『007 サンダーボール作戦』

『007 サンダーボール作戦』
20世紀フォックス ホームエンターテイメント
1,905円+税 ’65年公開
監督:テレンス・ヤング
出演:ジェームズ・ボンド…ショーン・コネリー
エミリオ・ラルゴ…アドルフォ・チェリ
ドミノ・ダーヴァル…クロディーヌ・オージェ
ボンド映画らしい愛すべきA級のB級感が漂う代表作
今年はファン待望のシリーズ第24作が公開される記念すべき『007』イヤー。だからというわけでもないが、半世紀にも及ぶ史上最長シリーズを振り返って、個人的にボンド映画の、そして、思い切ってスパイ映画のオールタイム・ベストに推したいのが『サンダーボール作戦』(’65年公開)だ。なぜ、マニアの評価が高いシリーズ第1作の『ドクター・ノオ』(’62年公開)や『ロシアより愛をこめて』(’63年公開)や『ゴールドフィンガー』(’64年公開)を差し置いて、この無駄に長く(とは言え130分は『スペクター』より18分も短い)派手な演出が売りの大ヒット作(’65年の世界興収でトップの『サウンド・オブ・ミュージック』に次ぐ記録を達成)を選ぶかと言えば、色々な意味でボンド映画らしい愛すべきB級感を漂わせているから。正確にはA級のB級とでも言おうか。
すでに人気と知名度と話題性は超A級なのに、細部はけっこういい加減でラヴ・シーン、否、ずばりセックス・シーンは客層を選ぶ成人映画並みにエロいのである。まず、『ロシアより愛をこめて』で初登場するも、途中版権問題がこじれて一旦姿を消し、最新作『スペクター』で久々に復活を遂げた悪の組織“スペクター”の野望は、悪質にして単純明快。略奪した核爆弾を楯にNATOから1億ポンド相当のダイヤモンドをせしめること。過去を懐かしく振り返るのではなく、東西冷戦の真っ直中にいた時代のリアルな空気感を話のテコに利用したとはいえ、ダイヤモンドが目的なんてわかりやすすぎる。実戦部隊の頭、ラルゴを演じるのがオスカー級の演技派ではなく、いかにも悪役然としたイタリア出身の怪優(実は映画監督でもあった)アドルフォ・チェリなのもいい。
それより何より、ボンドが仕事先で出会った女と速攻で寝るのがいい。手始めに潜入したスパで知り合った女性スタッフをサウナに連れ込み、服を脱がし、あちらから接近してきた“スペクター”の手下、フィオナまでもベッドに監禁する。自らボンドのポロシャツをたくし上げ、ショーン・コネリー自慢の胸毛を観客の眼前にさらすフィオナ役のルチアナ・パルッツィは、セクシー度においてシリーズ最強。やけにおしとやかでボンドをいい人にしてしまう善玉ボンドガールのクローディーヌ・オージェなど足下にも及ばない。クライマックスで展開する水中での攻防戦は、公開時、残酷すぎるとクレームが付いたが、今思えばどうやって撮影したのか不思議な渾身のシーン。アクション映画で一時代を築いたテレンス・ヤングの代表作として、やはり、本物のA級ライセンスを進呈したい。
文 / 清藤秀人
『ボーン・アイデンティティー』

