黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 18

Interview

ファミ通表紙 松下進氏(中)イラストレーターとして独立、そして独学の下積み時代

ファミ通表紙 松下進氏(中)イラストレーターとして独立、そして独学の下積み時代

「お前は絵が好きかもしれないけど、お前の絵はまだ“好き”までいってない」

やっぱり表現力とかが違うわけですか。

松下 なんかね、(そのポスターを)遠くに置いたときに僕の絵よりも見映えがいいんですよ。どこが違うんだろうって悩んでいると、そこのボスに「お前は絵が好きかもしれないけど、お前の絵はまだ“好き”までいってない」って言われましてね。で、朝会社に来ると『ELLE』(注18)とかのモード系のファッション誌を机の上にボーンと置かれて、「俺がいいって言うまで、この雑誌の中から自分がいいと思う写真をスケッチしてろ」と。そこからまたやらされたわけです。でも、その人はデッサンの達人でね。両手で描ける人だったんです。

注18:日本をはじめ世界各国で刊行されているフランスの女性向けファッション雑誌。

両手で絵を描けるんですか? すごい人ですね。

松下 ええ。左手と右手、両方使って絵を描くんですよ。しかも、線の一本一本が生き生きしていて、今まで見たことのないような描線を描く人だったんです。これはすごい人だ、こんな人に巡り会えてラッキーだと思いましてね。「分かりました」って言って、やりだしたんです。

鉛筆の持ち方から直されましたよ。その頃の僕は鉛筆の下の部分というか、割と芯に近い方を握っていたんです。でも、それじゃあ細かことは描けるけど、ストロークで描けないだろと。もっと長く持つんだと。そこから直されたんです。でも、いきなり持つところを変えると、やっぱりものすごい描きづらいんですよ。

そうでしょうね。

松下 だから、慣れるまでずいぶん時間がかかったんですけど、不思議なことに、やっていくうちに「そうか、ここのちょっとした力加減で、これだけ描線が変わってくるんだ」って、いろいろ分かってくるんですね。で、しばらくそういうことをやっていたら、今度のプレゼンのポスターのカンプを描いてみるかっていう話になりまして。どうせ芸大出のアイツが受かるんだろうなとか思いながら描いたんですけど、その僕のカンプがプレゼンで通ったんですよ。これはなかなかいいよって、すごいほめられましてね。それが写真になってポスターになったんです。

「お前さ、最初にセンターラインを引くんだよ!」

それはご自身で何が変わったんだと思われますか?

お気に入りの珈琲店にて

松下 レイアウト感覚がまず変わったですね。僕がいまだにやっていることなんですけど、そのボスに「お前は最初に絵を描くときに、この紙のどこを見て描いてんだよ」って言われたことがあったんですよ。「いや、どこを見てって言われても」ってなっているとですね……。

「じゃあ、この女の全身を描くときに、どこから描くんだよ」
「いや、頭からですかね」
「どこに頭描くの?」
「この紙だったら、この辺ぐらいですかね」
「お前さ、最初にセンターラインを引くんだよ!」

……って言われたんです。まず、センターラインをピーっと引いておけば、構図なんて簡単に決まるだろと。まあ、ちょっとしたコツなんですけど、僕は「なるほど~」となったんですよ。そんな風に教わったのは初めてでしたからね。というか、それまで人からあんまり教わることってなかったんです。

その時点でもう描けていたわけですしね。

松下 ええ。でも、そう言われると「ああ、そうか」って納得するじゃないですか。センターが決まっていたら、いろいろ置きやすいでしょ。「だから昔の絵でも、ちゃんとスケール感がこうあってさ、こうやって置いて描いてるんだよ」「いろんなものが周りに描かれても、みんなセンターに目がビッといくようになってんだよ」とかね。そうやって、いろいろ教わったんです。

すごい話ですね。それって、すべての仕事に通じますよね。

松下 だと思いますね。どこに主眼を置くかとか、どこを目指しているのかとか、全部そこに繋がってくるんです。成功してきた人って、目標がブレてないっていうじゃないですか。だから多分ね、同じようなことだと思うんですよ。

こう言ってしまうとちょっと失礼ですけど、そこにいくまでには、やはりちょっとお時間がかかったわけですよね。

松下 かかりましたね。

< 1 2 3 4 >
vol.17
vol.18
vol.19