LIVE SHUTTLE  vol. 279

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チャットモンチー 潔いライブ。潔い終わり。最後のワンマンとなった日本武道館公演を振り返る。

チャットモンチー 潔いライブ。潔い終わり。最後のワンマンとなった日本武道館公演を振り返る。

「CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~」
2018年7月4日 日本武道館

チャットモンチーはデビュー以来、日本の女子バンドの歴史を更新し続けてきた。最後のワンマンの武道館も、そうしたチャレンジ精神に貫かれ、これまで見た事のない潔いライブとなった。

あえて“女子バンド”としたのは、チャットモンチーは今まで登場したどの女子バンドとも違う音楽作りをし、バンドのキャリアを築いてきたからだ。同時に、どの男子バンドとも違っていた。バンドという形態に限って言えば、前例のない道を歩んできた本当にレアな存在だ。そして、そのユニークなバンド・キャラクターは、女子だから構築できたのではないかと思う。

橋本絵莉子、福岡晃子、高橋久美子の3人で始まったチャットモンチーは、2011年にドラムの高橋が脱退。新ドラマーを迎えると思いきや、福岡がドラムに転向するという前代未聞の解決法を実行。その後も、奥田民生やアジカンの後藤正文をプロデューサーに迎えたり、「男陣」「乙女団」というサポート・スタイルを考案するなど、男子にありがちな見栄やプライドを捨て去り、女子にありがちな湿っぽさを排除して、チャットモンチーはひたすらメンバーによる音楽作りにこだわった。この男女を超えた姿勢が、結果、女子リスナーの大きな支持を集めることになった。

撮影 / 古溪一道

2018年7月4日、武道館の客席を見渡せば、そうした女子ファンたちがぎっしり詰めかけている。70%以上は女子だろう。入場時にメンバーからの感謝の気持ちとして、ライブ中に涙を拭くための特製ハンカチが配られ、女子オーディエンスたちの何人かは早くもそれを手に握りしめている。果たしてどんなライブになるのだろうか。

ステージの四方をすっぽり覆っていた白いカーテンが上がると、ステージの裏側を埋めたオーディエンスが見える。360°に開かれた、まっ白なステージだ。“CHATMONCHY”と書かれた大きなプレートが割れて、橋本と福岡が恐竜をイメージしたコスチュームで登場すると、360°から大きな拍手が巻き起こる。最新アルバム『誕生』の「CHATMONCHY MECHA」が流れる中、2人は左右二手に分かれてぐるりと一周しながら挨拶して、ステージ中央で合流すると、深々をお辞儀をしたのだった。

撮影 / 上山陽介

橋本はスタンドマイクの前に立ち、福岡はシンセサイザーの前に座って、「CHATMONCHY MECHA」と同じく『誕生』から「たったさっきから3000年までの話」が始まった。アルバムと同じ曲順だ。どうやら前半はニューアルバムからの曲が中心になるようだ。

コンピュータによるトラックと、2人の生演奏が混じったサウンドが武道館を満たす。緻密なトラックと、アナログな楽器の対比がとてもスリリングだ。たとえば「the key」では、橋本の弾く低音の効いたエレキギターが、メカニカルなトラックに肉感を与える。この対比は、2人になったからこそ得られたチャットモンチーの新しい魅力だ。

撮影 / 上山陽介

また福岡が「徳島のことから、今のことまでを書いた曲です」と言って始まった「裸足の街のスター」では、福岡はアフリカの楽器カリンバを、橋本は鍵盤ハーモニカを演奏。コンピュータとは正反対の“揺らぎ”のある楽器の選択は、チャットモンチーがバンドの歴史の中で獲得した独自の音楽作りの中核をなしている。それを最後のワンマンライブで思う存分、発揮するのを目の当たりにすると、本当に優れたバンドだったことを実感したのだった。

撮影 / 古溪一道

撮影 / 古溪一道

撮影 / 上山陽介

ゲストのDJみそしるとMCごはんが「お邪魔しま~す」とステージに現われて、共作した「クッキング・ララ」を一緒にパフォーマンスする。と、少し緊張気味だった会場が一気に和んだ。好きな食べ物の名前を織り込んでラップしながら、3人はステージを練り歩く。それを目で追うオーディエンスたちの表情がいい。♪本当のわたし、帰っておいで♪というやさしいリリックが、観客の心をほぐしていった。それはチャットモンチーの2人にとっても同じで、DJみそしるとMCごはんを送り出した後、リラックスして話し始めたのだった。

撮影 / 上山陽介

福岡 ほんまにたくさんの人が来てくれて、ありがとな。ここまでやってきて、味わったことのない気持ちじゃない?

