90’s ホイチョイ・ムービーで時代の先を行くプレイボーイを演じた別所哲也。当時の撮影秘話や馬場康夫監督への想いを語ってもらった
ホイチョイ・ムービーは見たら必ずその時代の香りがする映画って、そういうものだとも思うんですよね
ご出演されたホイチョイ作品『波の数だけ抱きしめて』『メッセンジャー』をあらためてご覧になったり、振り返ったりされることはありますか?
なかなかないですね。例えばテレビで放送されていたり、雑誌などで特集が掲載された時に、友人から懐かしいのが出てたよっていうふうに連絡が来るくらいですかね。自分から思い出してみるということはほとんどないです。
今年ちょうど50歳になったんですが、ホイチョイ・プロダクションズの作品に出演していた頃は自分の青春の1ページとも言うべき時期でしたね。当時アメリカの映画に出演をしていたんですが、ハリウッドから日本に戻ってきた翌年に『波の数だけ抱きしめて』に出させてもらったんです。
なので、日本の映画に出演するということが非常に新鮮で。織田裕二くんとか中山美穂さんとか、松下由樹ちゃんとか、同世代、もしくはちょっと下という同じような空気感の中にいた人たちと一緒に作ったというか、参加させていただいた映画なので、僕の中で非常に強烈な思い出ではありますね。
青春という言葉がでましたが、撮影現場もそういう雰囲気だったんですか?
現場もそうでした。撮影で宿泊する時にみんなで卓球やったりとかしましたね。出演者がほぼ同世代なので和気あいあいという雰囲気で。
湘南にミニFM局を作るという映画でしたが海のシーンは江の島で撮って、ミニFM 局があるビーチハウスは千葉の千倉温泉で撮ったんですよ。だからしょっちゅう江ノ島から横須賀市の久里浜へみんなロケ車に乗って、そこから出ている東京湾フェリーで千葉の木更津から千倉温泉へと向かってましたね。当時、まだ東京湾アクアラインが開通していなかったので高速道路が使えず、大移動でした。
江ノ島で3、4日撮って、次は千倉で1週間撮るとか。そういう撮影の日々でした。
ちょっと合宿っぽいですね(笑)。
そうです、“波数”の現場は本当にそうでしたね。
“波数”の最大の成功はキャスティングだと思っています。別所さんが吉岡役をやらなければ、あの映画は全然違うモノになっていたはずです。そもそもどういう経緯で出演のお話が来たんですか?
その経緯はまったく僕はわからなくて、マネージャーから次にこの日本でやる仕事でこういう仕事があるよって言われて出演させてもらったんです。
ホイチョイ・プロダクションズが製作した『私をスキーに連れてって』と『彼女が水着にきがえたら』は当然観ていましたし、海辺のミニFM 局が舞台で自分が演じるのは広告代理店の男だということなどがわかっていくにつれて、その2作に続くすごい素敵な青春映画になりそうだなという予感がしてきたんですよね。
ほぼ同時期に柴門ふみさん原作の映画『新・同棲時代』にも出させてもらって、その2つの作品で僕は日本アカデミー賞の新人俳優賞をいただきました。

当時、石田純一さんを除けば、肩からセーター&素足でローファーが若手俳優の中で一番似合っていましたね。
ありがとうございます(笑)。確かにあの当時はバブル期の後半で諸先輩方がバブル時代を謳歌していて、馬場監督自体がまさにその申し子のような方ですけど、その次の世代の僕たちが憧れている世代でした。
僕は“波数”の登場人物の中では社会に出た広告代理店の広告マンという先輩の役でちょっとお兄さん目線で登場して、中山美穂さん演じる真理子のことが好きになるという、魅力的でチャーミングなキャラクターだったんですよね。僕は馬場監督自身が自分を投影していたキャラクターなんじゃないかなとか思ったりするんです。
特に業界にいらっしゃる方がこの映画を見ると、やっぱり僕がやった役柄の目線で登場人物たちを見ている。女子目線や男子目線というのとはちょっと違う、ちょっと先輩、ちょっとビジネスがわかっている、でも夢も追いかけているみたいなところが現実とシンクロしていたからだと思うんですけど。
実際に撮影の時に指示やアドバイスはあったりしたんですか?
映画というのは上映されるのは翌年だったり、翌々年だったりすることが多いわけで、撮影時に流行していたものが公開のタイミングになると時代遅れになっている可能性もある。馬場さんは、時代考証というか、当時の音楽やちょっとした小物とか、それから洋服など、ちょっとこう、何メートルか何歩か先を行っている感じで、トレンドを作るというか、つかんでいるというか、そういう感じでしたね。
僕らは当然演技に向かい合っていて、監督の意見も聞きたいこともあったんですが、馬場さんはどちらかというとキャスティングした時点で、役はもうあなたたちのものだから演技は任せたというスタンスでした。俳優としては、当時は不安でもあったんですけど、今にして思うとめちゃくちゃ信頼されて任されてたのかなっていうか。
よく撮影終わった後に温泉で僕と松下由樹ちゃんが卓球やろうぜとか言ってるのに、織田くんは役柄と同じすごく真面目なタイプで本読みしようよと誘ってきたり。僕なんかは、え? まだ本読みやるの? 別に監督が招集しているわけじゃないしという感じでした。
美穂ちゃんとはずっとサーフィンの練習を一緒に撮影前にしていたので、そこでコミュニケーションをとることが多かったですね。ただ、作品の中でだんだん知り合っていく役柄でもあったので、あんまり最初に仲良くなるというのは、役作り上どうかなというのは僕は思っていたりしたんですけど。
先日『私をスキーに連れてって』で高橋ひとみさんにお話を聞いた際も、馬場さんは演技に関してはあまり深く言われなかったとおっしゃっていました。
まさにそうでしたね。もう一回撮る時も、僕たちの演技なのか、背景にある小物のことだったのか、カメラワークだったのか、どこが良くてどこが悪かったのかというのは現場ではありました。
演技者に対して距離を置いて、一目置いてくださっていたのかなと大人になって思うんですけど。あと例えば、着る洋服とかそのブランドとか小物とか。そのシチュエーションですでに語られている情報がキャラクタライゼーションに直結しているので、そこから読み取るっていう作業というのもありましたね。
すごく興味深いですね。だからこそああいう演技というか、新鮮なものが生まれたのかなという感じもしますし。
ホイチョイ・ムービーって、どの作品もよくトレンディドラマの延長と言われたり、時代を先取りしてでも真空パックしたみたいで見たら必ずその時代の香りがするという言われ方をするじゃないですか。
確かにそうだなとつくづく思います。同時に映画って、そういうものだったりもするのかなとも思うんですよね。
インタビュー:安川達也/ 文:油納将志 / 撮影:島田香

『波の数だけ抱きしめて』
Blu-Ray
フジテレビ/小学館/ポニーキャニオン
4700円+税
c1991 フジテレビ/小学館
別所哲也
静岡県出身。’87年より舞台俳優として活躍。’90年に日米合作映画『クライシス2050』で映画デビューを果たした。’91年公開の『波の数だけ抱きしめて』と『新・同棲時代』で日本アカデミー賞・新人俳優賞を授賞する。日本におけるショートフィルムの紹介にも力を入れており、『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア』の代表も務めている。