黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 20

Interview

ゲームミュージックの巨匠 植松伸夫氏(下)『FF』は自分にとって“新しくない”

ゲームミュージックの巨匠 植松伸夫氏(下)『FF』は自分にとって“新しくない”

自分の曲のことを客観的に言うのも変ですけど、迷いがなくて勢いがある

でも、それに勝るリターンをもしてきたとも思いますけどね。

植松 できていればいいですけどね。だから、それはありがたかったです。誰も何も言わなかったっていうのはね。スクウェアの中で、僕が年上の方だったからっていうのもあるんでしょうけど。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

それはあまり関係ないような気がします。もちろん、年上の方っていう尊敬はあったかもしれませんけど、やはり植松さんの才能が作品としてきちんと花開いたっていうのが大きかったんじゃないでしょうか。

植松 客観的に自分の音楽なんかを見ると、やっぱり洗練されてないんですよ。僕のバック宙みたいというか。マットを1枚1枚はがして覚えた、バック宙のような音楽っていう気がするんですよね。日体大なんかで習った人たちがする、ものすごくきれいなバック宙じゃないんですよ。

細かい作りが非常に雑で、いびつなんですけど迷いがないんですね。だから、ワンアンドオンリーなんですよ。自分の曲のことを客観的に言うのも変ですけど、迷いがなくて勢いがあるんで、みんな細かいところに目がいかないんです。細かいところに目がいくとヤバいですよ、僕の音楽。ハハハハ。

そうですか? そんなこと一度も思ったことないですけどね。

植松 それは勢いがあるからなんですよ。だから今、『FF』のサントラとかを聞くと、もう恥ずかしくて。どう考えたって、今のほうがもうちょいマシなものが作れるなあと思う反面、「片翼の天使』とか、ああいう曲を今作る自信はないですよね。あれは、やっぱり勢いがなきゃダメですよ。時代の勢いと自分の勢いと会社の勢いとが瞬間合わさるような、偶然のパワーがないと、ああいうなんか雑で勢いのある音楽はなかなか生まれにくいと思います。うれしいですよね、あの1曲を生み出す瞬間に自分がいれたっていうのは。いまだにオケでやっても、こりゃすごい音楽だなって。「ザッザッザッ」って誰が考えたのかな、これっ?ていう。すごい音だなあって思うときありますよね。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

僕はないです。15歳ぐらいからないですよ

ご自身で、そう思っちゃうことがありますか。

植松 ときどきありますよね。よくあの和音で始まることを、自分は自分に許したなあとか。すごく乱暴な和音なんですよ。あれはやっぱり「そりゃー!」っていうのがないとできないです。冷静になって聞き直したり、反省の時間があったりしたら、ホントにこれでいいんだろうかってなって、もっとゆるやかな和音にしたかもしれないです。だから、今はもう作れないでしょうね。

そのときどきの時代の音楽とかに影響された部分はあったんですか?

植松 僕はないです。15歳ぐらいからないですよ。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

そこから止まっていますか!

植松 15歳っていうのはちょっと大げさですけど、でもハタチを超えてからはもうないんじゃないですかね。中学生のときってロックだけじゃなく、いろんな音楽を聞きたいっていうのがあったんです。そういえば、ラジカセを持っていなかったんで、ラジオのイヤホンからLLカセット(注19)に繋いで録音していましたね。で、好きな音楽を録るんじゃなくて、「それ知らない」、「聞いたことない」って思うものを録っていたんですよ。

知らない音楽をないようにしようって思ったんです。音楽業界に行きたいけど音楽を習ったことはないし、経験もないんで。小さい頃からピアノを習っているヤツに勝つには、あいつらより音楽を知っているとか、彼らに勝てる何かを持っていたいと思ったんです。だから、ジャズ、ロック、クラシック、民族音楽、なんでも知らないものがあったら録音して繰り返し聞いていましたね。授業中も机の中にレコーダーを入れて、学生服にイヤホンを通して、ずうっと聞いていました。

注19:LL方式の録音ができるタイプのカセットレコーダーのこと。カセッテープの2トラック目に別の音声をかぶせてマルチ録音できるので、英会話学習の教材などによく利用されていた。

