モリコメンド 一本釣り  vol. 76

Column

夏代孝明 ネットシーンから登場したシンガーソングライター。表現者としての可能性を広げている彼は何者?

夏代孝明 ネットシーンから登場したシンガーソングライター。表現者としての可能性を広げている彼は何者?

天月-あまつき-、まふまふ、佐香智久など、投稿動画サイトの“歌い手”出身のアーティストが音楽シーン、アニソンシーンで大活躍しているのは周知の事実だが、彼の存在はその決定打になるかもしれない。この夏、配信シングル2作品「ジャガーノート」「エンドロール」をリリースする夏代孝明。総再生回数2000万回超えという驚異的な実績を持つシンガーソングライターだ。

大阪出身の夏代は中学生の頃からバンド活動をスタート。00年代恒の邦楽ロックをコピーしながら、シンガー、ソングライターとしての基礎を作りつつ、ライブハウスに通い詰める日々を送ったという。その最初のアクションは2012年にニコニコ動画に初投稿した「サリシノハラ」(オリジナルは、みきとPによる初音ミク楽曲)のカバー動画。その後も「夕方のりぼん」「少年少女モラトリアムサヴァイブ」などのカバー動画が話題を集め、瞬く間に人気の歌い手となる。さらに自身で作詞・作曲した「ニア」が動画サイトでヒットを記録するなど、ソングライターとしての才能も示すようになる。

「ニア」はシンガーソングライターとしての夏代のポテンシャルを証明する楽曲だ。その中心にあるのは、現代を生きる(主に10代〜20代の)リスナーの心に響く歌詞だろう。“ねえニア”という呼びかけるように始まるこの曲で夏代は、他者との比較でしか自分の居場所を実感できない我々について綴っている。「子供のころに見てた あの夢の続きがこんな未来につながってたこと キミはどう思う?」という問いかけに何かを感じないリスナーはいないだろう。しかし彼は、現状を憂うだけではなく、これからも生きていかなくてはならない「この地球(ほし)」に対する希望をしっかりと刻んでみせるのだ。リアルとファタジーが混ざり合うような世界観も、幅広いリスナーを獲得している大きな要因だろう。また、タイトな4つ打ちビートを軸にしたトラックとピアノ、ギターなどの生楽器を融合させたサウンドメイク、転調を効果的に使ったドラマティックなメロディラインなど、現在のJ-POP、J-ROCKのトレンドをバランスよく取り入れたプロダクションも素晴らしい。

2017年にTVアニメ『弱虫ペダルNEWGENERATION』オープニングテーマに「ケイデンス」「トランジット」が2クール連続で起用。2018年春には歌い手「天月-あまつき-」に提供した楽曲「きみだけは。」がドラマ「#(ハッシュタグ)」の主題歌に起用され(YouTubeの再生回数は600万超え)、さらに人気曲「ニア」「世界の真ん中を歩く」をモチーフとしたニンテンドー3DSのHOMEメニューを着せ替えられる「テーマ」を配信されるなどアニメ、ドラマ、ゲームなどとコラボレーションしながら活動の幅を大きく広げている夏代。その最新作が7月「ジャガーノート」「エンドロール」だ。

“抵抗できない圧倒的な力”という意味をタイトルに込めた「ジャガーノート」は、アコースティックギターの印象的なフレーズを軸にしたサウンドから始まり、サビに入った瞬間に一気にスピード感を増していくアッパーチューン。ヒップホップテイストを反映させる前半から力強いロックナンバーに変貌していくアレンジ、濃密な感情を込めたボーカルからは、夏代の新たな進化が感じられる。軸になっているのはやはり歌詞。“アダムとイブ”という神話的なモチーフを使いながら、自らが歌う意味と“ここからが本当の始まりなんだ”という意志を込めた「ジャガーノート」の歌詞はおそらく、現在の夏代の創作モードと強くリンクしているのだと思う。先行公開されたMVが35万回に迫る再生数を記録していることからも、その注目度の高さをわかってもらえるだろう。

一方の「エンドロール」はジャズ、ソウルミュージックのエッセンスを取り入れたロックナンバー。数年前から流行中のシティポップのテイストと豊かなストーリー性を含んだメロディのなかで描かれるのは、自らの人生を映画にたとえたリリックだ。鋭利なシニカル、どこか自虐的な思いを込めた歌は、多くのリスナーに衝撃を与えることになりそうだ。

身長178cmのスタイルと端正なビジュアルを活かし、神戸コレクショ ン 2017 SPRING / SUMMERに初出演、メンズ&レディースファッションブランド「hass」をプロデュースするなど、そのファッションセンスも注目の的。動画サイト、ドラマ、アニメ、ゲーム、ファッションをつなぎながら表現者としての可能性を広げている夏代孝明は今後、日本のカルチャーを象徴する存在になる可能性を十分に秘めていると思う。

文 / 森朋之

その他の夏代孝明の作品はこちらへ

オフィシャルサイトhttp://7246.jp

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