黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 10

Interview

ゲームデザイナー上田文人氏(下)様々な苦労を経て作られた『ワンダと巨像』 そしてゲーム開発において第一に考えるものとは?

ゲームデザイナー上田文人氏(下)様々な苦労を経て作られた『ワンダと巨像』 そしてゲーム開発において第一に考えるものとは?

アイデアとデザインの両方のバランス感覚を満たす

2017年11月 PlaydeadのArnt Jensen氏と

なるほど~。僕は『ICO』の敵を倒したあとのふわ~っとした黒いモノとかに、いろんなイマジネーションを感じるわけですよ。上田さんなりの異形のものというのは、そうした目に見えるような見えないようなものだ、みたいな風に思っていたんですけど、それは作りやすくするためにそうしている部分もあったりするわけですか。

上田 そうです。それがすべてとは言わないですけど、アイデアとかデザインはそういうものだと自分では思ってます。両方を兼ねるというか、両方の条件を満たすというか。いいデザインっていうのはそういうものだと思っています。

まさに宮本茂さん(注40)がおっしゃっているようなことですよね。なるほど、素晴らしい。ただ、僕はああいう子供の頃に怖かった何かみたいなものを感じさせるところが、上田さんのイマジネーションのすごいところなのかなとも思うんですけど。

上田 いろいろな理由があります。例えば『ICO』の敵でいうと、どこでも出現して、どこで消滅しても不自然ではないっていう要求を実現できるデザインアイデアです。ただそれだけではなくてミステリアスな部分を持ったものというか、含みを持ったデザインのものを選びがちっていうのはありますね。分かりやすい表現ではなくて、言葉は悪いですけど少し煙に巻くというか、そういう表現を好んでしまうところが。それは多分、現代アートをやっていた悪い癖かもしれませんね。

 

注40:『スーパーマリオ』シリーズ、『ゼルダの伝説』シリーズをはじめとする数々の名作を世に送り出したゲーム業界の生ける伝説。現在は任天堂の代表取締役 フェローを務める。

SCEを辞めた理由

ちょっと話を現実的に戻しますが、SCEをお辞めになったのはなぜだったんでしょうか。

上田 理由はひとつではないですけど、自分のキャリアであったり、作りたいものであったり、作り方であったりの部分で、よりよいモノを作るためには独立した方がいいんじゃないだろうかと。答えだけでいうと、そうなります。

『ICO』や『ワンダと巨像』の時代は、社内的に優先度がそれほど高くないプロジェクトだったということもあって比較的チームの自由度が高かったんですが、当時制作を進めていた『人喰いの大鷲トリコ』の時代になってくると、さまざまな要因も重なって、座組であったり制作環境のコントロールがチーム主体でできない状況になっていったんです。 そういう理由もあって、独立することにより会社との関係をもう少し対等に近づけることができれば、よりよい制作環境にもっていけるんじゃないかっていうのもありました。

それと、SCEでは1年毎更新の契約社員に近い形だったんですね。

方向性としては「ちゃんと売れるものをみんな作りましょう」、「売れたらちゃんと還元します」っていう。それは僕的にもすごくモチベーションが上がるし、自分たちにも厳しくなれるので、いいなあと思っていたんです。そこをもっと突き詰めて、ビジネスに対しての責任を持つっていう意味でも独立してプロジェクト全般に責任を持ってやったほうがいいんじゃなかろうかってのはありましたね。

でも、リスクもあるしお金のこともあるし、躊躇はなかったですか。

上田 それはないですね。SCEに入るときもそうでしたけど、普通は社員になれって言われたら「よろしくお願いします」となることが多いと思うんです。でも、先ほど話したように当時の僕はまったくそんなことは思わなかったんですね。気持ち的にはその頃とあんまり変わってなくて、そういうところが、歳を取っても変わらずあるのかなあっていう風に思いますね。もちろん、いろいろな人に相談した結果ではあるので、僕の独断で「はい、辞めます」っていう形ではなかったですけどね。

自分たちがプレイヤーとして楽しめるものを作るというのが第一

2017年グランドキャニオン

となると、もう新作はかなり進んでいるわけですか?

上田 そこはまだ言えないんですけど、そうですね。いろいろ考えて動いてはいます。いずれいい時期に発表したいですね。

ゲームの世界でいうとスマートフォンが主戦場になるとか、ライフスタイルそのものが変わりつつありますけど、上田さんとしては家庭用ゲームや、オンラインを中心にコンテンツを考えているというコンセプトは変わらないんでしょうか。

上田 変わらないコンセプトがあるというよりは、自分たちがプレイヤーとして楽しめるものを作るっていうのが第一にありますね。流行りのものや売れてるものを作るっていうのも決して間違ってはいないし、それを否定する気はないです。ただ僕の場合、ゲームを作っていくのは大変だと思っていて、自分たちがどうしても遊んでみたいとか体験してみたいというアイデアじゃないと、その大変さを乗り越えられないというか、なかなかモチベーションが続かないんです。なので、スマートフォンだったり、まったく違ったジャンルのものでも、いちプレイヤーとして僕が遊んでみたいなあと、そういうものがあったらいいなあと思うものであれば他の表現にもチャレンジしてみたいなと思います。

上田さんの作品は、発表から完成まで、すごく時間がかかってしまうことがありますけど、それは自分が作りたいものを作るためで、どうやっていいものにするかということに、ご自身やスタッフのモチベーションを費やしているからなんでしょうか。

上田 結果的にはそうですね。ただ、作っている自分たちからすると、当たり前のことを当たり前にやるっていうのを繰り返しているだけです。もちろんできるだけ高品質なものを作りたいっていう気持ちも当然ありますけど、作っているときはあんまりそういう意識はなくて。むしろ最低限これくらいはやっておかないと、お客さんが手に取って遊んでくれたときにクレームがくるんじゃないかっていう恐怖心で作ってますね。なので、飛びぬけて高水準なものを時間をかけて作っているっていうよりは、このままじゃ出せません、出せないから仕方なく時間がかかってしまったというのが自分たちの認識ですね。

結果的に時間がかかっているものが多いですけど、『ワンダ』にしても『トリコ』にしても、『ICO』より短く作ろうというか、そういうタイムスケジュールを目指して考えていた企画でした。結果的にはその通りにはなってないですけど、期間をかけないといいものが作れないとはまったく思わないです。むしろ、モチベーションだったりテンションだったりを維持するためにも、できるだけ早く形にして、できるだけ早くリリースしたいという気持ちは常にありますね。とはいえ、中途半端な出来損ないみたいなものを出すのだけはやっちゃいけないと思いますから、そういう選択はしないですけど。

今日はとてもいいお話を聞かせていただきました。どうもありがとうございました。

撮影 / 北岡一浩 取材協力 / 仁志睦

著者プロフィール:黒川文雄【インタビュー取材】

くろかわ・ふみお
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDEにてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japan(現LINE・NHN PlayArt)にてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。アドバイザー・顧問。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。株式会社ジェミニエンタテインメント代表。DMMオンラインサロンにて「オンラインサロン黒川塾」を展開中。
黒川塾主宰。ゲームコンテンツ、映像コンテンツなどプロデュース作多数。

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