橋本 うん、なんかとっても不思議な気持ち。説明しがたい。

福岡 形容するものが見つからない。っていうか、みんなに見守られてる気がする。来てくれてありがとぅ。

橋本 昔の曲、やるね。

福岡 こんないかついセットで、アコースティックって(笑)。

撮影 / 上山陽介

撮影 / 上山陽介

福岡のベースと橋本のアコギがイントロのアンサンブルを奏でると、驚きの拍手が起こる。10代の頃に作ったインディーズ時代の楽曲「惚たる蛍」(ファースト・ミニアルバム『chatmonchy has come』にも収録)だ。この日、初めての生楽器だけのサウンドが呼び起こすのは、懐かしさだけではない。痛みを伴うラブソングは、最初からチャットモンチーの大きな魅力だった。

この後、これも懐かしい「染まるよ」を歌って、前半は終了。白いカーテンが再びステージを覆い、それをスクリーン代わりにして、バンドの13年間のヒストリー映像が映し出される。下北沢シェルターや昨年のEX THEATER ROPPONGIでのライブ、『誕生』のレコーディング風景など、オーディエンスは思い出をたどりながら、笑ったり、静まり返ったり。

やがて白いスクリーンに、指揮棒を持った福岡のシルエットが浮かび上がった。カーテンが上がると、純白の衣装を来た福岡と橋本、さらには6人のストリングス“チャットモンチー・アンサンブル”が現われた。「majority blues」、「ウィークエンドのまぼろし」、「例えば、」の3曲を演奏。特に「ウィークエンドのまぼろし」は、ストリングス・アレンジが飛び抜けて素晴らしい。橋本が歌いながらギロをこすり、福岡がコーラスを付けながらシェイカーを振って、後半のスタートを飾ったのだった。

撮影 / 古溪一道

「すごくない? チャットモンチー、ついにストリングスと共演です。こういう音楽ができたことを感謝します。こんな初心者の指揮に合わせてくれて、ありがとう」と、福岡は嬉しそうに話す。「ストリングス・アレンジは、我らが乙女団の世武裕子!」の紹介と同時に、この日、客席にいた世武の姿がスクリーンに映し出される。大きな拍手が起こる。こうした仲間に恵まれて、2人は豊かな音楽の道を歩いてきた。ラスト・ワンマンライブに駆けつけた世武の気持ちは、オーディエンスにもしっかり伝わっている。

ここでドラムセットがステージ下から出てきて、ドラマーの恒岡章が位置に着く。サポートチーム“男陣”の一人だ。それまで座って聴いていたオーディエンスは、一斉に立ち上がって歓迎の声援を贈る。チャットモンチーが上京したときに作った初期の人気ナンバー「東京ハチミツオーケストラ」を、ストリングスを従えて演奏する。これほど楽曲に似合う舞台はない。♪ハチの巣みたいだ 東京~私はまだやわらかな幼虫♪と、オーディエンスは一緒に歌って大喜びだ。数ある“バンド上京ソング”の中でも、これほどトキメく歌はそう多くはない。

撮影 / 古溪一道

終わるとストリングスが去り、バンドの原点であるトリオ・スタイルになる。その強味をグンと前に押し出すようにして、「さよならGood bye」、「どなる、でんわ、どしゃぶり」と、「東京ハチミツオーケストラ」収録の傑作1stアルバム『耳鳴り』からのナンバーを立て続けに歌う。

トリオで聴く初期楽曲は、やはり格別のものがある。エッジーなリズムと、澄んだ橋本の声のマッチングは、女子バンド屈指の力強さがある。本編の最後で恒岡がスネアドラムでグルービーなセカンドラインを刻み出すと、ストリングスが戻ってきてオーディエンスが歓声を上げる。福岡が「みんな、ありがとう。最後に私たちのデビュー曲をやりたいと思います」と、「ハナノユメ」へ。コール&レスポンスを存分に楽しんだ後、DJみそしるとMCごはんも出て来て、出演者全員がステージに揃い、明るく幕を閉じた。そこには“ラストワンマンライブ”の悲しさはまったくなかった。

撮影 / 古溪一道

撮影 / 古溪一道

アンコールの1曲目はトリオ・スタイルで登場して、福岡が「みんなでこの歌を叫ぼうじゃないか!」とコメントして「シャングリラ」に雪崩れ込む。銀テープのキャノン砲が発射され、盛り上がりはピークに。チャットモンチーの名をシーンに知らしめたこの曲は、「ロックバンドのブレイクは、4つ打ちロックから」というギョーカイの鉄則に従うフリをして、実は変拍子を織り込んだ、このバンドらしいナンバー。“自分たちらしさ”を絶対に失わない意志の強さを感じて、改めて嬉しくなる。続く「風吹けば恋」で、バンドはさらに弾ける。ドラムとベースが織りなすリズムバンプから、歌に戻る際の橋本の尽きないパワーに圧倒されていると、僕の隣で一緒に歌いながら観ていた女子オーディエンスがついに泣き始めたのだった。

恒岡が去り、残った2人がステージのヘリに座って話し始めた。

撮影 / 上山陽介

福岡 (橋本)えっちゃん、もうしゃべらん気だろ?

