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モノクロで描かれた美しき死の世界と『LIMBO』の意味

モノクロで描かれた美しき死の世界と『LIMBO』の意味

デンマークのデベロッパー、Playdeadが手掛けたインディーゲーム『LIMBO』。他にはない個性的なビジュアルが目を惹く、横スクロールのアクションゲームです。 BGMは一切なく、流れるのは環境音と、足音や梯子を登る音、電気のこぎりの回る音などのSEのみ。モノトーンの画面と相まって、非常に静かな印象を受けます。にぎやかな演出で人気を博すゲームとはまるで真逆の方向性を持つように見えますが、ひとたびプレイしてみれば、丁寧に調整された謎解き、一貫した美学が感じられるビジュアル、ほとんどが謎に包まれたゲーム内世界の凄みに圧倒されてしまうでしょう。

2010年にXbox 360用ソフトとしてリリースされ多くのプレイヤーを魅了したあと、数々のプラットフォームに移植され、『LIMBO』はインディーゲームの代表格として数えられるほど知名度のある作品となりました。どのプラットフォームでもゲームの内容に全く違いはなく、追加要素などもないので、気軽に手持ちのハードから選ぶことができるようになったのがうれしい点です。PlayStation®4版で『INSIDE』とのバンドル版が、最近ではNintendo Switch™版が発売となりました。発売当初、PlayStation®3版を遊んだことがある筆者ですが、今回改めてプレイし、唯一無二の面白さを再確認しました。本稿では、8年経っても全く色あせない魅力を紹介します。

文 / 内藤ハサミ


一切説明のない謎に満ちたストーリー 

ゲームタイトルになっている“LIMBO”とは、カトリックの概念で“辺獄”という意味。地獄と天国の間にあり、洗礼を受けず死んだものの地獄に落ちるまででもない人間や、洗礼を受けないまま死んだ幼児が行きつき、とどまり続ける場所だと考えられているそうです。このゲーム内の世界はLIMBO(辺獄)のなかで繰り広げられている、ということなのでしょうか。

▲序盤に登場する、水場を渡るシーン

ギリシャ神話には、生前に体験したことをすべて忘れる“レテの川”、日本にも現世と死後の世界を隔てる“三途の川”が存在するなど、世界の多くの伝承や神話において、水場や川は死後の世界と繋がる役目を持つとされていますが……。これは、少年がLIMBOへ行ったということの暗喩? ゲーム内で答えが語られることはありません。

実は、ストーリーについての説明はゲーム中に一切出てきません。そもそも、メニュー画面以外にテキストの表示や会話もないですし、ムービーシーンやチュートリアルなど、状況を説明するものすらないのです。ソフトウェアカタログには、「運命に逆らい、妹を探して少年は LIMBO の世界に足を踏み入れる」と、たったこれだけが書かれていますが、目的についても同様に説明はないので、カタログを読まなければ、少年が妹を探していることすらわからないままでしょう。少年の逆らう運命とは? 妹とはなぜ離ればなれになってしまったのか? ゲーム中に出てくる背景やオブジェクトに、ストーリーを読み解くヒントになり得る要素がちりばめられているような気もしますが、どう解釈するかは全て、プレイヤーに委ねられています。プレイヤーはとにかく、LIMBOの世界に放り出され、心細いままに進むしかありません。状況がわからないままに仕掛けを解き、進む道を切り開いて、この世界の姿を見ていくことになるのです。

▲主人公の少年のほかにも、ゲーム中には何人か人間らしきものが出てきます。そのほとんどは力尽きて動かない子どもです。ほかに、生きた状態で主人公を襲ってくる者もいます。彼らの目的はわかりませんが、同じくLIMBOに行きついた子どもだったりするのでしょうか?

