『オフィスハック』は、巨大な企業を舞台に、特殊能力者を集めた人事部の特殊部隊、通称「四七ソ」が悪徳社員を成敗していくスパイアクション小説。襲いかかる悪徳社員たちを容赦なく銃で次々と倒していくさまは痛快でクール! 現実と非現実が混在する、この絶妙な世界観を生み出したのは、「ダイハードテイルズ」に所属するクリエイター、本兌有と杉ライカ。2010年にTwitter上で小説「ニンジャスレイヤー」の連載を開始し、シリーズ累計150万部の大ベストセラーに。SNS発の人気作家となった二人に本作への思い、そしてテクノロジーとクリエイターの未来について話を聞いた。
取材・文 / 四戸咲子
撮影 / エンタメステーション編集部
解雇は“社会的な死”なんかじゃない。会社なんて世の中の小さな箱庭

©本兌有・杉ライカ/幻冬舎 イラスト:オノ・ナツメ
とても楽しく読ませていただきました! でもオフィスでの銃撃戦という光景が当たり前のように出てきて、最初は「え?」と驚きました。「これ本当に撃っているのかな」と。
本兌有 まずそこからですよね(笑)。
杉ライカ 撃って相手を殺すと、どういう読み味になるかっていうのは最初すごく考えましたね。そこにこだわりすぎちゃうと、人を殺すことの重大さとか葛藤っていうほうに行ってしまうんですけど、そっちは行きたい方向じゃない。そっちに行くと、だいたい2、3話ぐらいで主人公が追い詰められてしまって、物語の行き先が見えてしまうので(笑)。こういう場面を普通に書いているということは、言いたいことはそこではない、ということを読者の方に考えてほしかったので、あえて説明を省いているんです。これがこの世界では当たり前なんです、っていうことで進めていきました。
書かないことで、世界観を提示するという。
杉 そうですね。悪い奴とかムカつく奴がいるから撃って殺しました、だと、さすがにエンターテインメントとして底が浅すぎますし。
本兌 逆にちょっとおかしい読み味にすることで、現実の問題をくっきり感じ取ることができるようにしたかったんです。銃で撃って殺してはいるけど、考えていることは俺たちと同じだな、みたいな。
杉 実際社内でも、相手を“銃で撃つ”みたいなことはしてるでしょ、って。特に若い世代だと、会社からの解雇を“社会的な死”みたいなものだと捉えている人もすごく多くて。学校と同じで、〈会社=世界〉だと思っちゃうんですよね。でも、実はそんなたいしたことじゃないよ、会社なんてこんなおかしな小さな世界ですよ、というのを箱庭的に見てもらいたいという思いがありました。
あくまでも会社の中だけで行われていることだよ、と。
本兌 そうです。なので、社内的には宿敵でも、会社の外に出たら、要はプライベートでは戦わないというルールも入れたくて。
杉 香田が会社帰りに寄った映画館で偶然、宿敵と隣り合わせになって、不穏な空気にはなるんだけど、映画はちゃんと観るし、終わっても特に追いかけたり、攻撃したりはしない、というシーンを書きました。
巻末にもちゃんと書いてありますもんね。「社内の法が社会の法に勝ることはありません。現実とフィクションは混同しないように」と。
杉 混同してしまう人がたまにいるので(笑)。とはいえ、最終的には、会社のために一生懸命やっている人が報われる話にしたい、というのが根底にあるんです。
本兌 誠実に向き合っている人たちには救いをもたらしたい、と。
杉 だから会社員として徹底的に悪いことをやっている人たちを敵にしました。西部劇に出てくるような悪者(笑)。そういう奴は撃っちゃってもいいんじゃないかと。