橋本 そんなこと、ないよ。

福岡 今、やさしい言葉かけられたら・・・もうえっちゃんヤバい、めちゃヤバい。

(その後、お客さんの歓声で思わず泣いてしまう)

橋本 (福岡の肩を優しくさする)

福岡 私がヤバかったわ。えっちゃん、なんか言い残したことないんですか?

観客 ある~!

福岡 おめーらに聞いてねーよ。でも言ってくれ~! ありがとう。実際こんなしゃべれんくなるとは思わんかったな。

橋本 うん。本当ねぇ、歌うだけで精一杯。

福岡 ほんまに楽しかった。ありがとう。

他愛のないやり取りが、武道館中に沁みていく。僕はバンドとファンの在り方をたくさん見て来たが、やはりチャットモンチーは特別だ。と、2人がこんなことを言った。

橋本 チャットのお客さんは、ホンマに面白くてやさしくて。お客さんはバンドを映す鏡ってよく聞くやん。だから、そういうことなんかなと思って。

福岡 ほんまや。

橋本 最後の曲になりますけど、どういう精神状態になるかわからんかったから、もしかして歌えないかも・・・歌詞を出しますので、みんなで歌って欲しいなって思う曲です。「サラバ青春」。

撮影 / 古溪一道

ラストナンバーは福岡のピアノだけで、橋本が歌う。涙をこらえ、涙を拭かず、武道館が一体になる。たった2人で始まったラストライブを、たった2人で締めくくった。本当に潔い終わりだった。

武道館の2日後、僕は渋谷のパルコギャラリーXの『完結展』に足を運んだ。MVを黙って見つめる人、ポスターをじっと眺める人。不思議な静けさに満たされた会場だった。こうしてチャットモンチーは完結に向かっていくのだった。

撮影 / 古溪一道

撮影 / 上山陽介

文 / 平山雄一
撮影 / 古溪一道、上山陽介 メイン写真 / 上山陽介

「CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~」
2018年7月4日 日本武道館

セットリスト
01. CHATMONCHY MECHA
02. たったさっきから3000年までの話
03. the key
04. 裸足の街のスター
05. 砂鉄
06. クッキング・ララ feat. DJみそしるとMCごはん
07. 惚たる蛍
08. 染まるよ
09. majority blues
10. ウィークエンドのまぼろし
11. 例えば、
12. 東京ハチミツオーケストラ
13. さよならGood bye
14. どなる、でんわ、どしゃぶり
15. Last Love Letter
16. 真夜中遊園地
17. ハナノユメ
<アンコール>
18. シャングリラ
19. 風吹けば恋
20. サラバ青春

リリース情報

■「CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~>が10月24日に映像作品としてリリース決定! DVDそしてBlu-rayとしてリリースされます。

■10月31日に音源と映像のベスト盤がそれぞれリリースされることも決定しました。音源ベストは『BEST MONCHY 1 -Listening-』と題して、そして映像ベストは『BEST MONCHY 2 -Viewing-』と題してリリースされます。

詳細はオフィシャルサイトにて。

チャットモンチー

2005年メジャーデビュー。2007年リリースの2nd AL.『生命力』に続き、2009年リリースの 3rd AL.『告白』は、オリコン初登場 2位を記録。現在のロックシーンを代表するバンドへと成長を遂げる。2011年にDr.の脱退により、橋本、福岡の2ピース体制となる。2014年には、サポートメンバーを迎えた体制での活動を発表し、6th AL.『共鳴』を2015年にリリース。そしてデビュー10周年の日本武道館公演を行い、2016年には郷里徳島で主催フェスを2daysで初開催。大成功を収めた。デュオ“橋本絵莉子波多野裕文”(橋本)やユニット“くもゆき”(福岡)での活動、CM歌唱(橋本)や徳島での多目的スペース“OLUYO”の運営(福岡)など、それぞれ多彩な活動を行っている。2017年11月23日、2018年7月をもって活動を「完結」させることを発表した。2018年6月27日に、ラストアルバム『誕生』をリリース。

オフィシャルサイトhttp://www.chatmonchy.com

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