全てを語られることはないストーリーについての考察は、発売当初からファンの間で盛り上がりました。筆者もPlayStation®3版発売当時、インターネット上で繰り広げられる考察を読んだり、自分なりに読み解いた内容からストーリーを組み立ててみたりとかなり楽しみましたが、ファンのなかでも「はっきりした答えにたどり着いた!」と100%自信をもって言える人はいないのではないでしょうか。

▲何度か、人間らしきものたちから追われることになる主人公。彼らの攻撃に当たれば即死ですし、主人公前方の穴に落ちて棘に刺さっても即死です。緊張感半端ないシーン!

上のスクリーンショットのように、操り人形や吹き矢、トラばさみを利用した罠など、子どもの遊びをエスカレートさせたような方法で主人公を狙う謎の追っ手がたびたび登場するのですが、筆者はずっと彼らのことを主人公と同じLINBOに足を踏み入れた、または落とされた子どもだと考えていました。しかし、先ほどこの画像をじっと見ていたら、彼らは主人公よりもだいぶ背が高いことに気づいたのです。8年越しで気づいた新事実! もしかして、彼らは子どもではないのかもしれません。ここが洗礼を受けるまえの子どもが死んだときに落とされる辺獄なのだとしたら、そこに現れて主人公を狙う彼らは何者……? もしかすると、前段の写真で檻のような箱で力尽きていた子どもは、彼らに殺されたあと箱に入れられたのではないでしょうか?

8年かけて組み上げた自分なりのストーリーが揺らいでしまいました。が、スッキリした画面にさりげなく込められた情報量の多さ、これこそが面白いのです。まだまだ考える余地があるということですからね。ですが、上記は全て筆者の妄想にすぎません。何度も述べているように、主人公がLIMBOに足を踏み入れたということ以外は、まるで語られていないのですから。

シンプルな画面に隠された謎かけ

ゲーム内操作は、方向キー、ジャンプボタン、アクションボタンのみとかなりシンプルで、できることは少ないです。たったこれだけの動きで、ときにはかなり複雑な仕掛けを解いていくことになります。ステージには、いわゆる“初見殺し”ともいえる罠がたくさんあり、ゲーム中ではよほど勘と反応速度に優れた人でなければ、何回も死ぬことになるでしょう。体力ゲージなどはなく、どんな罠にかかっても、落下しても、ミスをすれば全て一撃死です。

▲操作感は実に良いです。操作でのストレスはないに等しいと個人的には思います

トライアンドエラーを繰り返して攻略することは想定されているようで、死んだところの手前からすぐに復帰できますし、死んだときの演出もキャンセルボタンで飛ばすことができるので、繰り返しのチャレンジはスムーズ。まどろっこしさはありません。

▲穴から突き出ている棘に刺さっての死……残酷です。このほかにも容赦のない死にパターンはいくつかあり、「うわっ」と声を上げてしまうことも。白黒画面でこの表現力と迫力。LIMBOでの命は、実に軽いものなのだと感じさせます……

限られた操作で行う謎解きは実に奥深く、後半になるにつれ、複数のギミックの組み合わせを解くことや、タイミングを計りながら仕掛けを操作することが求められるなど、どんどん複雑になっていきます。特にエンディングまえの大きい仕掛けは、今までの謎解きの総決算。筆者はかなり頭を悩ませました。全体的な謎解きのレベルは、簡単すぎることもなく、難しすぎて何日も悩むほどでもなく、多くの人が解いた爽快さを味わえるレベルに調整されています。

▲序盤の謎をひとつ紹介。ボートで渡った岸に、ジャンプしただけでは上れない段差を見つけました

▲何か使えるものはないか周辺を見回すと、今さっき乗ってきたボートの端に取っ手のようなものが見えます。ボートを段差まで引きずって……

▲ボートの縁に乗ってジャンプ! このような手順で、大きな段差を上ることができました

これはほんの入門編。ステージが進むにつれ、どんどん謎は難しくなっていきます。筆者が一番ゾッとしたのは、白い寄生虫のようなものに脳を乗っ取られてしまい、進む方向を制御できなくなってしまう仕掛けです。カタツムリの触覚に寄生し行動を支配する、ロイコクロリディウムという寄生虫に似た性質を持つこの虫に支配され、方向キーの入力を受け付けなくなってしまった主人公の姿には、初回プレイのときにかなり焦ってしまった記憶があります。

