黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 21

Interview

インディーゲームの匠 楢村匠(ならむらたくみ)氏(下)オンラインで開発する時代

インディーゲームの匠 楢村匠(ならむらたくみ)氏(下)オンラインで開発する時代

僕が止まると全体が止まるっていうのが問題になっていたんです

そこはスムーズになったと。

楢村 そうです。掲示板でやり取りしていたときはメールでしたからね。「こういうのを作って」って言ったらメールでプログラムをコンパイルしたものが送られてきて、「ここ、ちょっと違う」って返したら、またコンパイルして返ってきてっていう。このやり取りに比べたら全然違いますよ。だから、今はだいぶやりやすくはなっています。付き合いも長いですからね。各々がこういうことができる、こういうところが苦手とかっていうのが分かってきているので、ここは全部任せても大丈夫、ここは自分でやらないと絶対思う通りにならないっていう判断ができるようになりましたね。

素朴な疑問なんですけど、NIGOROは会社組織ではないですよね。たとえば会社みたいに場所を決めて、みんなが集まってやったほうがスピードアップするといいますか。大変失礼かもしれませんが、ムダを省いてギュッとしたものができる気がするんですよ。

楢村 間違いなくそれはそうです。

では、なぜそうしないのでしょうか。

楢村 それはできなかったといいますか、各々が違うところに住んでいますからね。僕も今さら東京、大阪に住みたいとか思いませんし。あと家庭を持ったというのもあります。まだ誰も結婚していないぐらいのころは、お金が貯まったら、どこかにオフィス借りてとかっていう考えもあったんですけど、だんだんそれは現実的ではなくなってきて。でも、たまに期間を決めて、1週間だけduplexさんを奈良に泊まらせて開発させるとかっていうことはときどきやっていたこともありました。

ちなみに、duplexさんもサミエルさんも個別のお仕事を持っているんですよね。

楢村 そうですね。

でも、楢村さんは今これが専門ですよね。

楢村 そうです。『LA-MULANA』のSteam版を出すときに、僕が止まると全体が止まるっていうのが問題になっていたんです。それもあって僕は副業を一切止めたんです。でも、『LA-MULANA2』をキックスターターの資金でやっていたとき、後半資金がなくなっちゃって僕の収入がゼロの状態が続いたんですね。『LA-MULANA2』がこの先コンシューマーでリリースされて、どのぐらい売れて、あと何年開発を続けられるかっていうのもまだ分からないので、自分なりの副業ぐらいはやっておこうかなと今年ぐらいから思っています。ただ、ここまでやってきただけに、できれば何かしらゲームに関わる仕事をしたいですね。

NIGOROと並行しながら自分でも1本作ってもいいかな、なんて考えることもありますね

いやでも、今だってどっぷり関わっているじゃないですか。

楢村 だから、それをちゃんと活かした仕事をしたいなと。それまではクリエイター登録ページみたいなのを使って、ソシャゲのカードの色塗りとかもやっていたんですが、これが1枚7、8千円とかだったんですよ。時間がかかるのに、すごい安いんですよね。ここまでやって評価されて世界でも売れているのに、そんなことをしていたらよくないよなと思ったんです。だから、もっとちゃんとしたというか……たとえばSWERY(注35)さんなんかは自分たちのプロジェクトをキックスターターで進めつつ、『The MISSING』(注36)っていうのをほかのパブリッシングで作っていますよね。

注35:ホラーアドベンチャー『Red Seeds Profile』などを手がけたゲームクリエイター。現在は株式会社White Owlsの代表取締役を務める。

注36:SWERY氏が手がけるアークシステムワークスのアクションアドベンチャー。正式タイトルは『The MISSING – J.J.マクフィールドと追憶島』で2018年配信予定。

そうですね。アークさんでやられていますね。

楢村 ああいった自分が出向する形で、何かのプロジェクトに加わるっていうのをやってみたいなと思います。2Dのグラフィックをやる人がいないっていうときに、僕がドット絵を打ったりするのでもいいですし。できれば、インディーでつき合った人たちに近いような仕事が自分単体でもできればと、ちょっと思っていますね。NIGOROであると、今までは『LA-MULANA』っていう規模が大きいものだけやっていましたけど、1本作るのに3年、4年とかかかって。じゃあ引退するまであと何本作れるんだって思うとね。

それを聞きたかったんですよ。完成まで5年かかっているわけですから、このペースで楢村さんの年齢だと作れる本数が限られてくると思ってしまうんですよね。

楢村 そうですね。NIGOROだけで作っていると、ちょっとペースが遅いし、もっともっと作りたいもの……それこそ小学校のときのあの黒歴史ノートみたいなものが、まだまだあるのになあっていうのはあります。だから、今はいろいろなツールが出ているので、NIGOROと並行しながら自分でも1本作ってもいいかな、なんて考えることもありますね。どこかのプロジェクトみたいなものに参加するのも面白そうだし、NIGOROの制作ペース自体も上げられればと思いますし。やっぱり、もっと作りたいですよね。

アーティスト気質ではないんで、内から出るものをなんとしても表現したいとかいうのはないんです

そうですよね。先ほどの経済的な話に戻るんですけど、『LA-MULANA2』を作っていたときは、キックのファウンディングの部分をご自身の生活の原資とクリエイティブの資金に充てて、同時にメンバーにも配分されていたわけですよね。それはでもすごい大変だったんじゃないですか?

楢村 もう払う金はゼロっていうような状況にはなりましたね。だから、途中で規模をもう少し小さくするとか、ボスの数を減らしたり使い回したりしてもいいんじゃないかみたいな話も出たんです。でも、作っているものが『LA-MULANA』だったので、前作よりも数的な物量が減ったりしたら、リリース後の評価が変わっちゃうと思ったんですね。

それは分かります。

楢村 なので、ちょっとやっぱり引けないけど、確かにお金がないから大変だよなっていう。葛藤の1年、2年ですよね、最後の方は。

お話を聞いていると、命を削って作っているって感じがしますよね。

楢村 そうですね。削りたくないんですけど、ハハハハ。

そうですよね。

楢村 削りたいとは思わないです。アーティスト気質ではないんで、内から出るものをなんとしても表現したいとかいうのはないんです。

そうですよね。お話をうかがっていると、ご自身が経験したもの、もしくは今あるものじゃないものにチャレンジしたいっていう感じですよね。

楢村 そうですね。だから、ワン・アイディアとか、ちょっと変わったタイプのゲームを作るっていうよりも、小学校のときから憧れてきたゲームの中の世界、あれを作り込むのが好きなんですよね。

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