのだ。「つつしみ」とは、新自由主義の時代を生きる私たちにとって、実は救いであり、生き残る術でもあることに。

©2016「殿、利息でござる!」製作委員会

©2016「殿、利息でござる!」製作委員会

作品は、「お金」という自明の価値観にも揺さぶりをかける。
私たちは、人生の目的・目標はお金ではないことを知りながら、縁を切ることもできず、常にお金に縛られている。それゆえ、知らず知らずに抱いている「お金=汚いもの」という価値観。
けれど、そもそもお金自体には綺麗も汚いもない。要はそれにどんな想いを乗せるか、なのだ。
瑛太が秘密の演出を付けられたという「肝」の台詞は、監督はじめ同時代を生きる夢想家の渾身のメッセージだろう。
恥ずかしいほど真っ直ぐなメッセージだからこそ、エンターテインメントの衣でからりとくるんで食べさせる。
これこそが、映画の魔法だ。

エンディングテーマはRCサクセションの「上を向いて歩こう」。
かき鳴らすギターとしゃくり上げるヴォーカルにしびれながら、自分もまた夢想家のひとりでありたいと願う。

映画『殿、利息でござる!』

5月7日(土)宮城県先行/5月14日(土)全国ロードショー

殿、利息でござる!

金欠の仙台藩は百姓や町人へ容赦なく重税を課し、破産と夜逃げが相次いでいた。さびれ果てた小さな宿場町・吉岡宿で、町の将来を心配する十三郎(阿部サダヲ)は、知恵者の篤平治(瑛太)から宿場復興の秘策を打ち明けられる。それは、藩に大金を貸し付け利息を巻き上げるという、百姓が搾取される側から搾取する側に回る逆転の発想であった。計画が明るみに出れば打ち首確実。千両=三億円の大金を水面下で集める前代未聞の頭脳作戦が始まった。「この行いを末代まで決して人様に自慢してはならない」という“つつしみの掟”を自らに課しながら、十三郎とその弟の甚内(妻夫木聡)、そして宿場町の仲間たちは、己を捨てて、ただ町のため、人のため、私財を投げ打ち悲願に挑む!

出演:阿部サダヲ 瑛太 妻夫木聡 竹内結子
寺脇康文 きたろう 千葉雄大 橋本一郎 中本賢 西村雅彦
山本舞香 岩田華怜/堀部圭亮 斉藤歩 芦川誠 中村ゆうじ/上田耕一、濱田岳(ナレーション)
重岡大毅(ジャニーズWEST) 羽生結弦(友情出演)/松田龍平 草笛光子 山崎努
監督:中村義洋 脚本:中村義洋 鈴木謙一 音楽:安川午朗 
原作:磯田道史「無私の日本人」所収「穀田屋十三郎」(文春文庫刊)

原作:磯田道史「無私の日本人」

オフィシャルサイト http://tono-gozaru.jp/

制作・配給:松竹株式会社 企画協力:文藝春秋 
©2016「殿、利息でござる!」製作委員会

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