▲脳を乗っ取られ、ひたすら前進する主人公。そこにせまりくる大きな丸鋸。この状況は、どうしたらいいのでしょう? 画面に攻略のヒントは必ずあります

▲ずっとこの先、脳を乗っ取られたままなのかな……と不安な気持ちになりますが、大丈夫。寄生虫の支配を解除できる、思わぬ仕掛けがあるのです

後半は、かなり長い時間悩んだ謎解きもあるのですが、パッと正解をひらめいて、そのとおりにアクションを実行してギミックを克服できたときの爽快感は格別です。じっくり画面を観察することが攻略の基本ですが、悩みながらステージをうろついて何とはなしにギミックを動かしているときに、正解の行動パターンを思いつくこともありました。まずは死を恐れずにあれこれ試してみること、これが結局はクリアへの近道だと思います。

静かな不気味さと美しさが共存するグラフィック

『LIMBO』を語るときに決して外せない要素が、他のゲームにはない個性的な美術です。デフォルメされたキャラクターのシルエットに、うっすら霧がかったような背景。モノクロで表現される奥行き、埃や煙などの表現は特に美しく、その場の匂いすら漂ってきそうなグラフィックが、絵本や夢のなかのような独特の空間を醸し出しています。

▲ライトの強い光と、上部から降りそそぐ自然光の強さの違いにも注目したいところです

▲飛び降りたガラスの部分に細かな亀裂が入る、そこに雨が当たって水滴が跳ねる……全てが美しいシーンで、筆者の気に入っている場所です

▲遠くに行くにつれ、シルエットがぼやける遠近感もたまりません! 筆者はやたらと大きい看板に生理的な恐怖を感じる性質なので、左側にある矢印が怖くて、そちらについても違った意味でたまりません……

背景の美しさは、主人公の痛ましい死にざまを際立たせる効果もあるように感じます。夢のように表現された幻想的な場所、そこで悲惨に散っていく主人公……という対比は、プレイヤーに強い死への恐怖を呼び起こさせます。スクリーンショットだけ見ても魅力的ですが、実際にゲーム内でキャラクターを動かしながら見るという体験には到底及びませんから、ぜひ実際にプレイして、『LIMBO』のグラフィックを味わってみてほしいです。

筆者がエンディングにたどり着くまでの時間は、おおよそ2時間でした。PlayStation®4版でトロフィーを取得していくならもっとかかるでしょう。途中にひとつ、ステージの構成を記憶し、操作に慣れていないとかなり取得が難しいトロフィーもあるので、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

筆者が8年ぶりに2回目となるエンディングを見たあとの感想は……正直言うと、以前のプレイで初めて見たときと同じく、言葉を失ってしまいました。クリアをしても、主人公が直面した謎に関してはっきりとした結論は説明されません。ただ、主人公がクリアをしたことによって、何が起こったのか、という事実だけが描写されます。それをどう受け取るかもプレイヤーの考えかた次第。今でもファンの間ではさまざまな議論を呼んでいます。「感動した!」とか、「泣けた!」とか、そんなわかりやすい言葉で表すことは到底できないような展開で、この記事を書くために撮ったスクリーンショットを眺めていても、ついため息を漏らしてしまうくらい、心にずんと突き刺さるエンディングなのです。

次回は、本作と同じくPlaydeadの代表作である『INSIDE』を美しいスクリーンショットとともに紹介します。主人公は少年、横スクロールのアクションゲーム、ゲーム内のテキスト表示なし、と一見似ている作品ですが、実際にプレイしてみると、『INSIDE』には『LIMBO』と明らかに違う独特の個性が備わっていました。次回もぜひお付き合いください。

フォトギャラリー

■タイトル:LIMBO
■メーカー:Playdead
■各種情報はオフィシャルサイトでご確認ください。

PlayStation®4版DL専用『LIMBO』

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