
人間は、時に停滞する。とりとめのない不安に苛まれる夜がある。それが簡単なことだとわかってはいても、動き出せない一日がある。“さみしさくん”は、そんな人々の不安な感情が大好物だ。しかもいったん喰らいついたらしつこくて、なかなかよそへ行ってはくれない。
本書『オトナ女子のための さみしさくんのトリセツ』は、私たちの日常のあちこちに潜む“さみしさくん”と上手に付き合うために今すぐできる53の方法を解説。著者の大森篤志は心理・行動分野の研究者であり、働く女性のための悩み相談サイト「BP.Labo」を運営する、女性のお悩み解決のプロだ。
はたして、さみしいというマイナスの感情を味方に変えて、プラスに働かせる“行動”とは? この一冊を通して、読者はきっと、自分自身と向き合うことになるはず。もちろん、ハッピーになるために。
取材・文 / 斉藤ユカ
撮影 / エンタメステーション編集部
さみしさは日常に溶け込んでいて、いろんな形でふと立ち込める。
大森さんは、女性のお悩み相談のエキスパートなんですよね。
大変おこがましいですが、そういうことになるかもしれません(笑)。簡単に言いますと、ほぼ毎日1回以上は働く女性の悩み相談を受けているんです。それがもう6~7年に なります。最初の入り口は、仕事のハラスメントも含めた労働条件の改善をお手伝いするというのが目的だったんですが、だんだん女性ならではの幅広い悩みが寄せられるようになりまして。恋愛だったり、夫婦関係だったり、友人関係だったり、自分のキャリアについてはもちろん、会社での派閥についてのことまでに広がっていって、あらゆる女性の悩みを聞かせていただいているのが現状です。
ご自身も、もともと女性から相談を持ちかけられるタイプだったんですか?
それも仕事の環境がそうさせたと言いますか。もともと、女性社員ばかりの会社で働いていたんです。上に立つ男性マネージャーがだいたいメンタル不調になってしまうほどの、女性だらけの職場で(笑)。私もその立場で仕事をしていたんですが、ある意味、天職だったんでしょうね、この状況を立て直そう! というところに意欲が湧きまして、逆に元気になっちゃったという。悩みがあるなら聞くぞ、どんどん聞くぞ! 俺が解決する! みたいに(笑)。本当に、何時間でも真剣に聞いていられたんですよ。
それは男性としては稀有な才能だと思います(笑)。
自分でもそう思います(笑)。

世の男性の多くにとっては、女性の小さな悩みの数々は取るに足らないものじゃないですか?
いや、私も若い頃はそう思っていましたよ。え、そんなことで悩むんだ!? って。そこは男性と女性の脳の仕組みの違いなどを学んでいく中で、なるほどこういうことかと、理解が及んでいったんですよね。
では、本書『オトナ女子のための さみしさくんのトリセツ』は、男性にとっては、さみしさくんを抱えたオトナ女子のトリセツでもありますね。
おっしゃる通りです。女性とまっすぐ向き合ってくれる男性が、より多く育まれるといいですね(笑)。
本書のイラストではとてもかわいらしく描かれている“さみしさくん”ですが、日常のあちこちに潜んでいるさみしさとどう付き合っていくか、とてもわかりやすく記されています。
時々暴走するんですよ、さみしさくんは。露骨にわかりやすい孤独感やさみしさは、今の時代にはおそらく多くなくて、日常に溶け込んでしまっているというか、いろんな形でふと立ち込めるんです。会社帰りに同僚を食事に誘ったとしましょう。「ごめんね、今日は彼氏と約束があるんだ」と言われたら、みんな笑顔で納得するんですよね。「じゃあまた今度ね」って言えるんです。だけど、その影でふと立ち込めるさみしさ。今までなんだかわからなかったモヤモヤした感情が、これもさみしさだったんだと、本書を読んで意味づけしていただくのもいいかな、と。納得すれば少しラクになる人もいると思うんです。
さみしいと感じたら、それは「動け」という身体からのサイン。
序章で印象的だったセンテンスが、さみしさは「つながりを実感するために必要なアクションをあなたに起こさせる役割がある」と。
何かに悩まれている方って、やっぱり動いていないんですよ。行動していない。やっとの思いでようやく一歩踏み出して、私に会いに来てくれるという感じなんですね。悩んだら、とくにかく動くことが大事なんです。今回の本も、基本的には行動をベースにしてアドバイスしています。悩みすぎて、考えすぎて、動き方がわからなくなっている場合もあると思うんですが、そこを少しでもリードして差し上げられる本であればいいな、と。
提案されているのは、実にシンプルなことですよね。ペンを手に取って「今記(今思っていること)を書く」、変化するために「美容院の予約をする」、孤独感を和らげるために「温かい野菜スープを食べる」。今すぐにでもできることばかりです。
なるべくすぐに行動できるものを厳選しました。悩んでいるとき、気持ちの解決はすぐには難しいところもあるかもしれないけれど、行動自体は簡単なんです。たとえば疎遠になった親に手紙を書くだけでもいいんですよ。その手紙は最終的に出さなくてもいいんです。まず行動を起こすことが大事ですし、思いのたけを吐き出すことが、ストレス解消にもなる。さみしさくんにまとわりつかれるとストレスになりますからね。

