黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 20

Interview

ゲームミュージックの巨匠 植松伸夫氏(下)『FF』は自分にとって“新しくない”

ゲームミュージックの巨匠 植松伸夫氏(下)『FF』は自分にとって“新しくない”

シビれる感覚っていうのが、もう何年もないんですよ

植松 何十年も前の曲を歌って、皆さんに喜んでもらえて、ありがとうございますって。あれはすごいですよね。もちろん、僕も一生懸命やっていますよ? でも、いつまでもこればっかりってのはなあというのもあるんですね。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

やっぱりそう思われているんですね。

植松 思いますね。シビれる感覚っていうのが、もう何年もないんですよ。2003年に初めて『FF』のコンサートをロスでやったときは、ホントにシビれました。こんなことが自分の身に起きるんだって信じられなかったし、すごいことだなあって思いました。それからヨーロッパとかアジアとかあっちこっちで回って、初めて行くところではやっぱりシビれましたけど、同じところで何回もやっていくうちに、そんなにシビれていない自分っていうのを自覚し始めて、これはちょっとなあと。挑戦っていうとカッコいいですけど、「これをやってみたらどうなるんだろう」みたいなことをやらないと、やっぱりシビれないですよね。

「俺はバック宙ができるんだろうか」っていう、あのときのシビれる感覚がないんですよ

それはそうですよね。僕もそういうことは常に感じていますよ。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

植松 オーケストラコンサートの海外ツアーを10年以上やって、シビれなくなってきたから日本国内の吹奏楽音楽ツアーを始めたのかもしれないですね。でも、それも今年4年目で、だんだんドキドキしなくなってきたというか。繰り返しますけど、一生懸命やっているんです! 一生懸命やっていて、お客さんが喜んでくれたら、すごいうれしいんですけど、「俺はバック宙ができるんだろうか」っていう、あのときのシビれる感覚がないんですよ。

すごい、いい戻り方をしましたね。なるほど、常にあの日のバック宙ですよね。

植松 そう。だからやったことがないことをやりたいですね。

なるほど~。でも、植松さんほとんどのことをやってきている気がしますけどね。

植松 いやいや、あります。すでに始めているんですけど、物語をいくつか書いているんです。それに絵を描いてもらって絵本形式にして、スクリーンに絵と物語を映し出して、僕がつけた音楽を横で演奏しながら朗読してもらうというのをやっているんです。小さいところで試験的にやっているだけで、お客もファンクラブの中の限られた50人ぐらいなんですけどね。でも、これまでやったことがない初めてのことなので、なかなかシビれますね。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

絵本作家兼音楽家としての終活も、いいかなあって(笑)

いいですねえ~。面白いことを考えていますね。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

植松 いずれは、それらの機材を車に積んで、全国のライブハウスを巡りたいんですよ。『FF』の植松伸夫としてじゃなくて、絵本作家兼音楽家として青森や高知のライブハウスに行って。「すみません、こういう者なんですけど何月何日に出してもらえますか?」とか、そういうのをやってみたいなと思うんです。60歳ぐらいの絵本も描いたことのないオヤジが、やるっていうのがね。ちょっとこれは終活としても、いいかなあって(笑)。

終活はまだ早いでしょう。でも、それは素晴らしいことじゃないですか。

植松 素晴らしいかどうか分かんないですけど、今のところ考えていて一番ワクワクするんで。それがきっと自分が今挑戦して楽しいことなんだろうなあとは思いますね。

面白いですね。ファンの方の前ではもうやっているんですか。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

植松 やっています。全13章で少しずつやってきたんですけど、8月にやるファンクラブの会合で完成の予定です(注20)。

注20:インタビューが行われたのは7月中旬。

ぜひ見てみたいですね。

植松 せまっくるしくても、よかったら。そういえば、スクウェアの時田貴司(注21)って知っています?

注21:スクウェア・エニックスのクリエイター。『ライブ・ア・ライブ』、『クロノトリガー』『半熟英雄』、『ナナシ ノ ゲエム』など、数々のタイトルのディレクションやプロデュースを務めた。

はい、もちろん。

植松 アイツが朗読しているんです。

え、時田さんが読むんですか? ちょっとそれも意外感がありますけど。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

植松 ハハハハハハ、昔のヤンチャ仲間で。

そうなんですか。いや、いいですね、面白いです。

植松 興味があるようでしたら、ご案内します。

もうしんどいですよ。お金のためのモノづくりっていうのはね

ぜひ、聞かせてください。でも、やっぱりそういう常にドキドキすること、シビれることを植松さんはこれからもやっていきたいと思われているんですね。

植松 そうですね、ホントはお金のための音楽って、60歳でもうやめようと思っていたんですね。60歳になったらギャラのための音楽制作は止めて、自分の作りたい音楽と、作りたい文章と、あと最近講演とかのお話がいくつかあるんで、その3つに絞っていこうかなと思っていたんですけど、なかなかね。でも、来年の3月で60歳になっちゃうんで、すぐには無理でしょうけど、徐々にそっちのほうにシフトしていこうかなと思っています。

愛犬と

やっぱり、もうしんどいですよ。お金のためのモノづくりっていうのはね。しんどいっていうか、人生の計算を始めているのかもしれないですね。お金のための音楽をずっとやってきたんで、そろそろ自分がなんで音楽を始めたんだろうっていうところに戻りたいなって思いますね、ウン。

植松さんほどの方であれば、もうお金のことは考えないで、いろんなことができるのではと思ったんですけど、そんなことはないですか? すみません、下衆な興味で申し訳ないんですけど。

植松 毎日食べるものに困っているとは言わないですけど、ほら独立したりするとね。来月の保証がないじゃないですか。

僕も独立起業者なんで、それは分かります。でも、植松さんはブランドじゃないですか。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

植松 いやいやいや。ウチのドッグイヤー・レコードっていう会社は、立ち上げたときは7、8人いたんですけど、仕事とかがうまく回らなくて1回破綻しているんです。それで今3人でやっているんですけど、銀行からの借金も返していかなきゃならないし、給料も払わなきゃならないですから。食べるものを買うお金が欲しいとか、そんなことは言わないですけど、会社に何かあったときのために常に余裕を持っておきたいっていうのはどっかにありますね。だから、お金のことはそんなに無視するわけにはいかないです。ただ、60歳になったらもうドッグイヤーから自分は降りて、やりたいことだけやろうかなあと。

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