連続テレビ小説『半分、青い。』特集 「まだまだ半分、青い。」  vol. 4

Interview

朝ドラ『半分、青い。』の舞台・岐阜のことばを指導する尾関伸次が抱く、故郷への思い

朝ドラ『半分、青い。』の舞台・岐阜のことばを指導する尾関伸次が抱く、故郷への思い

スタートから早5ヶ月、連続テレビ小説、すなわち朝ドラ『半分、青い。』が好評放送中だ。8月6日放送から舞台を岐阜に移し、まだまだ盛り上がっていきそうな気配濃厚。そこで、後半戦も『半分、青い。』をいっそう楽しめるようにと、エンタメステーションでは同ドラマの特集を随時更新中。
キャストやスタッフにインタビューを行い、それぞれの役割や個々の「まだ青かったころ」のエピソード、そして収録時のエピソードや作品への思いなどをフィーチャーしていく。
第4回は、岐阜ことば指導の尾関伸次氏が登場。ドラマの舞台である岐阜県出身の俳優であり、これまでも『天花』(’04年)をはじめ、多くの朝ドラや大河ドラマに連ドラ、映画に出演。『半分、青い。』でもヒロイン・楡野鈴愛たちの高校時代の担任・山田先生役を演じた──と言えば、「あ!」と気づく視聴者の方も多いのではないだろうか。
そんな尾関氏が今作で岐阜ことば指導を引き受けた経緯や、鈴愛たちのセリフのポイントなど、言葉に焦点を当てて、その仕事の中身を浮き彫りにする。

取材・文 / 平田真人 撮影 / エンタメステーション編集部

リアリティーにこだわることも大事だけど、あくまでドラマに根ざして響く言葉にするのが前提です

まずは基本的な質問ですが、岐阜ことば指導を担当するにいたった経緯からお聞かせください。

昨年の2月くらいに、2018年度前期の朝ドラ『半分、青い。』は岐阜の東濃地方が舞台です、と公式にアナウンスされたんですけど、たまたま別の番組の仕事でNHKに来ていたもので、制作統括の勝田(夏子)プロデューサーに、「地元の話なので、何かお手伝いできることがあれば…」と、僕が直接お話したか社長を通してお願いしたか、その辺りの記憶は定かじゃないんですけど、とにかく一度コンタクトをとってみたんです。僕のNHKデビューが、それこそ朝ドラの『天花』で、しかも勝田さんが演出された回だったんですよ。それと、『半分、青い。』のチーフ演出の田中健二さんからも、岐阜のセンター試験はどういう場所で行われていたかといった、リサーチの電話がかかってきまして。僕自身はセンター試験を受けていないので場所はわからなかったんですけど、「地元の9歳上の知り合いが、ちょうど鈴愛ちゃんたちと同世代になるので聞いてみます」と言って、調べてお電話したんですけど、それからしばらくは特に連絡もなかったので、どうなったかな…なんて思っていたんです。
そうしたら、7月ぐらいだったかな…出演よりも先に「『方言指導』という役割があるんですけど、引き受けていただけませんか?」と、お話をいただいて。舞台となっている東濃地方というエリアの方言が、岐阜市周辺とはちょっと違っているので、岐阜県出身の俳優さんはたくさんいらっしゃるけれど、そこを考えると僕にしかできないということと、地元に貢献したいという強い思いでお受けすることにした、というのが経緯です。

尾関伸次氏

東濃地方と岐阜県内のほかの地域では、方言にどういったニュアンスの違いがあるんでしょうか?

たとえば、「思っとった」に関して言うと、東濃以外のエリアの方だと“と”にアクセントが掛かるんですね。名古屋や愛知県の方でも同じようです。ところが、東濃は“お”にアクセントが掛かるんです。そういう違いがあるんですけど、実は僕、岐阜全体が“お”にアクセントを置くものだと思っていて──。その違いを知ったのは、最初の顔合わせの時です。北川(悦吏子)さんもいらっしゃったんですが、鈴愛ちゃん(永野芽郁)と律くん(佐藤健)とチーフ演出の田中健二さんと主要なスタッフと僕とで、1回目の本読みが行われたんですね。それこそ、鈴愛ちゃんのセリフに「思っとった」という言葉があって、鈴愛ちゃんは“と”にアクセントを置いて言ったんです。なので、「あ、違うよ。それは“お”にアクセントがくるよ」と言ったところ、北川さんが「え、“と”にくるんじゃないんですか?」と、おっしゃって。
すると一瞬、場がざわついて、「尾関さん、大丈夫? 北川さんと食い違ってるけど…」という雰囲気になりまして(笑)、遅まきながら、その時に初めて東濃のアクセントが独特なことに気づいたんです。「違うんです、僕らの地域では、“お”にアクセントを置くんです」と説明して、ことなきを得たんですが、事前に「方言指導と山田先生役の尾関です」と北川さんにご挨拶をして、「尾関さんにお任せしますね~」と和やかな雰囲気からのピリッとした空気だったので、心の中で「うわ~、ヤバイヤバイ!」って、アタフタしたりもして…。
といったこともありましたが、第1週の試写を見てくださった北川さんも、ご自身が慣れ親しんだ岐阜ことばがかわいい感じに仕上がって、すごくうれしかったとおっしゃって。その言葉を聞いた時、引き受けてよかったと心から思いました。

メイキング写真より ©NHK
鈴愛(永野芽郁)と方言を確認しながらのリハーサル

尾関さんにとっても、岐阜ことばの再発見をする日々でもある、といった感じでしょうか?