さみしいと感じている人は、つまり立ち止まっているんですね。
そうです。同時にそれは、「動け」という身体からのサインなんですよ。
自制心を高めてさみしさをコントロールするために「あえて、不便なことをしよう」という項では、「スマホを置いて散歩をしてみよう」と提案さていますが、案外勇気がいることですよね。事実、このインタビューも多くの人がスマホで読んでいるはず(笑)。
そもそもスマホでつながっている気になっているのが危険なんです。情報はたくさん入ってきますけど、本当につながっているかというと疑問です。SNSはその最たるものですけど、「いいね!」が欲しいが為に必死になる。自分の充実ぶりをアピールしたい。そうしないと埋め合わせられないさみしさがあるのかもしれないですね。だったらスマホを置いて、街へ出て、人や物事とみずからつながりに行く方が有益です。ただ、さみしいとみんなスマホで検索するんですよね、私どうしたらいいの? っていうことを(笑)。
それで大森さんのところにたどり着く(笑)。
はい(笑)。もちろんそれは大歓迎なんですけど、その数が減っていくことが一番いいことですからね。だから本書を自動車でいうスペアタイヤみたいな感じで、いつでも手に届く場所に置いて欲しいです。さみしいなと感じたときにページをめくってもらえたら、とにかく行動してみようという気持ちになれると思いますよ。

©大森篤志/飛鳥新社 イラスト・否アラズ

©大森篤志/飛鳥新社 イラスト・否アラズ
毎日トイレで「幸せ」と言うだけでも、幸福度は確実に上がっていくと思います。
「トイレで“幸せ”と言葉にしてみる」というのは、さっそく実践してみたいと思います!
ぜひ試してみてください。かのフロイトの性発達理論では、「幼児期になると排泄に快感を覚える」とあります。大人になるとその感覚をあまり意識しなくなるんだけれど、本来は排泄が快感であることを、言葉にすることで思い出してもらう、と。私たちは毎日、何度もトイレに行きますしね、簡単に続けられることですよ。
トイレに行くたびに“幸せ〜っ!”て言っていると、それこそ自分の脳を騙せそうです(笑)。
本当にそうなんですよ。これを続けるだけでも、幸福度は確実に上がっていくと思います。「自分の脳をだましましょう」の項にも書きましたが、恥ずかしがらずに実践することが大切です。

©大森篤志/飛鳥新社 イラスト・否アラズ

©大森篤志/飛鳥新社 イラスト・否アラズ
「さみしさくんのトリセツ」を突き詰めていくと、いわゆるポジティブシンキングが大切ということなんですよね。気分が上がれば、さみしさくんはいなくなる。
はい。その意味では、いろんな角度からの自己啓発本だと思っていただいてもいいと思います。考える方向をちょっと変えるだけで、毎日が変わる。それにこの本、面白いぐらい難しいこと書いていないですから、さらっと読んでいただけるはずです(笑)。
さみしくないふりをしていること自体が、よっぽどさみしいんですよね。さみしい人だと思われたくないから、ひとりでいる自分を見られないように努力をしたりする。そういう人、実際少なくないですもんね。
だから、さみしさを受け入れるところから始めないといけませんね。さみしいと感じることは、悪いことではないですから。いいエネルギーだから、それを利用してアクションを起こせばいいんですよ。
たとえばこの夏、どうしてもさみしさくんを振り払えない場合は、どうしたらいいでしょう?
遊びに行く相手がいないとしたら、お盆休みにでも実家に帰ってみるのはどうでしょう。お墓参りもいいと思います。血のつながり、地域のつながり、子供時代の自分と今の自分とのつながり、育った場所には「つながり」しかないですからね。懐かしいという感情って、さみしさを助長するように感じるかもしれないですけど、実はまったくそんなことはなくて、自分の後ろに続いてきている道を改めて感じることだと思うんです。
まさに本書でも提案されている「自分自身の棚おろし」ですね。
そうです。誰もひとりで生きているわけではないということが、よくわかると思いますよ。ルーツをたどると、今の自分がなぜこうなのかということに合点がいくと思いますし、そこに思い至れば、実際に気分がスッキリするはずです。自分自身の棚おろし、ぜひやってみてください!

大森篤志(おおもり・あつし)
心理・行動分野の研究者。一般社団法人全国行動認知脳心理学会 理事長。国家プロジェクト「働き方改革・女性活躍推進」に関わる講師・専門家としても活動(中小企業庁、全国中小企業団体中央会 他)。女性のみ50名以上の組織を運営してきた管理職の現場経験を持ち、20代から60代まで幅広い年代の働く女性が抱える悩みを解決してきた豊富な実績が強み。その強みに、最新の行動・認知・脳・心理の学術研究に基づく科学的な方法を取り入れ、働く女性に特化させた独自サポートを提供。テレビ・雑誌・企業等への監修及び出演も行う。自身が運営する働く女性に向けたWEBメディア「BPLabo Woman」は、月間120万PVを越え、月におよそ40万を越えるユーザーに読まれている。著書に『おとな女子のための さみしさくんのトリセツ』(飛鳥新社)がある。
BPLabo Woman
https://woman.bp-labo.com/
一般社団法人全国行動認知脳心理学会
https://acbp.or.jp/
関連書籍

『オトナ女子のための さみしさくんのトリセツ』
大森篤志(著)
飛鳥新社
さみしさくんを吹き飛ばす、カンタンで即効性のある方法を集めました。愚痴電話、休日が退屈、友達が少ない、カレシがいない、人間関係がうまくいかない、布団の中で涙がでる……。そんなツラい悩みがスーッと消えていく。53項目あるので、自分にあった方法が必ず見つかります。
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