『ボーン・アイデンティティー』
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
1,886円+税 ’02年公開
監督:ダグ・リーマン
出演:ジェイソン・ボーン…マット・デイモン
マリー・クルーツ…フランカ・ポテンテ
アレクサンダー・コンクリン…クリス・クーパー
例えるならグッド・メロディを聴かせるアメリカン・ロック
世界を股にかけるスパイが、ハーバード大学中退のエリートで、童顔&善人顔した、運動神経とは無縁の、とろそうなもっさり男優(私個人の印象ですので、悪しからず)では、どうにもサマになるまい、と決めてかかっていた。けれど、あまりに熱心に「絶対に面白いから!」と薦められたもので根負けし「まぁ、ダメなら途中でやめればいいや」くらいの気持ちでDVDを観始めたら……まさかの大当たり!! 「なんで今まで観なかったんだろう」と、すっかり手の平返しで、それまでどーでもよかったマット・デイモンまでが素敵に見えて好きになった。現金なものである。
シリーズ初作『ボーン・アイデンティティ』に、まずはやられた。記憶喪失の男が、自分の正体を暴くために奔走し、見つけていく“自分の断片”に戸惑いつつ受け入れていく姿は、ダサいセーター姿がお似合いの普通の男デイモンが演じてこそのリアリティにあふれている。なぜか素手で警官を倒せて、銃の扱いに慣れていて、偽造パスポートを何冊も銀行の金庫に入れている俺って何者? という自身に対する問いかけを、観ている私たちも共有しながらストーリーは進んで行く。その緊張感がたまらない。この男は誰? この男に何があったんだ? と。
シリーズ3作(デイモンが出演していない『ボーン・レガシー』は除く)を通じて、抑えの効いたトーンで統一され、華やかさもきらびやかさも艶っぽさもないが、とことん実直でストイック。アクション・シーンやカー・スタントも、多くがCGに頼らない生身のもので、その計算され尽くした動きの美しさや展開構成など、あたかも伝統を守る匠の技のごとき、である。よくもこれだけ地味渋なスパイ映画がハリウッドに作れたなぁ、と思う(2、3作目はイギリス人監督ポール・グリーングラスがメガホンを取った)。
ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドもストイックだが、彼には英国の美学に基づく洒落たダンディズムがある。暴れて乱れたトム・フォードのスーツをクイッと整える姿に胸をズッキュ—ンと射抜かれる女性が続出だ。が、ボーンはそうじゃない。“やさしくて強い男”の典型だが洒落てはいない。例えるなら、ストレートな音で普遍的なグッド・メロディを聴かせるアメリカン・ロック。対するボンドは、伝統を活かしつつ今風の洗練味も備えたブリティッシュ・ロック、というところ。うーん、どちらも甲乙付けがたいから、いっそのこと、オースティン・パワーズに寝返ってみるのもあり、か!?
文 / 赤尾美香
『キングスマン』

『キングスマン』
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
4,743円+税 ’14年公開
監督:マシュー・ヴォーン
出演:ハリー・ハート/ガラハッド…コリン・ファース
アーサー…マイケル・ケイン
ゲイリー・“エグジー”・アンウィン…タロン・エガートン
『007』の全魅力に驚愕アクションを加えた英国スパイ映画の新世界
そもそもアクション系のドンパチ映画があまりタイプではない筆者(変身ロボットシリーズとか)。でも、公安ものとかスパイものは別腹。だって、社会的な問題や闇、実際にはないだろうど派手な肉体アクションが見られるから。特にスパイものは、その手の要素が満載で、クレイグ版『007』シリーズはパーフェクトだと思うのです。が、しかし、ほかに何か、と聞かれると、『ミッション:インポッシブル』シリーズとか『MOZU』シリーズとか……。うーむ、ちょっとクレイグのジェームズ・ボンドに似てるかも。ガチガチに硬派な社会派の面と、無茶ぶりアクションがあるから。
そこにキラ星のように登場したのが、’14年公開のイギリス映画『キングスマン』。イギリスのスパイものとしては新しい世界観を創り出した作品として、今秋日本でも公開されスマッシュヒットを記録した作品。では、この作品の何が素晴らしいかというと、ガチガチすぎないけど硬派で、『007』へのオマージュが満載ということ。
ロンドンはサヴィル・ロウ。高級紳士服の仕立て屋が並ぶ中、キングスマンという店にはある秘密が。そこは実は国家に縛られることなく世界平和のために暗躍するエリートスパイ集団「キングスマン」の拠点だった。見た目英国紳士のハリーもまたその一員だったが、ある日仲間が暗殺されたことによって新人のスカウトに乗り出すことに。そこで選ばれたのは、驚くべき身体能力を持った青年エグジー。彼にスパイとしてのトレーニングはもちろん、英国紳士としての作法も教え込み、一人前にすべく奮闘するハリー。だが、そんな時、世界を破滅に導こうとする悪の組織が動き始めていた。
というストーリー。『007』がほかのスパイ映画と違うのは、英国紳士たるお作法や雰囲気、ブリットユーモアを漂わせているところ。ところが、この『キングスマン』はそれが全て詰まった上に、とんでもない驚愕アクションの数々を入れて、英国スパイ映画の新世界を切り開いてしまったことが最大のポイントだろう。コリン・ファース演じるハリーのアクションやユーモアはもちろん、ガジェットも魅力的で007シリーズにひけをとらない。でもこの作品、アクションコメディとして作られているだけに、悪役にそのコメディリリーフを託し、恐るべき武器を持つ暗殺者や陰謀の無茶ぶりなどで笑いをとる。そのバランスが最高にいいのだ。続編製作の噂もあるだけに、今後も愛し続けたい一作。余談だけど、エンディング・テーマ曲「ゲット・レディ・フォー・イット」は英国を代表するグループ、テイク・ザットの書き下ろし。気持ちがいいくらいに英国色に染まった作品と言えるだろう。
文 / よしひろまさみち