黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 9

Interview

ガンホー代表・森下一喜氏(下)弟の影響とオンラインゲーム。「チャレンジをできなくなるほうが怖い」

ガンホー代表・森下一喜氏(下)弟の影響とオンラインゲーム。「チャレンジをできなくなるほうが怖い」

「ハズれるのは怖い」と思ってしまうことの方が怖い

御社にはいまだにKPI(注14)とか、営業目標みたいなものがないと思うんですが、やっぱりゲームへの愛ですか?

注14:Key Performance Indicator・目標達成のための重要指標

森下 僕らは別に金儲けだけをしたいんじゃなくて、やっぱりゲームを作り続けていきたい。世界中で遊んでもらって楽しいって思ってもらえるゲームを作り出していくことが自分たちの目標でもあるしね。

そうですよね、うん。

森下 アレが流行っているから同じようなものを作ろうじゃ、やっぱりダメでね。いかに自分たちで独自の遊びを生み出すか。人間の発想というものは自分の実体験からしか出てこないですからね。見たものや聞いたもの、自分の体験してきたいろんなことの中から、ゲームデザインっていうものを考えていく。新しい遊びの体験とか、今まで体験したことのない遊び方とか、常にそういうものを自分の中ですごく意識してますね。だから、ハズすときはハズすわけですよ。

ああ、なるほど。

森下 ハズれるのが怖くないんですかとか言われることもあるんですけど、ハズすのが怖かったらパクればいいわけです。でも、それじゃダメですよね。だから、僕は「ハズれるのは怖い」と思ってしまうことの方が怖いです。

チャレンジできなくなりますよね。

森下 そうですよね。チャレンジをできなくなるほうが怖いって思います。

最後に新作のことについてお伺いしたいと思います。まず『LET IT DIE』ですが、海外での配信が先行し、日本では3月の導入になりました。その点はどのような意図があったのでしょうか?

森下 できる限り日米同時、世界同時スタートを考えて開発と調整を行ってきたんですが、最終的には欧米からの配信を先行しました。実はこれには理由があって、『パズドラ』の時の反省材料があるんです。

反省材料ですか?

ガンホーフェスティバル2015年ステージ

欧米での展開の事例を日本での展開に活かす

森下 そうです。『パズドラ』は日本での導入の後、海外で展開しました。もちろん、海外での売り上げの規模は大きく、今でもその売り上げの貢献度は会社にとって貴重です。しかし、仮に海外で同時リリースしていたらどうだったろうかという点をずっと考えていました。

その点を考えて、今回の『LET IT DIE』ではまず海外……特にアメリカでの導入を前提に進めてきました。アメリカはやはりパブリッシャーにとっては大きな魅力のあるマーケットなんですが「アメリカ・ファースト」の国なんですよ。だから、この『LET IT DIE』はアメリカ市場を最も重視して作りましたというのがやはり重要だと思ったんです。

森下 そのため、まずは海外……この場合は欧米で導入して、彼らの支持を得てから日本で展開するということを考えていました。展開してみて思ったことは、欧米は面白いなら面白いと反応がダイレクトでストレートなので、とても分かりやすいということです。あの真っすぐさはいいですよね。また、日本での展開も欧米での展開から学ぶところが多く、その結果を踏まえることができたので良かったと思います。

ちなみに『LET IT DIE』の運営はどのようなシステムを取っているのでしょうか。例えば更新のタイミングは、どの時間帯を基本に考えているのでしょうか?

森下 『LET IT DIE』は全世界同時サーバーなので、運用としてはシンプルなんですが、基本的な更新タイミングはアメリカの時間帯に合わせています。だから、「生放送」もアメリカのホットな時間帯である夜に配信しているんです。日本時間ではお昼の12時だったりするので、日本で生放送を観れる人は限られてしまうんですけど、その点では世界基準と言うかアメリカ基準で更新しています。ただ、番組内容はあくまでも日本スタイルで、日本のギャグ的な番組進行をしたり演出をしたりしています。カスタマーサービスも海外の拠点でやっていますが、あとは基本日本での展開です。やはり海外から学ぶところはたくさんありますね。

スタッフに恵まれています。本当にプログラマーがよくやってくれました。

恒例の参加行事 浅草サンバカーニバル2013にて

「対戦モード」を追加実装した『パズドラレーダー』についても聞かせてもらえますか。

森下 実は、最初は別の名前で作っていたんですよね。でも、位置情報を使った遊びって、やっぱりやっている人がいないと面白くないじゃないですか。それで、「じゃあ『パズドラ』でやってみようか」ってなったんです。

ただ、位置情報を使うといっても、どこそこに行かなきゃみたいな、長い距離を歩き回ってどうこうするものにしようとは全然思っていませんでした。そもそも日常生活をゲーム化できないかなっていうのがあって、人間は平均すると半径5キロメートルくらいしか行動範囲がないらしいんですよ。だから、そのくらいの中で遊べるゲームを。ただ、対戦は最初から入れようと思ってました。

特に大変だったのはどこですか?

森下 一番苦心したのは『パズドラ』のパズルの部分ですね。実はリリース1週間前にストップをかけたんですよ。これじゃダメだって。何でかというとパズルのアクション部分が、本家というか元の『パズドラ』からかけ離れていたんです。

だけど、これがプログラム的にはもう限界みたいな話で、「限界か、しょうがいないか」「普通の人がやる分にはそんなに違和感ないかな」とも思ったんですけど、ずーっとモヤモヤしてたんですね。で、リリース前にやっぱダメだって。「ここでこだわりを捨てちゃダメだ」「とにかくスケジュールをずらしてでも直すぞ」って言ったら、プログラマーが「なにぃ~~!?」ってなって(笑)。

ああ~(笑)、でも、それはそうなるでしょうね。

森下 それでも最後までこだわってイチからプログラムのコードを全部見直してくれて、「原因がつかめたかも」みたいなメッセージがきたんですよ。「マジかあ!」ってなりましたね。それで、「すぐに直させまーす」ってなったんですけど、原因となっていた箇所はたったひとつ、たった1行だったんです。それをプログラマーが膨大なソースコードの中から見つけ出してくれたんです。

素晴らしい話ですね。

森下 スタッフに恵まれています。本当にプログラマーがよくやってくれました。ここはぜひ書いておいてほしいですね(笑)。

分かりました。本日はありがとうございました。

撮影 / 北岡一浩 取材協力 / 仁志睦

著者プロフィール:黒川文雄【インタビュー取材】

くろかわ・ふみお
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDEにてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japan(現LINE・NHN PlayArt)にてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。アドバイザー・顧問。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。株式会社ジェミニエンタテインメント代表。DMMオンラインサロンにて「オンラインサロン黒川塾」を展開中。
黒川塾主宰。ゲームコンテンツ、映像コンテンツなどプロデュース作多数。

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