僕は音楽を作るんじゃなくて、聞く方の天才だと思っています

ええ~そこまでしていたんですか。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

植松 家でメシを食っているときも聞いていたんですけど、それはさすがに親父に止められました。とにかく知らない音楽は何度も聞くんですけど、そうすると分かるんですよね。良い音楽とか悪い音楽ってものは実はそんなにない。どれだけ親しみやすいかだっていうことが。どんな音楽にも面白みはあるんですよ。それを積極的に分かろうとするか、オレはちょっと苦手だわって閉じちゃうかの差だけなんです。

クラシックとジャズとロックを同じように楽しもうと思っても無理な話ですよね。中華とフレンチと和食は、それぞれ味わい方が違うのと同じで、こっちが変えなきゃなんないんですよ。ジャズを味わおう、クラシックを味わおうってね。そういうのを小さい頃からやっていましたから、僕はどんな音楽でも楽しめるんです。だから、僕は音楽を作るんじゃなくて、聞く方の天才だと思っています(笑)。

あえて言うなら僕はリレーヤーなんですね

なるほど、そのニュアンスは分かる気がします。だからこそ、いろいろな音楽が作れるわけですよね。

植松 全部借りモンですけどね。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

いやいや、たとえ借りモノでも植松さんの中で消化されて、植松さんの音となって出てきたものが、今までの音楽になっている気がします。

植松 そもそも僕はクリエイターっていう言葉が嫌いなんです。「クリエイト」って0から1を作り出すことですけど、そんなことやってる人なんか、ひとりもいないと思うんですよ。もちろん、中にはいるかもしれないですけど、少なくとも僕はそんなことをしていないです。僕がやっているのは、これまで何十年か聞いてきた音楽の感動を、自分の中を通った感動を次へ伝えているというだけです。あえて言うなら僕はリレーヤーなんですね。

ああ~リレーする人だと。

植松 ええ。次へバトンを渡しているだけの役割な気はしますね。もちろん、パクリっていう意味じゃないですよ? いろんな音楽のサビでドーッとくる感動とか、あるじゃないですか。それを同じメロディ、同じ和音でやったらパクリになっちゃいますけど、そうじゃなくて、あの感動を自分の音で伝えたいと。僕のやっていることはそれだけなんで、とてもじゃないですけどクリエイターとか、こっ恥ずかしくて言えないですね。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

ちょっとイヤな質問をしますけど、植松さんにとって『FF』っていうものが大きくなりすぎているということはないですか? たとえば、ショーン・コネリーにとっての『007』みたいになっちゃっているとか。

植松 もう、今なっていますね。

『ファイナルファンタジー』は自分にとって、もう新しくないんです

やっぱり、そうですか。もちろん、『FF』以外にもいろいろなお仕事をされていて、最近だったら『グランブルーファンタジー』もおやりになっているし、さまざまにご活躍だと思うんですけど。

植松 でも、やっぱりそっちはあんまり注目されないというか。どうしても植松っていうと、「ああ、『ファイナルファンタジー』のね」っていう。でもほら、それはもう仕方がないじゃないですか。仕方がないですけど、でも『片翼の天使』とか作ったのって、もう20年前なんだよなあと考えると、「この20年、ほかにも作っているんだけどなあ」って思うときはありますね。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

それは、そうでしょうね。

植松 だから、『ファイナルファンタジー』が重たいというか、つきまとわれているって感じることは確かにあって。自分にとって、もう新しくないんですよね。オーケストラや吹奏楽のコンサートをやったりしていますけど、今ひとつシビれないというか。こんなこと言うと、来てくれなくなっちゃうかも(笑)。

いやでも、分かるような気はします。

植松 もうちょっとは生きていたいし、やりたいことが他にもあるんですよ。だから、そろそろそっちに行かないとなあと思っているんですね。いつまでも『ザナルカンドにて』をやって「イエ~ッ」、『片翼の天使』をやって「ウォーッ」っていうのもね(笑)。でも、演歌歌手の皆さんって、それをやられるわけじゃないですか。

そうですね。皆さん、ずっと同じ曲で営業されたりしていますよね。

植松伸夫 エンタメステーションインタビュー

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