黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 21

Interview

インディーゲームの匠 楢村匠(ならむらたくみ)氏(中)ゲーム浸けの美大時代

インディーゲームの匠 楢村匠(ならむらたくみ)氏(中)ゲーム浸けの美大時代

漫然と普通にみんな使っているっていうところに疑問を持つようなタイプ

毎回、自分のイマジネーションにトライするわけですか。

楢村 そうです。あの頃は「絵の具の黒は絶対に使うな、使うと色みが落ちる」みたいなことがささやかれていたんですけど、「じゃあ、黒を使って塗りまーす」とか言って怒られたりとか。ここを目指すんだったら、こうするのが当たり前っていうものに従う気が起きなかったんですよね。使うなって言うんだったら、あえて使ってみるとか。たとえばマンガで錯乱した女の人のお腹をドンってやったり、首をコツンって叩いたりして気絶させるっていう表現があるじゃないですか。でも、実際にはそんなの見たことないですし。

ないですね(笑)。

楢村 エロシーンを見て鼻血を出す人とかも見たことないですけど、ずっと使われ続けているじゃないですか、表現として。そういうのを疑問に思っちゃうんです。RPGで言うと『ドラゴンクエスト』が出たあとって、みんなファンタジー風でしたよね。そういうのを見ると、なんでそうじゃなきゃいけないのかって思っちゃうんです。昔、誰かが作って素晴らしかったものを、なんか漫然と普通にみんな使っているっていうところに疑問を持つようなタイプでしたね。

つまり、既成概念の破壊といいますか、既成概念ではないものを、ご自身のイマジネーションで生み出そうと。

カラー頭髪のルーツは富野由悠季さんの『伝説巨神イデオン』らしい説

楢村 たとえば、今はアニメでもゲームでも髪の色はピンク、赤、緑とかいっぱいありますけど、あれルーツは富野由悠季(注21)さんの『伝説巨神イデオン』(注22)らしいんです。そんなに資料を徹底的に調べたわけじゃないので違うかもしれないですけどね。

で、その『イデオン』を見ると、地球人側は茶色、黒、赤毛といったわりと自然な色の髪なんですけど、異星人側は真っ赤とか真っ青とかがいるんですよ。で、ちょっと深い話に入っちゃうんですが、物語の中で異星人と地球人でカップルになる男女がいて、その異星人は逆に真っ黒な髪だったりするんです。それを見て、これは意図があって髪の毛の色を分けているんだなって。

学生時代。先輩の結婚式にて。髪が長い。

元はそういう意図があってやっていたのに、今では髪の毛の色が違うのは当たり前のようになっていますよね。今、そういう髪の色で納得できるのは『プリキュア』ぐらいです。あれは戦隊物の色分けですよね。キャラクターをはっきりさせるための色分けっていうか、あれは必然性を感じています。なので、僕は自分でキャラクターを作るとき、意図がない限り髪の毛の色を赤とか青とかにしないですね。

注21:『機動戦士ガンダム』の生みの親として知られる。『海のトリトン』や『無敵超人ザンボット3』など、そのほかにも数々の伝説的アニメを手がけた日本を代表するアニメ監督のひとり。

注22:無限の力を持つ「イデ」の存在を軸に、地球人と異星人の出逢いから始まる闘争を描いたテレビアニメ。壮大なテーマや両陣営が滅びへと向かっていく壮絶な展開など、当時のアニメファンに与えた衝撃は大きく、富野由悠季氏の最高傑作とする声も多い。

そこが納得いかない限り、そういうのを描きたいとは思わないです

つまり、これはなぜこの色なのかルーツも分からないのに、世の中にピョンと出てきているのはおかしいんじゃないかっていうことですか。

楢村 当たり前のように使われているのが納得いかないというか。あとゲーム、アニメに限らず服装。女の子は露出度が高いですけど、あんなので戦いに行ったら死にますよね。

そうですね。大変なことになりますよね(笑)。

楢村 剣と魔法の世界でお腹を出していたら、そこを刺せって言っているようなものですからね(笑)。そこが納得いかない限り、そういうのを描きたいとは思わないです。

なるほど、おっしゃる通りですよね。

楢村 でも、自分の絵のルーツみたいなのを探ってみると、やたら肩パットが付いていたり、肩パットがベルトで止めてあったりするんですよ。これは間違いなく『北斗の拳』とか『聖闘士星矢』とかですよね。で、同時期に影響を受けたデザイナーさんが永野護さん(注23)。

注23:『重戦記エルガイム』などのメカニック、キャラクターデザインを手がけたことで知られる。『機動戦士Zガンダム』のキュベレイやハンブラビなどに代表される奇抜かつ独特のメカデザインにはファンが多い。マンガ家としても有名で代表作は『ファイブスター物語』。

永野先生、はい。

楢村 あの人はもともとアニメの設定をやっていたんですよね。確か、一番最初が『重戦機エルガイム』(注24)で、角川書店さんからムック本が2冊も出ていたんですが、設定の量がすごいんですよ。テレビに出てこないところまでガンガン描いてあるっていう。

注24:富野由悠季氏が総監督を務めた1984年放映のロボットアニメ。永野護氏がデザインを手がけた、ヘビーメタルと呼ばれるスタイリッシュなロボットが話題を呼んだ。

なるほど。

楢村 『スターフォース』とかと同じで、テレビに映ってないところにしっかり設定があるっていうところに感動して、すごい好きになったんです。『ファイブスター物語』(注25)でも、あとがきとかに自分のデザインがいつの間にか世間で当たり前のように使われているとか、ドラゴンはデザインが昔から全然変わっていないから僕が違うデザインにするとか書いてあって、言われてみりゃそうだと。僕も永野護さんの女性の肩がバーンっていうでっかい衣装とか、知らず知らずのうちにマネしちゃっているなと思い始めて、NIGOROを始めた時期とだいたい一致するんですけど、その頃からキャラクターを描くときは、「こうやって着る」っていうのが見えるようにとか考えるようになりましたね。

注25:アニメ雑誌「ニュータイプ」にて連載されている永野護氏によるSFマンガ。架空の宇宙世界「ジョーカー太陽星団」を舞台にした一大叙事詩で、すでにその世界における主な出来事が未来も含めてあらかじめ設定されているなどの独特の手法が反響を呼んだ。2013年に連載が再開された際、設定が大改編されたことも大きな話題となった。

理屈があるっていうことですよね。

楢村 そうです、そうです。そのころからデザインのラインもちゃんと自分なりに考えて、他とは違うようにというのを気にし始めました。

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