それはありますね。北川さんは時々、現代ではもう使っていない岐阜ことばを意図的にセリフに入れることがあるんです。たとえば…1回だけ出てきたんですけど、「やっとかめ」という言葉がありまして。これは「おひさしぶり~、ごぶさたしてます」といった意味なんですけど、東濃地方でも使わなくなったエリアが増えてきていて。今だと、僕の出身地である土岐市ぐらいかなぁ…ほとんど死語に近い状態になっているんですけど、ふと気になって調べてみたんですね、「やっとかめ」に関して。そうしたら、名古屋の方でも使われていたようなんですけど、岐阜全体ではほとんど使わなくなっているので、そういった面で、あらためて岐阜ことばの趣きに感じ入ることがあります。『半分、青い。』に関わったことで、自分が使っていた方言が味わい深いものなんだなと思い直すことができましたし、岐阜ことばをあまり使わなくなっていた地元の友人や知り合いも、この間ちょっと帰省した時に会ったら、使っとったんですよ。「うわ、めっちゃドラマに影響されとるやん」と思って(笑)。「鈴愛ちゃんが使うんなら、かわいいから使おう」という雰囲気になっているのが、何かいいなぁと感じました。

第110話より ©NHK
岐阜に帰った鈴愛が萩尾家にそら豆を差し入れる。「やっとかめ」と久々の再会を喜ぶ和子。

地域の言葉に誇りを持てるのは、とても素敵なことですよね。

ドラマではあんまり使われていないんですけど、もっとも東濃地方っぽい言葉は「ほやもんで」っていう接続語なんです。「~だから、~なもので」という意味で、日常的によく使うんですよ。それを使うと田舎者だとすぐバレるので、中学の修学旅行では友達みんなして「テンションが上がっても、絶対に地元の言葉でしゃべるなよ」なんて言っていたことを思い出しました(笑)。僕の甥っ子や姪っ子たちも、地元に戻って喋っとっても標準語に近い話し方になっているんですよ。そういう世代に岐阜ことばを継承できるんだと考えると、とても素敵なお仕事をさせてもらっているなと感じますね。

ちなみに、大河ドラマ『西郷どん』の薩摩ことば指導の迫田孝也さんと田上晃吉さんが「テレビ用の方言にアレンジする必要がある」と、おっしゃっていたんですけど、尾関さんも岐阜ことばにそういったアレンジをされているのでしょうか?

そうですね、「すごく、とても」という意味で「えらい」という言葉を東海地方では使いますけど、東濃地方では「えらぁ~」と母音が完全に伸びた言い方をするんです。でも、初めて聞く人のことを考えると、“い”を完全に消しちゃうと言葉が違って聞こえてしまう恐れがあって。意味が違って伝わってしまうのでは、それこそ意味がないので、家事をしながら見ていてもスッと耳に入ってきて理解できる、というボーダーラインは守る必要があるな、と僕も意識しています。
最初のうちはやっぱり、自分たちが話している言葉を忠実に伝えようとしていたんですけど、勝田さんから「それだと意味が違って受け取られてしまうかも」と助言をいただいてから、ドラマ用にアレンジするようになりました。放送が始まってから、地元の人たちから「もう少しネイティブにしてほしい」という意見をいただいたりもしましたが、あくまでドラマの中に根ざして響く言葉にすることが前提だと、今はそう考えています。リアリティーにこだわることも大事なんですけど、鈴愛ちゃんがキャラクターとかけ離れた言葉を使うことで彼女の魅力が半減してしまうのなら、それはすべきじゃないなって。ヒロインは共感されてこそ、と思っているので、そこの言葉選びはセンシティブに行おうと思っているんです。

なるほど。あの…個人的に気になっていたんですけど、語尾が「~や」と関西弁っぽくなるのは、東濃地方のことばの特徴なんでしょうか?

いろいろと聞いてみたんですが、東濃地方以外の岐阜の方々はあまり使わないみたいなんですよ。ただ、岐阜や大垣市あたりの西濃地方だと、ウチの方と同じ言葉を使ってもイントネーションが関西弁に近くなるんです。さっきもお話したように、東濃はアクセントがちょっと違うんですね。なので、文字だけ見てニュアンスで俳優さんたちに喋ってもらうと、関西弁に近い話し方になってしまいがちなんですけど、それだと西濃地方のことばになってしまうので、語尾に「~や」と付くセリフは、標準アクセントに近いイントネーションにしてもらっています。

第46話より ©NHK
岐阜の菜生に「蛙のワンピースは初めてのデートで着る。」と伝える鈴愛。この後、会話を聞いていた正人に「蛙のワンピース着た時見せて」とデートに誘われる!?

鈴愛役の永野芽郁さんの岐阜ことばの使い方がすごく達者で、尾関さんが教えていないこともお話しできるそうですが、さらに進化しているのでしょうか?

進化してますね。東京編を撮っていた時は、相手によって岐阜ことばを使う/使わない技術を身につけていて、まさしく岐阜の人になっていて。僕らも東京で生活していて、ふだんは標準語で話しますけど、地元に帰ったり家族と電話で話せば、方言に戻る──といった姿は、自分たちを見るようでしたね。時折、岐阜ことばが思いがけず出てしまって、「あ、今は使っちゃいけない!」って気づいて制御する…といった微妙なサジ加減を、永野さんは絶妙に表現してくれていたなと思います。

1 2 >
vol.3
vol.4
vol.5