一曲一曲の物語をどう面白くするかにフォーカスした
「Cheers!」は宅録ファンクのようでもあり、ヨーロッパ的洗練をまとったポップスでもあるような、不思議な佇まいの曲ですね。
デモの時点ではどういう曲になるのかわからないまま、なんとなくフレンチポップみたいな、不思議なコード進行だなと思いつつ、アコースティックギターで曲を作って、リズムを打ち込みにしたら、80年代のバングルスとか、ニューウェーブをやろうとしていた頃のポール・マッカートニーみたいな方向に近づけたくなったんですよ。そこにさらに歌とコーラスを重ねる段階で、スウィングル・シンガーズのような、ジャズ寄りのコーラスグループみたいなテイストも出てきて。最終的に面白い曲になったと思いますね。
「HIGH & LOW」はギター・オリエンテッドなフォーク、アメリカーナ寄りの曲と思いきや展開はプログレッシヴですし、そこにさらにシンセサイザーが加わって、この曲もまたユニークなものになっていますね。
この曲は何年も前から存在していたものの、録音したいと思いつつ、機を逸してしまった曲で、今回ようやく形になりました。自分でも不思議な展開をする曲だと思いつつ、ふたりのプロデューサーと組んだ曲と比べると、使ってる楽器の数が極端に少なかったりするので、曲を並べたときにアルバムにうまく混ざるのかなという不安もあったんですけど、実際に録ってみたら、意外と大丈夫でしたね。僕は自分で曲を作るとき、必要以上に音を足さないように心がけているんですけど、そういう傾向が色濃く表れていますよね。
リズム&ブルースに根ざした「泥棒役者」はストリングス隊を含め、参加プレイヤーが多い曲ではあるんですけど、無駄な音が鳴っていなくて、非常にシンプルに響く曲ですよね。
そうですね。オーソドックスなリズム&ブルースにソウルっぽいストリングスを加えた曲なんですけど、僕にはたくさんの音を制御する能力はないので、この曲は無駄な音を入れないように意識しました。

歌詞に関してですが、シンガーソングライターらしいパーソナルなムードが反映された前作に対して、『What A Wonderful World』というアルバムタイトルが付けられた今作はいろんな主人公が織りなす世界のありようが描かれているように思いました。
そうですね。歌詞を書いているときに不思議とそういう心境になりました。前作アルバム『One』はキリンジを抜けて数年経ってはいたけど、初めてのアルバムではあったので、そのときの気分を引きずっていたというか、吐き出したいという気持ちがどこかにあったんですね。そして、そこから時間が経った2枚目のアルバムということもあって、メロディから連想する言葉をつらつら並べながら、一曲一曲の物語をどう面白くするかということにフォーカスしました。
例えば「HIGH & LOW」では、内なる衝動が歌われていますが、普段、表立って感情を爆発させるタイプではない堀込さんからこういう曲が生まれたのは興味深い気がしました。
この曲は歌詞がないときから「HIGH & LOW」というタイトルが付いていて、天国と地獄みたいな、そういうイメージを歌詞に落とし込んでいったんですよね。
つまり、ご自分の心境をダイレクトに反映した歌詞ではない、と。
過去の体験から得た心境は反映されてはいるんでしょうけど、ここで歌われているように自分が袋小路の状況に閉じ込められているわけではなく、この主人公は今どんな心境なんだろう?と思いを馳せながら書きました。
一方で「泥棒役者」はフィクショナルな物語の面白さが目を引きますね。
この曲のモチーフは子供の頃によく読んでいた手塚治虫の『七色いんこ』という漫画なんですよ。代役専門の役者にして泥棒でもある主人公の物語なんですけど、この曲の歌詞を書くにあたって、今までだったら、自分の中の鬱憤とかブルージーな気分を憂さ晴らしするように書き殴っていたと思うんですけど、並行して進めていたアレンジ作業でストリングスを入れたことによってブルースに華やかさが加わって、サウンドに物語性を感じられたので、これは鬱憤晴らしの歌詞だと面白くないなって。そこで試しに『七色いんこ』みたいな設定で言葉を当てはめていったんですけど、言葉と音との相性も良かったし、この主人公ならではの哀愁も描くこともできそうだったので、楽しみながら歌詞が書けましたね。
主観的な視点で綴るシンガーソングライターの歌詞と客観性を交えて描くポップスメイカーの歌詞。堀込さんは音楽、歌詞の面でその両方を行き来できる立ち位置の音楽家だと思いますが、今回はポップスメイカーの立ち位置に立脚した作品になっているように感じました。
それはたしかにあるかもしれないですね。「スクランブルのふたり」は新しい一歩を踏み出すという内容の歌詞だったりするので、『One』の流れを踏襲しているともいえるし、「足跡」もシンガーソングライター的だったりして、自分のクセが抜けきらない部分もあったりはするんですけど、蔦谷さん、田中くんのアレンジに助けられて、新鮮に響く曲になりました。
『One』と『GOOD VIBRATIONS』がなければ、今回のような作品が生まれることはなかった
そういう意味で、キリンジや馬の骨で積み重ねてきたキャリアはありつつも、ソロアーティストとして、『One』と『GOOD VIBRATIONS』で経験してきたことが今回の作品には直接反映されているな、と。
そうですね。『One』と『GOOD VIBRATIONS』がなければ、今回のような作品が生まれることはなかったと思います。振り返ると、『One』のときは10曲のセルフプロデュースでいっぱいいっぱいだったんですよ。そして、新しいコラボレーションを行った『GOOD VIBRATIONS』を経て、今回、ふたりのプロデューサーに曲を振り分けたことで、セルフプロデュースの曲に注ぐエネルギーと時間を保つことができましたし、『One』のときよりも完成度が上がっているなと思いますね。
そして、アルバムリリース後の11月にはKIRINJIのメジャーデビュー20周年を記念するライヴに出演されますよね。
KIRINJIが迎えた20周年のお祝いイベントに駆けつけるという、そのくらいの気持ちですね。
「What A Wonderful World」発売記念イベント
10月14日(日)タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース
10月19日(金)名古屋パルコ店 西館1階イベントスペース
10月20日(土)タワーレコード梅田NU茶屋町店イベントスペース
KIRINJI 20th Anniversary Live 「19982018」
出演:KIRINJI / キリンジ / 堀込泰行
11月9日(金)Zepp Osaka Bayside *SOLD OUT
11月15日(木)豊洲PIT *SOLD OUT
11月16日(金)豊洲PIT *SOLD OUT
堀込泰行(ほりごめ・やすゆき)
1997年に“キリンジ”のvocal&guitarとしてデビュー。2013年4月に脱退以降、ソロアーティスト/シンガーソングライターとして活動。提供楽曲も多く、ハナレグミ、安藤裕子、畠山美由紀、杉瀬陽子などに楽曲提供を行っている。2014年11月にソロデビューシングル「ブランニューソング」を発表。「エイリアンズ」「スウィートソウル」「燃え殻」などの代表曲がある2016年には、初の洋楽カバーアルバム『Choice by 堀込泰行』、堀込泰行名義の1st Album『One』をリリース。2017年11月には新進気鋭のアーティストとのコラボレーションEP『GOOD VIBRATIONS』を発表している。
日本コロムビア 堀込泰行オフィシャルサイト
堀込泰行オフィシャルサイト






