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「どんなに働いても0円」カルト村出身の著者が憧れのお金を手にしたら?『お金さま、いらっしゃい!』高田かや

「どんなに働いても0円」から、いきなりの「午前中のパートだけで13万円」

「毎日がタダ働き」「物は共有」「お小遣い0円」「子どものお金は即没収」…著者の高田かやさんは、そんな「カルト村」で育ったという異色の経歴の持ち主だ。19歳で村を離れ、一般社会へやってきた著者が、それまで持つことができなかったからこそ「特別なもの」として強い憧れを抱く「お金」と、どう向き合っていくか。本書は、その過程をおかしくも切実に描くドキュメントである。

村を出た後、病院の調理補助パートの仕事を見つけた著者は、初めてもらった給料(13万円)を前に、「何これ、本当にもらっていいのかな…」と戸惑う。これに似た気持ちは、初めてのアルバイト代、あるいは初任給を受け取った時に多くの人が感じるものかもしれないが、彼女の場合、「どんなに働いても0円」から、いきなりの「午前中のパートだけで13万円」である。「もらえてもせいぜい3万ぐらいかと……なんだ一般社会楽勝じゃん!!」と考えてしまうのも無理はない。

お金を持ったことがなかった彼女は、「使う」ことに対しても免疫がない。欲しいと思っても「買う」「手に入れる」という思考回路がなく、「喉の渇き」と「ジュースを買う」ことが結びつかない、お店で食料品を見ても「家に帰れば食べ物があるから早く帰ろう」と考える……など、「自分の限界に挑戦」「ある物でなんとかする」精神が発揮される。

それらは、節約目的というより、幼い頃から長年にわたって染みついた習性によるもの。よく「三つ子の魂百まで」と言うけれど、幼少期の経験が人生にもたらす影響がけっして小さくないことを、こんな小さなエピソードからも思い知らされる。

そんな彼女だが、次第に自分らしい「お金の使い方」を見出していく。ストイックに貯めたお金で、携帯電話を購入したり、自動車教習所に通ったり。「必要だと思ったら高額商品でも買う」という、メリハリの利いた使い方ができるようになっていくのだ。

©高田かや/文藝春秋

©高田かや/文藝春秋

©高田かや/文藝春秋

©高田かや/文藝春秋

お金と全く触れ合わずに生きてきた著者だからこそ見つけられた「お金」との付き合い方のコツ

洋服についても、はじめは職場の先輩に勧められるまま高額なものを買っていたが、「だんだんと自分の好みが分かってきて、少しずつ本当に欲しい物を探せるようになった」。いま買い物をするときは、いろんなお店を一通りまわるという。「そんなにまわるの面倒じゃない?」という夫の問いには、「だって自分で選べるんだよ? 納得いくまで歩くでしょう!」と回答。

カルト村時代の服は、村からの支給品で、もちろん好きな服など選べない。そんな幼少期の経験があったからこそ、「選べる」ということが、いかに尊いか。そんな著者の視点に、選択肢が多すぎる時代に生きる私たちはハッとさせられる。「あちこち見るの面倒だし、なんとなく気に入ったコレでいいや」と毎回のように妥協の産物を持ち帰り、結局、多くの洋服がタンスの肥やしになっている……という私(でも、そんな人は少なくないはず)も、自分の「買い物」に対する姿勢を改めたくなった。

現在は、夫の「ふさおさん」と共に暮らす著者。夫婦間の「お金」に関する考え方の違いも、問題が起こるたびに話し合うことによって着地点を見つけていく。食材の買い置きや保存食作り、衣類のリメイクなどで節約する一方で、外食や旅行には惜しみなくお金を使う。ふるさと納税などのおトクな制度も積極的に活用し、まさに「お金」との付き合いをフルで楽しんでいる。

多くの人が、幼少期に数十円、数百円のお小遣いをもらうところから始め、徐々に学んでいく「お金との付き合い方」。それを、著者は19歳からスタートした。だから、成功も失敗もまるでジェットコースターのようにめまぐるしいが、その分、大人ならではの「考える力」で、幼少期の経験とも折り合いを付けつつ、「自分なりの付き合い方」を急速に確立していく。その姿は、日々漫然とお金を使ってしまっている人にとって、まぶしくすら映るかもしれない。

文 / 中田千秋

書籍情報

『お金さま、いらっしゃい!』

高田かや(著)
文藝春秋

生まれ育った「カルト村」(所有のない社会を目指す、農業を基盤としたコミューン)の思い出を描いた『カルト村で生まれました。』『さよなら、カルト村。 思春期から村を出るまで』で話題となった高田かやの新作コミックエッセイ。どんなに働いても対価はもらえず、物は共有でお金のやりとりは一切なし、当然子供のお小遣いは0円で、隠し持っているお金が大人に見つかったら即没収……。そんな「カルト村」で育ったことから、「お金は滅多にさわれないすごいもの」「お金さま!」とお金そのものへの憧れが人一倍強くなってしまった著者が、19歳で村を出て両親との同居生活→ひとり暮らし→結婚して夫の家族と二世帯住宅暮らし……と環境を変えながら、自由に持つことができなかった「お金」とどう付き合ってきたか? を包み隠さず丁寧に描く。

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