ちなみに作中では、そういう悪徳社員を懲らしめることや、銃で殺してしまうことを“調整”と言いますよね。この言葉は?
本兌 これは杉が前職の時に、何か揉め事を解決する際、いつも「社内調整する」って使っていたんだよね?
杉 うん。自分じゃなくて相手先なんだけど「すいません、その件はちょっと社内で調整してきますんで」ってよく言っている人がいて。いつまでたってもまとまらないし。調整っていったい何だよ、って思ってイライラしていたんです。でもそんな時、香田ちゃんみたいな部署が頑張ってるのかなと思えば、少し気持ちが穏やかに……(笑)。
就職は超氷河期世代。社会に存在を許されない感じがした。
主人公の若手社員・香田、彼のバディの渋いおじさん・奥野をはじめ、登場人物のキャラクターがすごく際立っていますよね。巻末には主要キャラクターの詳しいプロフィールもあって。キャラクターはどうやって作られているんですか?
本兌 バディものにしようっていうのは最初にあったよね?
杉 あったね。動かしやすいし、スーツを着せたかったから2人のほうが映えるだろう。さらに歳の差を出すと、世代ごとのギャップも出せるな、と。
本兌 とくにおじさまキャラの奥野さんはドラマ「バイプレイヤーズ」の女子人気が高かったから、これは絶対いいな! と思いましたね。
「四七ソ」の室長が決めたルールとして毎日必ず「おやつタイム」があって、その時におまんじゅうを食べる奥野さんがほのぼのとして可愛らしいなと思いました(笑)。
杉 「おやつタイム」のシーンは絶対入れたかったんですよ。銃撃戦など殺伐とした場面が続くので、バランスを取っているというのもありますし、かっこいいスーツのおじさんのそういう姿って可愛いじゃないですか。よく海外のバディもののドラマでも出てくるんですけど、「ずるい! これは絶対入れてやろう!」と思っていました(笑)。

©本兌有・杉ライカ/幻冬舎 イラスト:オノ・ナツメ
本兌 あと、「四七ソ」の紅一点で鉄輪という女の子が出てくるんですが、それはドラマ「ごめんね青春!」の満島ひかりさんをイメージして作ったんです。いろんな映像から最初にイメージを持ってきて、インスパイアしたりもしていますね。
杉 そう、小説を書いている時に思い浮かべているイメージは基本、実写なんです。シーンの描写も、カメラでこう撮って…みたいな感じで決めながら書いています。
たしかに読みながら、頭の中で映像が浮かんできました。そこまで映像化をイメージしているなら、あとはもう、実写化するだけですね!
杉 そうなるといいんですけど(笑)。最初から予算規模まで考えて書いたので。
本兌 今の日本の制作体制ではこのシーンはできないからやめようとか、格闘技はダサくなる可能性があるから実写にあんまり向かないよねとか(笑)。
杉 銃だったら、かっこいいし、さまになるよね、って。最小規模でも作れるように、爆発も、とりあえずオフィスでできるレベルにしよう、と(笑)。
本兌 なので実写化はぜひ、期待したいところです!
次に、創作についてお聞きしたいのですが、お二人はどうやって小説を書いているんですか?
本兌 作品ごとに違うんですけど、『オフィスハック」はまず二人で、こんな話でこんな展開にしようっていうのを会話の中で詰めていって、まず杉がガッと書いて、それを僕のほうで直しを入れて、完成させる、という感じでしたね。
杉 ドキュメントはクラウドに置いて、2人で同時にいじったりしてますね。だから相手がどこを直してるかもリアルタイムで見えるんです。
本兌 Googleドキュメントはすごく便利ですよ。
お二人はもともと作家になりたかったんですか?
本兌 学生の頃はそうですね。でも当時って、好きなものに全然需要がなかったし、自分も経験が浅く応用がきかなかったので、じゃあ今の世相を捉えてこんなことをやろう、みたいな柔軟さもなかったので……。
杉 俺も小説書くか、ゲームを作るか、翻訳家にでもなりたいな、と。で、95年ぐらいからインターネットが普及しはじめて、これで夢の未来だ! って思ってたんです。当時、クリエイティブなことをしていた人たちって、「2、3年後ぐらいには現在のようなクリエイターがユーザーに直接発信できる世界になるだろう」って頑張ってたと思うんですよ。でもそんな世界は全然来なくて。この進歩速度だと、思い描く未来にはあと50年ぐらいかかりそうだって2001年ぐらいの段階で気づいて、若干絶望して(笑)。普通に就職するなり、創作をやめたりしていた気はしますよね。
本兌 結果、それから18年ぐらいかかっちゃいましたからね。
私はお二人とほぼ同世代なんですが、就職は超氷河期でしたよね。就職で躓いて、夢も希望もそんなに持てないというか……。
杉 全然持てなかったですね。
本兌 うん、ひどかった。なんか、社会に存在を許されない感じで。普通にやる気も実力もあって、しっかり勉強してきた人でも、入口がないから入れてもらえなかった、みたいなことが多くて。そのままタイミングを外してしまっている人たちが多いと思うんですよ。世代として、自己評価が今も低くて……僕も、何かというと発想が卑屈になりそうになる。